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ヤッホーブルーイングの井手直行社長に聞いた忖度なしのフラットな組織の作り方

2022.07.24

日本のクラフトビール界のリーディングカンパニー、ヤッホーブルーイング。フラッグシップの「よなよなエール」をはじめ、「水曜日のネコ」「インドの青鬼」など独特のネーミングの製品で新しいビールを体現し、日本のクラフトビールをリードしてきた。その活力はどんな組織文化から生まれてくるのか。働きがいをリサーチするGPTWジャパンの、日本における「働きがいのある会社」ランキング中規模部門に6年連続、選出されていることも会社の活力を示唆している。社員はどんな働きがいを感じているのか。井手直行社長にインタビューした。

社長は「てんちょ」のフラットな組織へ

1997年創業のヤッホーブルーイング。軽井沢で星野リゾートを経営する星野佳路氏が創業したクラフトビール会社だ。現社長の井手直行氏は、その生え抜き。2008年に社長に就任した。

井手直行/ヤッホーブルーイング代表取締役社長。1967年福岡県生まれ。国立久留米高専電気工学科卒業。電気機器メーカーや環境アセスメント事業会社、軽井沢の広告代理店を経て、1997年、ヤッホーブルーイング創業時、営業担当として入社。2008年より代表取締役社長。ニックネーム「てんちょ」はインターネット通販「よなよなの里 楽天市場店」で店長だったことに由来。

「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションとし、「クラフトビールの革命的リーダー」をビジョンとし、日本に新しいビール文化を創出することをめざす。まさにイノベーターたらんとした会社である。ベースになるのが「フラットな組織」だという。どんな組織だろうか。

井手 だれとでも気兼ねなく議論ができ、双方向のコミュニケーションができる。議論して決まったことは一致団結して取り組む。そんな組織です。

日本ではまだピラミッド型の組織が多い。上層部で方針が決まり、トップダウンで指示が降りてくる、それに対してボトムから意見が上がっていくことはほとんどないでしょう。

もちろん、うちにも役割はあります。社長は私、部門をまとめるディレクター、チームのディレクター。けれどコミュニケーションは役職、年次、パートアルバイト問わず、縦横無尽にコミュニケーションできる。そういう組織をフラットな組織と呼んでいます。

フラット組織づくりのために、たとえば、社内ではニックネームで呼ぶという風習が根づいている。井手社長のニックネームは「てんちょ」で、社員からそう呼ばれている。取材中、井手氏はアシスタントの社員に「めんぴん、新しいデータ出して」と指示していた。

チームごとに行う朝礼は、業務連絡のためだけにあるのではない。一人ずつ自分の近況や興味関心を話して盛り上がる時間にしている。いわゆる雑談。それによってメンバーの人となり、話のクセがわかる。仕事の話もしやすくなるだろう。

では“フラット”を阻害するものは何か。

井手 年次をもとにした年功序列型の人事、これによってパワーバランスが役職に偏るということが日本の会社では長いこと行われてきましが、やはり、これがフラットな組織づくりを阻害している大きな理由だと思います。

朝礼風景。雑談が大事。

入社2年目からリーダーになるチャンス「ディレクター立候補制度」

この弊害を取り除くために、ヤッホーブルーイングが取り入れているのが、入社2年目から、だれでもリーダーに立候補できる「ディレクター立候補制度」だ。どんな仕組みなのだろうか。

井手 年次は関係なく、入社2年目以降で優秀であれば、我こそは! と手を挙げることができます。いつでもリーダーになれる可能性があります。リーダーになってからもそれで安泰というわけではなく、もっと優秀な人が出てくれば、リーダーから一プレーヤーに変わることもある。流動性が高いので、忖度が発生しにくい。フラットな組織には重要な仕組みだと思います。

あの人は上司だから。あの人は数年後に部長になる人だから—-。そんな近い将来の人事が頭を過ぎることで、その下で働く社員に忖度が生じる。だれでも今の仕事、生活、将来の出世を考えるだろうから、忖度するなというほうがむずかしいだろう。だからこそ、ヤッホーブルーイングでは、年次を人事で考慮しない仕組みを「リーダー立候補制度」として制度化している。

井手 入社2年目、3年目で立候補する社員はこれまでに何人もいます。実際にリーダーになった人というと、いちばん若いリーダーは入社4年目です。毎年、立候補者が立つわけですが、必ずしも毎年リーダーが変わるわけでもありません。あくまで実力主義。逆に期待の若手だから優遇するといったこともありません。

リーダーに立候補した社員のプレゼン風景。

チームで動く「チームビルディング」研修に時間もコストもかける

近年、日本の企業においても、年の若い社員が年上の部下を持つことは、それほど珍しいことではないかもしれない。だが、その年の差が生むストレス、軋轢などのマネジメントのむずかしさはかねてから指摘されている。そうした問題に躓かないフラットな組織づくりに、ヤッホーブルーイングが力を入れているのが、チームビルディングの考え方の徹底だ。

井手 うちに入ってくる人全員がチームリーダーを目指しているわけではありません。うちの理念に共感して入社してくるので、リーダー志向でない人もたくさんいます。それでも全社員に、チームビルディングの考え方、スキルを学んでもらっています。年間通して、研修プログラムを何本も走らせて、それも初級からミドルクラス、難易度の高いものまでレベル別に設定し、少なくとも初級研修は、みなさん受けてね、と促しています。

うちはいろんな価値観を持った多様な人を採用しています。いくら優秀な人が集まっても、いいチームにならなければ噛み合わない。ですから、チームビルディング研修を通して、チームづくりのスキルを勉強してもらっています。いろんな価値観のある人を同じ方向に向かせる、この取り組みに膨大な時間をかけています。

井手氏自身、社長就任直後はメンバーをまとめることに非常に苦労したという。そのころ光明を見出したきっかけが、チームビルディング研修だった。その効能は自身が身を以て知っている。コロナ前は井手氏自らが主宰してリアル講習会を開いてきた。が、この数年で新入社員が大幅に増えたこともあり、講師を増やしてオンラインで開催しているという。

井手 受講は義務ではありません。ただ、チームビルディングのスキルが身についていないとチームで仕事するのは厳しいと思います。

チームで働いてこそ成果が上がる。コロナ禍以降、リモートワークが根づき、直接顔を合わせる時間が大きく減った今だからこそ余計に、チームビルティング的発想が重要になる。

ヤッホーブルーイングは以前から多様な人材を採用している。今をときめくダイバーシティだが、ただでさえチームメンバーをまとめるのは簡単ではないだろう。それが多様性にあふれたメンバーとなれば、さらに大変に違いない……と思うが、ヤッホーブルーイングは多様な人材でどうチームアップしているのか。後編では同社のチームビルディングの秘密を探る!

→その2につづく

取材・文/佐藤恵菜

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