大人の模型趣味に敷居の高さを感じていた子供に大ヒットしたプラモデルがあった!
近年、ガンプラが大変な品薄状態になっている。コロナ禍以降、自宅で完結する趣味の需要が増したことで、模型店や量販店に並んでいるガンダムのプラモデル。通称ガンプラが売れ筋となったのだ。
そのうえ、この需要に目を付けた転売屋たちがごっそり買い占めるようになり、「メルカリには割高で売られているけど市場で定価購入できない」という状況が問題に。
発売元のバンダイもこれを受け、人気のキットの受注再販に応じるなどしてファンの要望に善処している。
ガンプラは子供でも組み立てることはできるが、塗装や改造をするとなるとなかなか敷居が高いホビーだったことから、低年齢層にとっては割と高尚に感じられるものでもあった。
しかし、あるときバンダイから子供向けの、組み立てやすくて遊び要素があるガンプラが発売されることになる。
それが「BB戦士」と呼ばれるシリーズだ。
この「BB戦士」、最初期のものはガンダムやザクなどから、少しだけ等身が低くなったスタイルにリデザインされた簡易プラモデルで、接着剤を用いずに作ることができる“スナップフィット”と呼ばれるキットだった。
シールも付属しており、貼るだけである程度カラフルにもなるし、その名の通り当初はスプリング機構を使って武器からBB弾を飛ばすことができた。
今日は、その「BB戦士」についての話をしていきたい。
「BB戦士」はなぜ90年代前半の子供たちの心を射抜いたか
「BB戦士」の発売がスタートしたのは、1987年のこと。
第1弾はガンダムをモチーフとしたガンダマンと呼ばれるキャラクターで、飛ばしたBB弾をぶつける標的などがセットされていた。価格は300円。
最初期のラインナップは基本的に三頭身ぐらいのバランスであったが、あるときからSD(スーパーディフォルメ)ガンダムシリーズを謳うこととなり、二頭身のキットが増えることになる。
さらに金メッキやカラフルな成形色、はがれにくいように改良されたシールなども同梱されることで、組み立てるだけで鑑賞に耐えられる、可愛いてかっこいいプラモデルということで子供からの支持が高まっていった。
既にこの頃にはテレビゲームも普及しており、そちらも大人気ではあったが、同じインドア系の子供の遊べる娯楽として、「BB戦士」は確固たる地位を築いていった。
中でも「SD戦国伝」と呼ばれる、日本の戦国時代をモチーフにしたシリーズが大当たり。
武将のような鎧とガンダムのデザインがそもそも親和性が高く、鞘に納めることも、手に持たせることも可能な刀や、合体機能、過去に発売されていたキットのパーツを流用すると完成する武器、ちょっとした組み換えギミックなどが子供たちの琴線に触れまくることとなった。
さらに言えば出世するキャラクターもおり、最初は若武者だったものがやがては大将軍になるというストーリー性が商品展開にも反映されることから、子供向けの大河ドラマのような作風にもなっていたのも面白い。
しかもこの「SD戦国伝」シリーズでは原則としてキャラクター名に漢字が用いられており、「武者頑駄無(ムシャガンダム)」といった具合の商品名で発売されることから、子供にとっては漢字をおぼえるきっかけにもなった。
実際、筆者もこの「SD戦国伝」のおかげで小学校低学年の頃には大半の漢字の読み書きができるようになったので感謝しきりだ。
漢検2級も、学生時代に予習なしで取ることができた。
男の子というのはそもそも戦国時代を舞台にしたドラマに興味があるものだし、それとガンダムというコンテンツが合体しただけでも痺れるのだ。
その上、そんなキャラクターが続々プラモデルになるし、お小遣いで買える範囲の値段設定なのだから、流行らないはずがなかったのである。
豊富なメディアミックスで僕らのハートをわしづかみした「BB戦士」
そもそも男の子ウケする要素が詰まっていた「BB戦士」だが、これが流行するにはさらに色んな仕掛けが使われていた。
アニメの映像作品も制作されていたし、劇場公開されたあとはそれがVHS化してレンタルビデオ店にも陳列されることとなる。
児童誌では「BB戦士」として発売されているキャラクターが活躍する漫画が連載され、カラーグラビアでは商品を綺麗に組み立てて塗装した見本の写真などがいくつも掲載されていた。
そのグラビアを参考に、水性ホビーカラーで塗装に挑戦した子供も多かった。
もちろん筆者もチャレンジしたし、学校の友達とその腕を競ったりもした思い出がある。
アニメ、児童誌、そして商品としての「BB戦士」。
80年代終盤に登場したこのコンテンツは、当時としても最大限のメディアミックスを行ったことで、大人気商品になっていった。
しかも組み立てもしやすいため、買ったまま放置する子供も極端に少なく、組み立てた上で遊ぶという楽しみに、ちゃんと到達できることも多かったのも、人気の要因だったと振り返るところ。
やっぱり、自分にもちゃんと組み立てられるリアル系ガンプラってまだまだあの時代は希少だったので……。
組み立て説明書などに見られる、プロによる改造作例に刺激された子供は多かった…
ところでこの「BB戦士」全盛期の洗礼を浴びた子供というのは、今30代か40代ぐらいの世代である。
中には未だにプラモデルを楽しみ続けている人も多いが、そんな人たちにとって「BB戦士」の思い出の大きな比重を占めているのが「無茶な改造指南」だ。
これ、一体何の話かと言うと、当時の「BB戦士」の組み立て説明書には、簡単なキャラクターのカラーレシピや購入したキャラクターが活躍する1ページコミックと共に、しばしば商品化される予定のないサブキャラの作例が掲載されていたのだ。
多くの場合は敵キャラや、商品にしても売れる見込みのないサブキャラなんだけど、こういうのをプロのモデラーがパテやプラ板を使って上手に製作したものを掲載していたわけだ。
そして無謀にも「このキャラクターは以前発売されたBB戦士を元にして、プロが作ったよ。君も挑戦してみよう!パテは模型店でも売っているよ」というような煽り文も乗っていた。
触発されて挑戦したものの、思ったように改造なんか到底できずに無惨に散った子供というのが、本当に全国にチラホラ発生する羽目になった。
もちろん筆者もその中の1人だが、あまりに悔しくて眠れなかった!
「この悔しさはいつか自分で折り合いをつけないと死んでも死にきれない!」と決意し、筆者はその改造作例の乗った説明書を保管。
そのまま20年以上ずっと手元に残しておき、その間に少しずつ模型を組み立てるノウハウを蓄積していったり、自分でパテを使ってモノづくりをするようになり、経験値を貯めていった。
こうして三十路を越えた数年前、改めてかつて自分が作ろうとして見事に失敗したキャラクターを、なんとか自分なりに再現することができた。
添付の画像がそのキャラクター、「九尾犬(バウンドドック)」である。
おそらく全国には、この「九尾犬」を作ろうとして見事に大失敗した経験を持つ人が千人規模にいるはずだ。あの頃大失敗した同志へ。僕が君の仇を取ったぞ!
「九尾犬」に限らず、同シリーズではたびたびプロのモデラーが作成した見事なキットのグラビアが組み立て説明書を華々しく飾っていた。
かつて「BB戦士」にハマったことのある人なら、絶対に一度は「こういうのを作りたいなぁ」と切望したはずである……。
集めて楽しく遊んで面白い「BB戦士」、これからも末永く続いてほしい…
1987年から商品展開がスタートし、リリースペースは落ちたものの、今でも新作が発売され続けているのが「BB戦士」の凄いところ。
大変息が長いコンテンツと言える。
もっとも「BB戦士」の由来となったBB弾に関しては初期の初期で発射機構が改良され、スプリングで発射できるものは銃弾のようなタイプの弾に変更となった。
そしてこの弾を飛ばすというギミックも、PL法の改正以後に登場したキットにはほとんど採用されていない。
もちろん再販されたそれ以前のキットには変わらず発射ギミックが残っているが、スプリングが以前に比べると柔軟になったので、発射しても勢いが弱く、安全性が高まっている。
今ではBB弾も飛ばせないが、それでも変わらず、子供にも組み立てやすく、丈夫で小さくて可愛くてかっこいいことに変わりはない。
定期的に再販もされているので、かつて「BB戦士」を組み立てたことがある方も、久しぶりに手に取ってみてはいかがだろうか。
ちなみにこのご時世でも再販分キットの価格は昔と同じで、せいぜい300円や500円のものばかり。これも地味に凄いことだ……。
文/松本ミゾレ
編集/inox.