仕事をして給料や報酬を得る際に発生する『所得税』は、日本以外の国にも存在します。日本の所得税は、世界と比べて高額なのでしょうか?所得税における日本と外国の共通点・税率の違い、外国のユニークな税金まで気になるポイントをまとめて紹介します。
日本と世界の所得税
日本と世界の所得税には、どのような共通点があるのでしょうか?まずは、日本と世界の所得税の特徴をチェックしましょう。
どちらも所得に課税される税金の一つ
日本と世界の所得税はどちらも、所得に対して課税される税金です。『所得』と聞くと、仕事をして得られる収入をイメージする人もいるでしょう。
しかし、所得は収入から必要経費を差し引いた額を指しているため、所得税は収入にそのまま課税されるわけではありません。日本における会社員の必要経費には、収入額に応じた『給与所得控除』が該当します。
所得に課税される税金には『法人税』もありますが、所得税とは異なるので注意しましょう。個人に対して納税義務が発生する所得税に対し、法人税は法人企業の所得に課税されます。
多くの国で「累進課税方式」の税率を採用
億単位の所得を得ているスポーツ選手や有名人・起業家などは、高額な所得税を支払っています。
日本では、所得が500万円ほどの人にかかる所得税が20%なのに対し、億単位の所得がある人には45%の所得税が課せられるのです。このように所得が上がるにつれて所得税率が高くなる理由は、所得税に採用されている『累進課税方式』にあります。
累進課税は、所得が多い人ほど税率が高くなる仕組みです。国民それぞれの所得に応じた税金を納めてもらう目的から、日本以外にも多くの国で累進課税方式が採用されています。
日本の所得税は世界より高い?
「日本の所得税は高すぎる…」という話を聞いたことはありませんか?世界の所得税から、日本の所得税が本当に割高なのかを確かめてみましょう。
特別高いわけではない
日本の所得税の税率が特別に、国際社会と比べて高いわけではありません。下の表は、日本・アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスの個人所得税にかけられる最低税率と最高税率を整理したものです※。
国名 | 最低税率 | 最高税率 |
日本 | 5% | 45% |
アメリカ | 10% | 37% |
イギリス | 20% | 45% |
ドイツ | 0% | 45% |
フランス | 0% | 45% |
表からも、日本の所得税率が特別に高いとはいえないと分かります。なお、1988年度の日本の所得税率は、最低税率が10%・最高税率は60%でした。以前と比べれば、日本の所得税率は大幅に下がっているといえるでしょう。
※表の税率:日本は2022年度・その他の国は2022年1月時点の税率
所得税がない・安い国もある
世界には所得税自体がない・税率が低い『タックス・ヘイブン』と呼ばれるような国もあります。
例えば、東南アジアにあるボルネオ島の北部に位置する『ブルネイ』では、ブルネイ国民に限り個人所得税がかかりません。
シンガポールの個人所得税率は0〜22%です。香港の給与所得税では2018年より、2〜17%の段階的な累進課税と従来の標準税率15%の選択制になっています。
タックス・ヘイブンは、所得税だけではなく法人税の税率も下げているのが特徴です。所得税や法人税の税率を下げ、他国から富裕者や企業を誘致して自国を発展させる狙いがあるとも考えられます。
ただ、『OECD(経済協力開発機構)』が税金逃れを助長するとして、タックス・ヘイブンに対して税制の見直しを要求していることも覚えておきましょう。
『CRS(共通報告基準)』と呼ばれる共通の基準を設け、各国の税務当局が連携して口座情報を提供できるようにという動きもあるため、タックス・ヘイブンに移住して節税図るのは現実的に難しくなってきました。
参考:
タックス・ヘイブンを利用した脱税及び租税回避行為への対策|参議院
共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換に関する情報(「CRSコーナー」)|国税庁
所得税を含めた国税の主な使い道
所得税は、納税者が納付書を使ったり給与から天引きされたりして支払う『国税』です。所得税を含めた国税はどのように使われているのでしょうか?国税の主な使い道を二つ紹介します。
年金や医療、介護などの社会保障
国税の主な使い道は、国民の生活を支える社会保障費の財源です。2021年度における国の支出を示す『歳出』では、年金や医療・介護などの社会保障関連費が全体の約33%を占めています。
日本には『国民皆保険』と呼ばれる制度があり、国民は社会保険や国民健康保険などに加入する義務があります。これにより、小学生から59歳までの国民は、健康保険証を提示すると3割の自己負担で医療を受けられるのです。
『国民皆保険』や基本的に65歳以上から受給できる『公的年金』も、社会保障に含まれています。
国の借金返済&利子の支払い
国税のもう一つの使い道は、『国債』と呼ばれる国の借金返済や利子の支払いです。
「日本は借金大国だ」という話を耳にしたことはありませんか?どれぐらい借金をしているかで国の財政状況を把握できる『GDP(国内総生産)』と国債の額を見ると、日本の債務残高がGDPの2倍を超えていることが分かります。
これは主要な先進国の中でもずば抜けて高い数値で、2022年度末には国の借金返済や利子の金額が1,026兆円に達すると予想されているほどです。
社会保障費や国債・利子の支払い以外には、教育費や防衛費・公共事業、都道府県や市区町村を支援する『地方交付税交付金』などに使われています。
世界のユニークな税金を紹介
日本にある多種多様な税金の中には、温泉に入る際に支払う『入湯税』のようなユニークなものが存在します。世界にも日本のようなユニークな税金があります。世界のユニークな税金には何があるのでしょうか?
ハンガリーの「ポテトチップス税」
ハンガリーには肥満を防止する目的の『ポテトチップス税』があるようです。ポテトチップス税といっても、ポテトチップスだけに課税されるわけではありません。肥満を防止するために考えられた税金なので、塩分や糖分の高いスナック菓子やジュースにも課税されるとされています。
アメリカにある一部の州で導入されたことのある『ソーダ税』や、デンマークで過去に存在した『脂肪税』なども、ポテトチップス税と同じように肥満を防止するための税金です。
参考:大村大次郎「世界を変えた『ヤバイ税金』」イースト・プレス、2022年
イギリスのロンドン市「渋滞税」
イギリスのロンドンでは『渋滞税』が導入されています。渋滞が以前から問題とされていたロンドン市内において、公共交通機関の利用を促し、交通状況を改善する目的でスタートした税金が渋滞税です。
ロンドン市にある特定のエリアを、決められた時間に自動車で通行すると渋滞税が発生するとされます。なお、ハイブリッドカー・電気自動車などの環境にやさしい車や、バイク・バス・タクシーは渋滞税の対象外です。
構成/編集部