頼朝が築いた鎌倉は、彼の死によってどう動く?
今年1月9日より放送されている、NHK総合の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が折り返しに差し掛かった。
ここに至るまで、じっくりと源頼朝(演:大泉洋)の流人時代から、北条時政(演:坂東彌十郎)が治める北条一族や三浦、比企一党の力を借りつつ平家の討滅や奥州平定。
果ては頼朝の弟である源義経(演:菅田将暉)追討など、鎌倉殿や征夷大将軍と呼ばれるまでに至る頼朝の生涯とそれを取り巻く様々な勢力とその思惑が丁寧に描かれてきた。
脚本は三谷幸喜。
特徴的なコメディ要素が各所に織り交ぜられつつも、時代背景的に親兄弟であっても敵同士になることが珍しくない情勢なため、突如息が詰まるようなシーンもこれまで多数描かれてきた。
心底頼朝を信頼していたが、自身が擁する勢力があまりに強大だった故、その頼朝に脅威とみなされ梶原景時(演:中村獅童)に斬られて非業の死を遂げた上総広常(演:佐藤浩市)などは、その一例である。
その頼朝が死んだ。
第26話「悲しむ前に」では、落馬したまま意識を失った頼朝が天寿を全うしたことで、拠点である鎌倉が揺れる様子が丁寧に描写されていた。
そして物語は、まさにここから本当の幕を開けることになる。
鎌倉殿の13人、合議制が発足するも…
頼朝の死により、二代目鎌倉殿として息子の頼家(演:金子大地)が即位した。
史実では頼家は身体が弱いとされていたが、本作では経験がまだ十分でなく、政治にも不勉強な部分はあるが、いわゆる無能という描かれ方はしていない。
しかし素直に他者を頼れない性質が強調されており、これによって頼朝時代からの臣下とも折り合いがすこぶる悪くなっている。
言ってみればここまでの本作の主人公の1人として頼朝が活躍してきたが、頼家は主人公というよりも、偉大過ぎる父親の立場を引き継いだことに苦悩する二代目社長のような立ち位置をあたえられている。
言うまでもなくこのドラマの主人公は北条義時(演:小栗旬)。
当初は争いも対立も好まない性格だった義時も、作品も中盤に差し掛かった現在では清濁併せ持つ有力な御家人として存在感を発揮しており、宿老の1人として、二代鎌倉殿を支える立場に押し上げられてしまった。
その義時も含めた、頼朝の宿老13名。これがのちに「十三人の合議制」と呼ばれる集団采配体制を形作ることになる。
タイトルの『鎌倉殿の13人』とは、この13名のことを指す。
しかし、この13人。決して一枚岩ではない。
北条一族とは何かと諍いも多く、特に時政とは犬猿の仲で、徐々にその対立の度合いを深める比企一族の筆頭、比企能員(演:佐藤二朗)。
他の合議制メンバーとは比較的折り合いの悪い梶原景時。
景時に侍所別当という役割を奪われたことを根に持つ和田義盛(演:横田栄司)など、とにかく13名それぞれに思惑を秘めて行動している。
本作はまさに、タイトルにある合議制が中盤になってやっと登場する段階に至ったもので、言ってみれば今までが序章みたいなもので、ここからが本番とも言えるのだ。
もちろん、これまでにも見逃せないドラマが数多く描かれてきたが、ここからが凄いのだ!
13人それぞれの策謀の火花飛び散る苛烈な権力闘争勃発!
これまでの『鎌倉殿の13人』では、頼朝を中核に義時が汗と涙を流しながらも奮闘し、平家や木曽、奥州藤原氏との対決といった華々しい戦いが展開。
その一方で義経など肉親を手に掛ける決断をすることもある頼朝の手足となって、義時が動くなどして、血なまぐさい時代の雰囲気が丁寧に再現されてもいた。
ところが、向かうところ敵なしとなった鎌倉も、その頼朝の突然の死が御家人たちの不安や焦燥、野心を煽ることとなる。
ここからの本作は、まさに頼朝がいなくなった後、有力な家臣たちによるパワーゲームが毎週のように繰り広げられるわけだ。
敵対勢力と戦をするという、いわゆる大河ドラマおなじみの構図から、同じ勢力同士での権力闘争に移行するわけで、13名それぞれが自分の立場や一族の安寧のために仲間同士だった者と対立することになる。
つまり、戦いの質がここから一変すると考えるのが妥当というか、物凄く胃が痛い対立を、視聴者は見ることとなってしまうのである。
史実に明るい方はご存じだろうが、「十三人の合議制」は1199年に発足し、1200年には解消されている。
その理由は何なのか。これをドラマとしてどう描写するのか。
この辺りも大変興味深いところで、あまり歴史に詳しくないという方にも、是非ここからの展開を楽しんでいただきたい。
ざっくばらんに言えば、今から観ても恐らくかなり面白い要素ばかりが連発するのである。
とにかくここから視聴する場合に覚えておくべきポイントは2つ。
1つが頼朝という指導者がいたけど、もういないこと。
もう1つが、頼朝がいなくなったことで、その部下たちの数人が、生き残りをかけて本気でえげつない権力争奪戦を繰り広げること。
この2つだけ抑えておけばOKだ。
ネタバレを食らっても面白く、何も知識がなくても面白い。それが『鎌倉殿の13人』!
筆者は人並みに日本の歴史については記憶していたし、元々大河ドラマが好きなので今回のドラマについても、放送前にキャスト発表がされるごとに期待値が増していた。
実際第1話から面白かったし、この記事を書いている時点で27話まで全てリアタイ視聴しているが、やっぱりことの顛末を知っていてもそれは変わらない。
言ってみれば誰それがいつ頃死ぬか分かっているという“ネタバレ”を、小学生ぐらいの頃からずっと食らってるようなものなんだけど、それでも面白いのだ。
三谷脚本の場合、オリジナルキャラクターも登場する大河はこれまでにもあったが、本作では善児(演:梶原善)がこれにあたる。
善児は、元々北条と縁が深かったが頼朝をめぐって対立していた伊東佑親(演:浅野和之)子飼いの暗殺者。
表情がいつも虚ろ、口はぼんやり開いていて何を考えているか分からないのに与えられた仕事を完遂する男で、かと思えばたまに「(畑に植える野菜について)まくわうりなんかがいいなぁ」と意思表示するなど、掴みどころがない男である。
この善児というのは歴史上存在しない男なので、歴史に詳しい人がこのドラマを見ても、本当にその活躍が予想できない。
そして毎回思いがけないところでとんでもない仕事をやってのけるのが善児なので、これから視聴するという方は、オープニングに「善児」とクレジットがあったら身構えておくことをオススメしたい。
そうそう、本作は公式サイトが毎週丁寧にコンテンツや人物相関図を更新しているので、放送後はサイトを訪問して知識をガンガン吸収していくと、ますます来週が楽しみになるぞ!
作品全体の流れで言えば折り返しを過ぎてやっとタイトルにある意味を回収するドラマってなかなかないので、是非ここからでも13名それぞれの去就を見守っていただきたい。
文/松本ミゾレ
編集/inox.