2022年3月に、過去最高値付近の2000ドル/oz(※)超えの価格にまで上昇した金は、同5月下旬では約1850ドル/oz付近まで下落した。今から投資しても大丈夫なのだろうか。また安全資産として長期で保有してもよいのだろうか。金投資のプロが解説する。
※/oz=1トロイオンス(31.1035g)
ピクテ投信投資顧問
運用商品本部 投資戦略部長
塚本 卓治さん
国内外の金融機関で20年以上、投資環境を解説した実績を持つ。現職では投資戦略部長を務めつつ、自ら投資家への講演も行なう。
経済が停滞している局面ではパフォーマンスが良い
まず、2022年5月現在の経済環境を確認しましょう。米国の中央銀行(FRB)が2022年7月までに0.5%の利上げを3回行ない、来年にも利上げを示唆していますが、市場はこれをほぼ織り込んだといえます。織り込み前は、利息が付かない金に対して利上げの話は価格下落の悪材料でしたが、これからは景気減速を織り込み、上がりすぎた長期金利の修正が起きる可能性があります。
具体的には、4つの局面(下図1)のうち、昨年4月からインフレを伴った「景気過熱期(局面2)」に入りましたが、今後は「スタグフレーション期(局面3)」入りする可能性があると考えます。1950年1月から2021年12月までのドル建てでの月次パフォーマンスを比較してみると、景気過熱期では金やプラチナなどの貴金属、原油やガソリンなどのエネルギーといった商品(総称して「コモディティー」という)のパフォーマンスが高くなります。
一方、スタグフレーション期のように「物価上昇が起こりつつも、経済成長が低くなる局面」では、株式や債券などの金融商品のパフォーマンスが低下します。つまり、物価上昇により金融引き締めが進んで行くと、初期の金利上昇が意識されて金価格がもたつく恐れはあるものの、金への投資需要が高まる傾向にあります。
そのため、インフレを伴う利上げ局面では、株式と金を組み合わせて投資することが、リスク分散に繋がると考えています(下図2)。
株並みに値動きが激しい金は「超長期保有」もあり
このように経済成長の低迷や金融市場の混乱時など、ネガティブな状態の時に価格が上がりやすいことから〝安全資産〟と捉えることがあります。前述のように、金と株式とを同量保有すればリスク低減効果を期待できるためです。
しかしこれは、金の特性の一部を捉えただけです。過去の価格変動幅を調べてみると、株と同じくらいあります。〝安全資産〟とは価格が安定しているという意味ではないことに注意が必要です。
実際に、過去の金融市場混乱期でみた時に、株式がマイナスの局面でも金はほとんどがプラスの騰落率でした。例えば、2022年1月から3月の「コロナショック」では、株式はマイナス20.5%に対し金はプラス1.6%、08年9月から09年2月の「リーマンショック」では、株式がマイナス43.4%も下落したのに対し、金はプラス14.3%となりました。
ロシア・ウクライナ問題をきっかけに世界の分断が加速しています。分断の時代は構造的にインフレ圧力が高まる傾向があります。かつては東西冷戦時にもインフレ率が高止まりしました。こうしたインフレリスクに備えるためにもポートフォリオに金を組み入れておいたほうがいいと考えます。
ほかにも、金は過去、どの通貨よりも長期的な価値の貯蔵能力が高かったという特徴があります。経済混乱やインフレのリスクヘッジとして、超長期で投資しておく価値もあるといえるでしょう。
(1)金投資のパフォーマンスが良くなる局面
コロナ禍に対する経済対策で、株価の高値状態だった局面2から局面3へと移行した2022年。インフレの抑制が確認された局面4になると、金の投資パフォーマンスが落ち、債券が上昇する。「局面4に移行するのは2023年頃と見られる」(塚本さん)
出典:ピクテ投信投資顧問
(2)金融危機での金と株式の騰落率
利上げ局面の金価格と世界株式の騰落率(高インフレ下)月次、米ドルベース
金融危機時の月次騰落率は、ITバブル崩壊時(2000年3月~翌年3月)は、株式のほうが良かった。「インフレが伴わないのが原因でしたが、その期間のパフォーマンスは金のほうが下落幅が小さいです」(塚本さん)
出典:ピクテ投信投資顧問
取材・文/久我吉史
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