「老後に必要な資金は約2000万円」、「掛け捨て保険は損」、「老後にマイホームは必須」…そんな老後に関するこれまでの常識は「今では非常識です。時代の変化とともに老後の常識はどんどん変わっています」と教えてくれたのが経済ジャーナリストの荻原博子先生だ。
知らないと大損するという老後のお金について、荻原先生に正しい老後資金について教えてもらおう!
老後の不安は正しく知ることで解消される
――老後についてはまだ遠い先の話だと思いつつも、漠然とした不安があります。知っておきたい老後のお金について、教えてください。
荻原先生 お金のことは難しいと誤解される方は多くて、お金の知識は欲しいけれど、どうやって学んだらよいか分からない人もたくさんいらっしゃいますね。
このほど、そうした老後のお金についてわかりやすく解説した「知らないと大損する 老後の『お金』の裏ワザ」(SBクリエイティブ刊、定価990円)を上梓しました。ごく普通の平凡な一家が主人公となった漫画による解説もついていて、お金に関する新しい常識や、老後のお金の裏ワザについて解説しています。
お金のことは、知っているのと知らないのとでは、将来に大きな差がつきます。早めに準備しておけば、困ったことが起きてもラクに乗り越えられるし、トクすることもいろいろとあります。特に老後に不安を持っている人は今から正しく準備しておけば、それほど恐れることはありません。
もう無い「老後2000万円問題」
――わかりました!でも、よく知らないのですが、確か、老後のためにはお金が2000万円ぐらい必要なのですよね?
荻原先生 その「老後の2000万円問題」という言葉、インパクトがありましたね。多くの方に強く印象付けられていると思います。実はもう解消されてしまって、「老後2000万円問題」は無いのです。
2020年に発表された総務省の会計調査を見ると、老後の実収入から実支出を差し引いた差額は月額で1111円のプラスなのです。老後30年生きるとして、約40万円も黒字になっています。これは国からの一律10万円の給付金や、コロナ禍の外出自粛で消費が減ったためだと分析されています。
このことから老後の「2000万円問題」は、ちょっと節約すればほぼ解消されると言えるのですが、だからといって「老後資金は不足しないから安心してください」ということではありませんよ。
老後のお金に関しては一般論は疑うべし
荻原先生 とはいえ、いくらコロナ禍で社会や経済状況が変化したからといって、いきなり「老後の預金が2000万円必要だ」という話から、「そんなお金はもう必要ない」という話へ変化するのは、おかしなことだと思いませんか?
私はこうした一般論ばかり気にするのはナンセンスだと思います。一般論に惑わされるのではなく、「自分の老後にはいくら必要で、そのためにどうすればそのお金を確保できるか」という個人論が重要なのです。
老後のお金に関しては「一般論は疑ってかかる」のが重要なポイントです。
老後の生活についても、孫や子ども達と普通の生活を送りたいと思う人と、豪華な世界一周クルージング三昧を楽しみたい人では、必要なお金に差が出てくるのは当然です。
「あなたのお金」は「あなたのライフスタイル」から導き出すものであって、一般論で語るのはやめましょうと、新刊書でも真っ先にご紹介しました。
今までの常識はこれからの非常識
――お金の「常識」が変わっているのですね。
荻原先生 そうです。今まで常識だったことがこれからは非常識になるかもしれないのです。たとえば、今から30年前は「子供が生まれたら郵便局の学資保険に加入する」のが常識でした。金利が高く、貯蓄性の高い学資保険に加入しておけば満期の保険金が大きく増えたからです。金利が低くなった今は、貯蓄性の高い保険に加入するメリットは全くなくなってしまいました。
むしろ今の常識は保険に加入するならば掛け捨ての方が有利です。
会社の健康保険に加入して保険料を支払っているビジネスパーソンならば、ほとんどの病気がカバーできますし、たとえ大病を患ってしまったとしても、日本では「高額療養費制度」があり、国が医療費の一部を支給してくれます。
歳を取ると病気が増えると心配される方も多いと思いますが、実際、70歳以上の高齢者の自己負担金の上限は5万7600円です。現役世代よりも安くなります。また、75歳以上になると後期高齢者医療制度により、自己負担額はもっと減るケースが増えます。つまり、老後の医療費はそんなに心配しなくても大丈夫なのです。
また、老後に備えて持ち家を確保しようという考え方も、今は少しずつ変わってきています。家は多くの人にとって最大の資産でした。でも、少子高齢化でひとりっ子とひとりっ子が結婚したら、家がひとつ余る時代になったのです。現在、都内でも10件に1件は空き家です。
経済的な観点からも、「家を持つことが必ずお得」とは言い難い時代になってしまったのです。これは、お得な人もいますし、そうでない人もいる、ということです。一律には言うことができず、持ち家が「絶対お得」では無いのです。
老後に備えて今やるべきことは資産の棚卸し作業
――そうした状況の中で、お金に関して具体的に今、やるべきことは何でしょうか?
荻原先生 さきほど、お金に関しては一般論ではなく、一人一人の現状を踏まえた個人論で語るべきだと申し上げましたが、今、自分がどれだけお金を持ってるのか、資産の棚卸しをしてみましょう。
ご家族ならば、夫婦二人の資産をまとめて見えるように書き出します。1)貯金・投資信託・株式、2)保険、3)不動産、4)自動車・貴金属、5)負債(ローン)を一覧にしてみましょう。「預金が少ない」とか「保険に入り過ぎている」といった問題点が数字で見えるようになります。
次に生涯収支予測を書き出してみましょう。まず、1)年齢と年齢に応じたお金に関する将来のイベントを書き込みます。2)老後までに用意できるお金の合計を出してみましょう。貯金はいくらあるか、退職金はどれぐらいかや、年金の予想金額も書き出します。年金支給額は日本年金機構の「ねんきんネット」であなたの数字が出てきます。1)と2)を比べると、将来が安心かどうかが、わかります。
現在の老後の生活費は、現役時代の7割程度で、夫婦二人で最低22万円ぐらいです。また、介護費用は一人平均600万円、夫婦で1200万円程度です。医療費は2人で約200万円程度なので、それらの数字を入れて、あなたの資産の棚卸しをしてみましょう。
皆さんが老後を迎える頃には、またちょっと状況は変わっているかもしれませんが、こうした作業を時々やっておくとその先の対策も立てやすいでしょう。
給料の1年分ぐらいのお金は現金で貯金を
――ぜひやってみます!最後に老後のお金に関するアドバイスがあればぜひお願いします。
荻原先生 モットーは「借金減らして、現金増やせ!」。借金がたくさんあると、いざという時に銀行はお金を貸してくれません。
また、これからの時代は何が起こるかわからないので、給料の1年分くらいのお金は、現金で貯金しておきましょう。リーマンショックのようなことが起きて、会社が倒産した会社から解雇されたりした時に、暴落した株しかないということでは、大損でもそれを売らなくてはなりません。
一方、給料の1年ぶんの貯金が降れば、失業保険と合わせて2年分くらいは食いつなぐことができます。
何が起きてもおかしくない時代になっているので、まずはこうした備えを!
――ありがとうございました!
老後のお金に関する目から鱗の裏ワザを紹介した新刊書。「役所は教えてくれない定年前後「お金」の裏ワザ」 (SB新書)と併せて読むとさらに理解度がアップする。
著者紹介
荻原博子先生
経済ジャーナリスト。1954年長野県生まれ。大学卒業後に経済事務所勤務を経て、1982年にフリーのジャーナリストとして独立。難解な経済とお金の仕組みをわかりやすく解説する家計経済の第一人者として活躍。かつて、「ダイム」にも連載していました。著書に『年金だけでも暮らせます』(PHP新書)、『払ってはいけない』(新潮新書)、『役所は教えてくれない 定年前後「お金」の裏ワザ』(SB新書)、『最強の相続』(文春新書)、『一生お金に困らない お金ベスト100』(ダイヤモンド社)など多数。
文/柿川鮎子