ご存じのとおり日本は、石油、石炭、天然ガスなどの一次エネルギーのうち、9割あまりを輸入に頼っています。電気エネルギーなどに変換する際、約6割が未利用の熱=廃熱として失われ、同時に二酸化炭素として排出されています。
この廃熱を有効活用し、カーボンニュートラル社会へ貢献するチャレンジとして、パナソニックは空調ソリューションによる分散型エネルギー事業へ本格参入することになりました。
【参考】カーボンニュートラルへの取り組み – 業務用空調事業サイトTOP|パナソニック
〝吸収式冷凍機〟にコージェネレーションシステムを組み合わせて廃熱を活用
パナソニックは、「ナチュラルチラー(吸収式冷凍機)」という、ノンフロンで環境負荷の低い空調システムを、1971年より50年にわたり開発、製造、販売しています。こちらは国内でトップクラスの占有率となっています。
【参考】【Panasonic】ナチュラルチラー50周年の歴史と未来に向けて
多くの方は吸収式冷凍機という名前を初めてお目にされたかもしれません。簡単にご説明すると、吸収式冷凍機とは、自然冷媒である水を使った冷房熱源機のことです。冷媒を「蒸発」>「吸収」>「再生」>「凝縮」の4つのサイクルを通すことで冷水を作り冷房するのです。
このサイクルのうち、真空状態で発生した水蒸気を吸収液が吸収するのですが、徐々に薄まって水蒸気を吸収する力が弱くなってしまうため、加熱して吸収液を凝縮する必要があります。この熱源として工場などで出る廃熱を利用(または、コージェネレーションシステムからの熱利用)しようというわけです。
「今まで、二酸化炭素排出量の削減などに関心の高い大規模事業者のみなさまに、吸収式冷凍機をご愛顧いただいておりました。これからは、コージェネレーションシステムと組み合わせることで、カーボンニュートラルや省エネルギーへ関心を高めていくであろう、中小規模の病院や工場、公共施設などのみなさまにもご提案していく予定です。国内で1300億円規模のマーケットとなる可能性があり、グローバルではその10倍規模になるかもしれません」(パナソニック 小松原 宏さん)
パナソニック株式会社 空質空調社 空調冷熱ソリューションズ事業部 業務用空調ビジネスユニット ビジネスユニット長 小松原 宏さん
同社は事業展開に先行して、群馬県の大泉拠点では、設置されている吸収式冷凍機3台に新たに導入したガスコージェネレーションシステム1基(7800kW)を組み合わせて運用をしています。その結果、工場全体でCO2排出量を17%削減し、エネルギーコストは23%削減する効果を得たそうです(2018年度比)。差し迫るカーボンニュートラルへの課題と電力不足への不安を持つ多くの中小規模の事業者、地方自治体の関係者には、無視できない数値ではないでしょうか。
業務用空調ソリューション・エンジニアリングのスペシャリストチームを結成
パナソニックは分散型エネルギー事業への本格参入に向けて、「分散型エネルギー事業推進室」を新設しました。今後は、業務用空調機器やクラウドの導入コンサルティングから運用、アフターフォローまで、エンジニアリング販売会社であるパナソニック産機システムズと連携しながら事業を推進していくことになっています。
分散型エネルギー事業推進室には、室長の榎本英一さんを中心に、廃熱活用技術やエネルギーソリューションのスペシャリストが結集。気鋭のチームが事業の拡大を図ります。
パナソニック株式会社 空質空調社 空調冷熱ソリューションズ事業部 業務用空調ビジネスユニット 分散型エネルギー事業推進室 室長 榎本英一さん
さらに、業務用空調向けのIoTサービス「Panasonic HVAC CLOUD(パナソニック ヒーバック クラウド)」を2022年12月から市場に導入する計画も進行しています。
こちらは吸収式冷凍機の運転効率を可視化してクラウドにより24時間/365日データを監視することで、悪化原因を特定。省エネ自動チューニングを施して消費エネルギーのムダを低減するもので、業界初の取組みとなっています。
50年にわたり私たちの暮らしを支えてきたパナソニックの吸収式冷凍機。こちらにコージェネレーションシステムを組み合わせることで、中小規模の事業者、地方自治体のカーボンニュートラルへの取り組みが加速することになりそうです。
今まで捨ててしまっていた廃熱を、再びエネルギーとして活用する〝空調ソリューションシステムによる分散型エネルギーシステム〟。今後の進展に期待したいものです。
取材・文/中馬幹弘