近年、世界各国で注目されている『ボディポジティブ』とは、どのような考え方なのでしょうか?意味と併せて、国内外の動きや反応を紹介します。問題点や社会の変化についても知り、自分の価値観について考えるきっかけにしましょう。
「ボディポジティブ」の意味は?
英語の『body positive』を片仮名で表記した『ボディポジティブ』は、どのような意味を持つ言葉なのでしょうか?支持されている背景についても見ていきましょう。
「ありのままの体形を受け入れよう」という考え方
世の中には『痩せている方がよい』『太ったらダイエットしなければいけない』など、体形に関してステレオタイプな価値観があります。
ボディポジティブは従来の固定観念にとらわれず、自分のありのままの体形(ボディ)を前向き(ポジティブ)に受け入れようという考え方やムーブメントのことです。
ボディポジティブが支持されるようになった背景には、自己肯定感が関係すると考えられています。スタイルのよいモデルやインフルエンサーに憧れる人は多いでしょう。一方で、一般的に美しいとされる状態に近づけず、苦しむ人も少なくありません。
そのため、ステレオタイプによる苦しみから解放され、ありのままの姿を受け入れて幸せになろうと考える人が増えたのです。
欧米を中心に広まったムーブメント
ボディポジティブ本来のルーツは、1960年代後半からアメリカで広まった、ふくよかな体形の人が受ける差別に反対する動きだとされています。
ただ、現在のボディポジティブは欧米を中心に広まった新しいムーブメントです。欧米においてマイノリティとされる女性たちが、2012年に「自分を愛そう」とSNSで発信した際に付けたハッシュタグが『#BodyPositive』でした。
それがプラスサイズのインスタグラマーやブロガーの人たちの共感を得て、急速に広まっていったのです。
「ダイバーシティ」や「インクルージョン」が後押し
ボディポジティブが急速に支持されるようになった背景として、近年の『ダイバーシティ』や『インクルージョン』といった概念が後押ししていると考えられています。
多くの企業でも推進されている『ダイバーシティ』は、『多様性』を意味します。年齢や性別・国籍などの多様性を認め、積極的に採用しようという動きです。
『インクルージョン』は多様な人が集まっているだけでなく、それぞれが互いの個性を認め合い、相互に機能している状態を指します。
個人の価値観やライフスタイルなど、さまざまな個性を互いに受け入れるという現代の概念がボディポジティブを後押ししてきました。
海外での「ボディポジティブ」の動きや反応
海外ではボディポジティブのムーブメントによって、具体的にどのような変化が見られるのでしょうか?主な動きや反応を紹介します。
有名ブランドのサイズが豊富に
ボディポジティブによって、プラスサイズのブランドが続々と誕生しました。例えば『ピンク・クローブ』『ソンシー』『ヴェロモーダ』などです。
世界的に有名な『エイチ&エム』や『ダイアン・フォン・ファステンバーグ』といったブランドでも、幅広いサイズを提供するようになりました。
それまでは気に入るデザインの洋服でもサイズがなく諦めていた人も、好きなファッションを選びやすくなったという変化が見られます。
ステレオタイプのイメージが変化
ドラマや映画に登場する、ぽっちゃりしたキャラクターのイメージにも変化が生まれました。それまでのステレオタイプのキャラクターとは違い、『自立しており、強くて賢い』というように魅力的なキャラクターへの変化が見られます。
世界的に有名なバービー人形にも、従来の痩せているタイプだけでなく、ぽっちゃりしたタイプをはじめ多様な体形の人形が登場するようになりました。現在は体形に留まらず、異なる肌や瞳の色・髪形など、さまざまなバリエーションの人形が販売されています。
メディアにさまざまな体形のモデルが登場
ファッション誌やブランドの広告に、従来の痩せているモデルだけでなく、ふくよかな体形のプラスサイズモデルが起用されるようになりました。
そのきっかけとなったのが、アメリカのスポーツ誌『スポーツ・イラストレイティド』です。2016年の水着特集号で、アシュリー・グラハムを表紙のモデルに起用し、大きな話題になりました。
世界的に人気があるアメリカの下着ブランド『ヴィクトリアズ・シークレット』でも、異なる体形のモデルを多数起用しています。プラスサイズのモデルをオンラインショップや広告などで見かける機会は、欧米ではもはや珍しいことではなくなっています。
痩せすぎモデルの規制も
かつてのモデル業界では、モデル事務所からもっと痩せるように指示されるケースが珍しくありませんでした。その結果、痩せすぎモデルの健康被害や死亡が相次ぎ、規制を求める声が強くなったのです。
フランスでは、2015年に痩せすぎモデルを規制する法律ができました。現在はモデル事務所のライセンス登録や、16歳以下のモデルに対する特別な許可書と健康診断の提出が義務付けられています。
イタリアでは、肥満度指数(BMI値)が18を下回るモデルと16歳以下のモデルに対し、ファッションショーへの参加を禁止しました。そのほかスペイン・イスラエル・デンマークなどでも、痩せすぎモデルに対する規制が敷かれています。
日本での「ボディポジティブ」の動きや反応
次に日本国内での『ボディポジティブ』の動きに焦点を当ててみましょう。社会や企業に、どのような影響が見られるのか紹介します。
渡辺直美がアイコン的存在に
お笑い芸人としてデビューし、今では世界的にも有名になりつつある渡辺直美は、日本におけるボディポジティブのアイコン的存在です。Sから6Lサイズまで取りそろえたファッションブランド『プニュズ』を、2014年に立ち上げたことでも知られています。
また、世界的に有名なファッションブランド『ギャップ』のモデルに起用された件でも話題になりました。
渡辺直美は世界各国のメディアから取材を受けており、必ずといっていいほど聞かれることが『体形に対する考え方』だそうです。彼女がボディポジティブを語る上で、欠かせない存在であるといえるでしょう。
大手メーカーもボディポジティブを意識
欧米ほどのムーブメントではないものの、日本企業の間でもボディポジティブを意識した動きが見られます。
例えば大手下着メーカーの『ピーチ・ジョン』では、SNSを通じてリアルサイズのモデルを募集し起用しています。2回目の募集には1回目の約2倍の応募者があったことからも、国内の関心の高さがうかがえるでしょう。
大手下着メーカー『ワコール』では、体形だけでなく肌色も異なる女性をモデルとして起用しています。ECランジェリーショップ『イルフェリーノ』でも、社員が自らモデルになりSNSで発信するという試みが話題になりました。