かねてから日本は世界と比べて「寄付意識が低い」と言われ続けてきた。確かに日本は、寄付文化が米国ほどは根付いていない。しかしここへ来て、SDGsの意識の高まりや社会情勢から、日本人の寄付意識が高まってきているといわれる。
また、現在企業や組織で活発に進められているSDGsのゴール達成への取り組みだが、寄付意識の向上は必要なのだろうか。もし必要であるならば、寄付意識を向上させるには? 専門家の意見を聞いてみた。
日本人の寄付意識はまだまだ低い
日本と世界各国との寄付金額には、どのくらい差があるのだろうか。
特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会による「寄付白書2021」によれば、2020年の日本の個人寄付総額は、1兆2,126億円で、2016年の前回調査と比較し、7,756億円から156.3%の増加となり、東日本大震災以降、初めて寄付額が1兆円を越えたという。
一方で、各国統計と比べると、2020年のアメリカの個人寄付額は、3,241億ドル(34兆5,948億円)で前年より144億ドル増加。イギリスも増加傾向にあるといい、個人寄付額は日米英いずれもパンデミックにより増加トレンドにあるようだ。
GDPに占める割合を各国で比較すると、日本は0.23%、アメリカ1.55%、イギリス0.26%。アメリカは突出して高く、それと比べれば日本は低いことが分かる。
寄付文化の発展を目指す「日本寄付財団」代表が考える日本の寄付意識
日本には、国内の寄付文化の発展を目指して活動している団体がある。その一つが、一般財団法人 日本寄付財団だ。2021年に立ち上げられ、非営利団体への支援活動を通じ、日本の寄付文化を新たなステージにけん引し、寄付を通して日本及び世界の未来をより良くする文化醸成を目指している。
日本の寄付意識は、海外と比べて低いといわれるが、その差の原因とは? 代表理事 村主(むらぬし)悠真氏は次のように述べる。
【取材協力】
村主悠真氏
一般財団法人 日本寄付財団 代表理事
1982年東京都出身。19歳大阪大学在学中に起業し、2006年までに手掛けていた事業を売却。 24歳でプライベートファンドを設立し、国内外の様々な事業を展開。30歳から社会貢献活動を開始。国内外の貧困問題を中心に寄付活動を広げる。複数の一般社団法人やNPO法人の運営に携わったのちに、2020年 村主現代芸術文化財団設立・2021年 日本寄付財団設立。「寄付」を起点に日本から世界平和を目指し、非営利の世界に資本を流入させるべく活動中。
●日本が海外と比べて寄付意識が低い理由
「そもそもの前提としての比較が海外という広すぎる枠になってしまっているので、正確な比較は難しいとは思うのですが、アメリカの市場が日本と比べて巨大なので、それに応じて寄付の割合が大きいというのがまず最大の理由なのかなと思います。また、他にも文化の違いというところも大きいでしょう。
ただそういったものの他に日本が抱える問題点としては、『寄付がネガティブに捉えられてしまう』ということがあると思います。日本では寄付をした方に対して『売名行為』のようにとられることもありますが、これは世界的に見ても珍しい現象です。著名人が寄付をした際に炎上しているのを目の当たりにすると、人間の行動特性として、寄付行為自体がどこかネガティブな印象になってしまっている側面もあるだろうなとは思います」
●今後、日本で寄付意識が高まるための方策
今後、日本で寄付意識が高まっていくためには、どんな方策が考えられるだろうか。
「本来的には、寄付行為というのは物理的なリターンがあった瞬間に寄付と認められないという税制の問題があるのでむずかしいのですが、やはり寄付行為に対するメリットがどこまで引き出せるかがポイントだと思います。例えばふるさと納税をするとお礼の品がもらえるといったように、その返礼品が目的だったとしても、少しでも非営利セクターにお金が回ることで助かる人が多いので、文化や空気を醸成していく動きには当然、挑戦しつつも、税制控除の拡充など、寄付者への直接的なメリットを増やしていくことは重要だと考えています」
●SDGsとの関係
ところで、現在、SGDs(持続可能な開発目標)が国内でも活発に取り組まれており、社会貢献意識が高まっている。寄付意識とはどのような関係があるだろうか。
「仮にSDGsの全ゴールが正しいゴールで、そこに向かうことが正しいと定義するのであれば、全人類の社会課題意識の高まりは必須と考えます。その動きを早めるためには、営利事業だけでは足りないことは明確なので、寄付やボランティアといった非営利領域での人々の尽力が鍵となると思っています」
●ビジネスパーソンへの寄付に関するメッセージ
一人のビジネスパーソンとして、寄付に関して、今後どのように向き合っていくといいだろうか。村主氏に意見を聞いた。
「一人一人の家庭の経済的な余裕やスタンスなどは、千差万別だと思いますし、必ずしも現金の寄付というのが唯一解ではありません。
ただ、家族や仲間だけではなく、国内で被災した方々や、知り合いの友人で病気で苦しむ人々、遠く離れた国で戦争や貧困で苦しむ人々に思いをはせ、周りにその気持ちや惨状を伝え、共感者を増やしたり、何かを送ったり、何か具体的な行動に一つでも移す、その小さな動きが連鎖し大きなムーブメントにつながることが世界の真の恒久的な平和につながることだと思います。少しでも社会課題や貧困や平和といったことに興味のある方は、その一歩を踏み出していただけたらと思います」
寄付アドバイザーが考える日本の寄付意識
続いては、寄付アドバイザーの河合将生氏に見解を尋ねた。河合氏はNPOの組織基盤強化のコンサルタントとして各団体の取り組みに伴走し活動を行っている。
海外と比べた日本の寄付意識について、どのように考えているのだろうか。
【取材協力】
河合将生氏
NPO組織基盤強化コンサルタント office musubime代表
NPOの組織基盤強化、組織診断・評価、ファンドレイジング、マネジメント支援、ファシリテーション等、各団体の取り組みに伴走するコンサルタント。寄付アドバイザー。NPO支援組織、フリースクール、子ども・子育て支援、国際協力など、複数のNPOに役員やアドバイザーとして関わる。
https://blog.canpan.info/musubime/
●日本が海外と比べて寄付意識は必ずしも低いとは言い切れない
「確かに日本ファンドレイジング協会による『寄付白書2021』の調査結果から、寄付額では日本とアメリカに差があるのは事実ですが、必ずしも日本の寄付意識が低いということにはならないと思います。
なぜなら、日本特有の寄付は、根付いていると思われるからです。例えば、自治会など地縁組織への寄付文化です。地域住民のつながりの中で『みんなに合わせて(同調性)』寄付をしたり、宗教やお祭り、地域の行事など、日常の生活の営みの中で根付いたものは、習慣として寄付をしたりと、地域での生活の参加の一つとして行われています。主体的であるかどうかは別にして、コミュニティへの帰属意識や仲間意識、参加意識を感じる機会を寄付が果たしている面もあります。
それは調査結果からもわかります。内閣府の調査『2019年度市民の社会貢献に関する実態調査(2020年6月)』では、寄付の動機として『社会の役に立ちたいと思ったから』が59.8%、『町内会・自治会の活動の一環として』が36.2%となっています」
●SDGsと寄付意識との関係
「一方で、SDGsのゴールに象徴される『社会課題やテーマに対する関心、その活動そのもの』に対する寄付意識はどうかと考えると、『寄付白書2021』や内閣府の調査から、『地縁組織や地域生活』の中での寄付に比べて低い結果となっています。
今後はSDGsそのものや、掲げられた社会課題とゴールが、日常生活の中で宗教や地域行事と同様に『自分ごと』として捉えられ、寄付やボランティアなどを通して、活動に関心をもったり参加したりしてSDGsに関わっていく意識を喚起し、高めていく必要があると思います」
●今後、日本で寄付意識が高まるための方策
今後、日本で寄付意識が高まるには、誰がどのような施策を行う必要があるだろうか。
・寄付を募集する側が行うこと
「先の内閣府の調査では、寄付の妨げになる要因として『経済的な余裕がないこと』(50%)に次いで、『寄付先の団体・NPO法人等に対する不信感があり、信頼度に欠けること』(24.1%)、『寄付をしても実際に役に立っていると思えないこと』(22.6%)が挙げられています。両要因の回答は前回調査と比較すると減少していますが、寄付を募集するNPO等の側が行うこととして、活動内容の発信に加え、信頼できる団体であることや寄付がどのように役立てられ実際に使われているのか、寄付によりどのような成果や社会の変化につながっているかを意識した情報発信・情報公開が求められています。また、そもそもどんな団体がどんな寄付募集をしているのか、情報にアクセスしやすくする工夫も必要だと考えます。
また、寄付をすることは、SDGsの理念である『誰も取り残さない』ことを体現する行動でもあることを、市民に伝えていくこと、そして、実際に寄付をしている著名人から身近な人までいろんな人とその思いや声を紹介していくことは効果的な方法だと思います」
・中長期的な取り組み
「中長期的な視点に立った取組みとしては、子どものころから寄付に触れることが大事だと思います。寄付について学んだり、学校だけでなく家族や友人と話したり、自分で寄付先を選んで寄付をしてみたり、寄付だけでなくボランティアも含めた社会貢献に関して教育と経験をする機会をつくっていくことも重要だと考えます。
実際、日本ファンドレイジング協会では、『寄付の教室』や『社会に貢献するワークショップ』といった寄付教育・社会貢献教育の推進を行っていたりします。
社会人に対しては、企業の社員に対する副業の推進やボランティア休暇制度の推進、社員の寄付に対して企業が同額を上乗せする『マッチング寄付』の取り組みなどの紹介や、さらに人生の集大成としての寄付ともいえる『遺贈寄付(レガシーギフト)』など、寄付にはさまざまな形や選択肢があることを伝えていくことも大切だと思います。
お金だけでなく、物品寄付や古本や古着などの寄付、ポイント寄付なども含めて寄付の多様なメニューや選択肢があることを知ることが、関心を高め、行動に移しやすくするために必要ではないでしょうか」
●ビジネスパーソンへの寄付に関するメッセージ
一人のビジネスパーソンとして、寄付に関して、今後どのように向き合っていくといいだろうか。河合氏に意見を聞いた。
「寄付をすることは『社会に参加していくこと』であり、寄付先の団体が取り組む活動や社会課題を知る・学ぶ機会でもあります。寄付をすると寄付者にはNPOなど寄付先の団体からニュースレターやメルマガ、年次報告書などが届きます。
これまで知らなかった世界や社会の動向、社会課題と課題解決に向けた取り組みについて、最新の情報やメディアでは報道されていない現場で活動する団体だからこそ持っている情報や生の声に触れるきっかけとなり、ご自身の世界観や考え方を広げる機会になります。
さらに、寄付者を対象とした交流会も開催されている団体もあり、問題意識や関心、価値観を共有することのできる場でもあります。
SDGsのゴールに象徴される社会課題は、すぐに解決できる課題はなかなかないことから、自分ごとにしにくいかもしれません。しかし、実現したい夢や解決したいことに、寄付という形で託すことで、一緒に活動に参加している気持ちになったりするものです。一歩を踏み出すことは『社会への役立ち感』『自己有用感』や『自己実現』を感じたり、ご自身の『ウェルビーイング/幸福度』を高めることにもつながります。
他人ごととして放っておけないと感じることから行動に移すことは、ビジネスにも通じるものになるではないでしょうか」
日本人の寄付意識は必ずしも低いとは言い切れないものの、社会問題への関心と寄付をしようという主体性は、高いとは言えない面がある。そういう時代だから、と無理に寄付をするというのではなく、まずは寄付がどのような意味があるのか、自分なりに解釈することが重要といえそうだ。
出典:
認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会「寄付白書2021」プレスリリース
認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会 事業紹介 調査研究(寄付白書)
内閣府「2019年度 市民の社会貢献に関する実態調査」
取材・文/石原亜香利