貴金属や重要な書類などを預けるため、貸金庫を契約する方がいらっしゃいます。
もし貸金庫を契約している本人が亡くなった場合、遺族が貸金庫を開けて保管物を取り出すためには、どのような手続きが必要なのでしょうか?
今回は、貸金庫の相続手続きなどについてまとめました。
1. 貸金庫サービスを提供している事業者の例
貸金庫サービスは、主に銀行・物流会社や倉庫会社・貴金属店などが提供しています。
1-1. 銀行
「メガバンク」3行をはじめとして、多くの銀行が貸金庫サービスを提供しています。
銀行金庫内に設けられているキャビネットの一部を、貸金庫として顧客向けに貸し出すサービスが一般的です。貸金庫の使用料は、原則として預金口座から引き落とされます。
参考:貸金庫|三井住友銀行
参考:貸金庫|みずほ銀行
参考:貸金庫|三菱UFJ銀行
1-2. 物流会社・倉庫会社
物流会社や倉庫会社など、物の保管を専門的に取り扱う企業でも、貸金庫サービスを提供している場合があります。貸金庫の使用料は、口座振替などの方法によって支払います。
参考:貸金庫|住友倉庫
参考:貸金庫|三菱倉庫
参考:TERRADA SAFE BOX|寺田倉庫
1-3. 貴金属店
貴金属店では、金地金やプラチナ地金などの預かりサービスを提供している場合があります。
ただし、預けた地金そのものを返還するのではなく、新しい地金で返還するなど、他業種の貸金庫とはサービス内容が異なる貴金属店もあるようです。
2. 遺族が貸金庫を開けるには、相続手続きが必要
貸金庫を契約している本人が亡くなった場合、遺族が貸金庫を開けて物を取り出すためには、相続手続きを申請する必要があります。
2-1. 貸金庫の相続手続きにおいて証明すべき事項
相続手続きを申請する際には、貸金庫を開けようとする人に、本人から引き継いだ「貸金庫を開ける権利」があることを証明しなければなりません。
貸金庫契約上の地位は、相続によって相続人全員が本人から共有的に承継します(民法896条、898条)。したがって、本人の死後に貸金庫を開けるためには、原則として相続人全員の同意が必要です。
ただし、遺言書または遺産分割協議によって、貸金庫契約上の地位を相続する者が定められたことを証明すれば、その者が貸金庫を開けられます。
また、遺言書で指定された遺言執行者が就任した場合、遺言執行者は単独で貸金庫を開けることが可能です。
2-2. 貸金庫の相続手続きにおける主な必要書類
貸金庫の相続手続きにおいて、必要となる書類は状況によって異なります。
主に想定される状況ごとの必要書類は、おおむね以下のとおりです。貸金庫サービスを提供する事業者によって異なる場合がありますので、詳しくは事業者の窓口にご確認ください。
①遺言書がある場合
・遺言書
・検認調書または検認済証明書(公正証書遺言、遺言書保管所で保管されている自筆証書遺言以外の場合)
・被相続人の戸籍全部事項証明書(死亡の事実が記載されたもの)
・貸金庫契約上の地位を相続する者(遺言執行者がいる場合は、遺言執行者)の印鑑証明書
②遺言書がなく、遺産分割協議書がある場合
・遺産分割協議書
・被相続人の除籍全部事項証明書または戸籍全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの)
・相続人全員の戸籍全部事項証明書
・相続人全員の印鑑証明書
③遺言書も遺産分割協議書もない場合
・被相続人の除籍全部事項証明書または戸籍全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの)
・相続人全員の戸籍全部事項証明書
・相続人全員の印鑑証明書
2-3. 貸金庫を開ける当日に立ち会うべき人
実際に貸金庫を開ける場には、以下の方が立ち会います。
①遺言執行者が就任している場合
遺言執行者が立ち会います。
②①以外で、遺言書や遺産分割により、貸金庫契約上の地位を相続する者が定められた場合
貸金庫契約上の地位を相続する者が立ち会います。
③貸金庫契約上の地位を相続する者が決まっていない場合
相続人全員が立ち会います。
なお、相続人全員が立ち会うべきケースにおいて、一部の相続人が当日欠席する場合、欠席相続人の同意書をあらかじめ取得しておけば、代表者のみの立会いによる貸金庫の開披が認められます。
ただし、貸金庫の中の物を持ち帰るためには、相続人全員が立ち会うか、または各相続人の代理人として公証人・弁護士・司法書士などの出席を求められるケースが多いです。
3. 貸金庫の中身にも相続税がかかることに注意
貸金庫の中身が亡くなった被相続人の所有物の場合、相続財産に含まれるため、相続税の課税対象となります。
特に、貸金庫の中に高価な貴金属類などが保管されていた場合、相続税申告の際の計算に含めておかないと、後から高額の追徴課税を受けるおそれがあるので注意が必要です。
相続税に関しては、他の税金よりも税務調査が行われる割合が高くなっているので、貸金庫の中身についても忘れずに含めたうえで、相続税の計算を行ってください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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