昔からどこにでもいた子供たちのアイドル、ザリガニ
突然だが、アメリカザリガニが日本国内に分布を広げて、もうだいぶ時間が経過した。
現在、日本の水辺で確認されるザリガニの大半が、アメリカザリガニである。
私たちが「ザリガニ」と聞いて頭に思い浮かべるアレ。アレがアメリカザリガニだ。
日本には固有種のニホンザリガニもいるが、北海道や東北の一部にしか生息しておらず、その数は大変少ない上に、水質と水温に敏感なので飼育が難しい。
他にもウチダザリガニという外来種も生息する地域があるが、このザリガニもあまり一般的ではない。
やはり私たちが思い描くザリガニ像とは、アメリカザリガニの姿なのである。
硬い殻に覆われ、大きなハサミを持ち、エビの仲間なので遊泳力も高い。
そんなザリガニは、昔から子供たちにも人気者だった。
その上ザリガニは簡単な仕掛けで釣り上げることもできるし、ペットとしての存在感もバツグン。
子供の頃、ザリガニ釣りをよくやったという方も、きっと大勢いるはずだ。
今日はそんなザリガニ釣りに関する昔話をしていきたい。経験者の方々はぜひ、自分が子供の頃に通っていた池や沼の光景を思い返しながら読んでいただきたい。
なぜアメリカザリガニはこんなに日本に定着したのか?
現在日本各地で見ることのできるアメリカザリガニとはそもそも、食用に輸入されていたウシガエルの餌にするという目的で昭和初期に国内に持ち込まれ、養殖されていた少数のアメリカザリガニの子孫である。
このことは割とよく知られた話である。
環境省の公開する「自然環境・生物多様性」というページに、その事情が詳しく説明されているが、昭和2年にたった27匹のアメリカザリガニが導入され、それが養殖池から脱走して今のように全国的に見られるほど繁殖してしまうという結果に。
上に添付された画像を見ても分かるように、ザリガニは陸上でもエラが乾かない限りは割と自由に活動できるので、雨天などでは比較的活発に新天地を求めて移動することが可能。そのために徐々に分布を広げていったというわけだ。
こうして昭和後期から平成に入る頃には、大抵の地域で水辺に彼らの姿を見ることができるようになった。
そうなると環境面では悪影響もかなり大きなものとなったが、一方で子供たちからすれば、このザリガニの存在は非常に魅力的なもので、誰が言い出したわけでもなく、全国的にザリガニ釣りに興じる子供が大発生することとなった。
思い出のザリガニ釣りエピソード。汚れた水場にひしめくザリガニたち
かく言う筆者も、平成に元号が変わった頃にはじめて近所の友達がザリガニをバケツに入れて連れ帰るのを目撃し「この生き物はなんてかっこいいんだ」と驚いた記憶がある。
そうして家の周りにある池や沼をうろうろと探索するようになって、あるときザリガニしかいない水場を見つけることができた。
そのスポットは田畑の中にぽつんとあった独立した水場で、昔は色んな生き物がいたが環境汚染で水質が悪化し、ザリガニしか住めないような状態になっていたのである。
水面には不法投棄されたドラム缶から流れ出た油も浮いていた。
とにかく、ここでしょっちゅうザリガニを釣った記憶がある。
ザリガニ釣りというのは、かなり低コストで楽しめる遊びだった。
釣り竿は木の棒で代用できるし、釣り糸なんか使わず、タコ糸とか裁縫用の糸で十分代用可能。
餌は人によって異なったが、駄菓子屋で30円ほどで売られているスルメや、家にある煮干しなどを使う子供が多かった。
それらの餌をただ糸でぐるぐる巻きにして、あとは水辺に投げ込んでアタリを待つ。
釣り針は使わない子が多かった。とにかく棒と糸と餌があれば、ザリガニ釣りは十分楽しめたのだ。
本来ザリガニは夜に活発に活動するが、意外と昼間でも餌に反応してハサミで引っ張って巣に持ち帰ろうとするザリガニも多く、そういうのが次々に子供たちの釣果となった。
ときにはバケツいっぱいにザリガニをゲットする欲張りな子供もいたし、釣り上げたザリガニのサイズやハサミの色合いを細かく吟味し、気に入ったものだけ連れ帰る子供もいた。
筆者も気に入ったザリガニを何匹か持ち帰り、ペットとして飼育したものである。
ただ、屋外の水槽で飼っていたもので、結構な数が脱走したり、野良猫やタヌキなんかに食べられてしまっていた。
さて。
件の汚れたザリガニしかいない釣り場。最初こそザリガニが文字通りひしめき合うほど繁殖していたが、夏場になると連日子供が押し寄せてザリガニ釣りに興じていたため、2・3年もするとほとんどザリガニの姿もなくなってしまい、自然と人も寄り付かなくなっていった。
繁殖力と生命力の強いザリガニも、さすがにしつこく子供たちに乱獲されると、いなくなってしまったということか。
今の時代、アメリカザリガニは販売と放流が禁止されている!その理由は?
アメリカザリガニが子供たちに人気の生き物として、今もその立ち位置をキープしていることには変わりがない。
先日も水路でザリガニ釣りに興じる親子連れを見かけたばかりだ。
そのうえ、マニアやアクアリウムファンの間では、20年ほど前まではさらに変わった品種のザリガニの取引や飼育が盛んだった。
筆者も15年ほど前、ラマシーザリガニという、ハサミにうっすら毛が生えた細身のザリガニを飼育していたことがある。
同じ頃、フロリダブルーと呼ばれる、青いザリガニも飼育していた。上の画像が、そのときの個体。見事な青一色のボディカラーに、随分癒されたなぁ……。
ペットショップではほかにも、珍しいザリガニの仲間も相当数流通しており、数万円するような個体を指をくわえて眺めるのも楽しかった……。
しかし、それも今では過去の話。
多くのザリガニは今では流通すらしていない。ザリガニがペットショップに入荷されることはなくなった、というわけである。
令和2年にはまず、アメリカザリガニを除くすべての外来ザリガニが飼育、運搬、譲渡、販売、放流が規制されることとなった。
そして今年の5月からはアメリカザリガニの販売が禁止される改正法が成立したばかり。
NHKのNEWS WEBが5月11日に配信した「ミドリガメやアメリカザリガニの販売など禁止へ 改正法が成立」という記事でも「捕獲や飼育は認める一方、販売、販売目的の飼育、輸入、自然に放つことなどを禁止することにしています」と説明がなされている。
アメリカザリガニも他の外来ザリガニと同じく販売が規制された形となり、同時に放流も禁止される運びとなった。繁殖力が高い侵略的外来種という顔も持つアメリカザリガニの被害を、これ以上広げないための措置となる。
ただし捕獲や飼育に関しては、これを禁止してはいない!
むしろ捕獲すればするだけ外来種としてのザリガニの脅威は減るので、今後もこれを禁止することもないと考えられる。
ペットとして飼育する分にも、一切規制は入らない。
これからペットとして育てたいという方も、ずっとアメリカザリガニを大事にしているという方も、特に心配するようなことはない。
ザリガニ釣り自体は今も規制されていない!この夏、みんなでザリガニを釣ろう!
アメリカザリガニといえば、どこでも見かけることのできるポピュラーでかっこいい生き物だ。
だからこそ昔から、子供たちの身近な釣りのターゲットとしても親しまれてきたし。ペットとしての需要もある。
今年からはそのアメリカザリガニをペットショップで見かけることはなくなったし、今後も「飼いきれないから」とリリースすることもできなくなった。
ただ、ザリガニ釣り自体は規制されていないし、連れ帰って育てる分には何ら問題ない。
むしろ釣って持ち帰ればそれだけ自然環境を良くすることにも繋がるうえに、ザリガニは飼育してみるとどんどん魅力を発揮する生き物。
我が家にも現在1匹の若いザリガニがいるが、これも田んぼ脇の用水路で今年の6月に釣り上げた個体。当然リリースはできないので、このまま天寿を全うさせるまで、大事に育てていく予定だ。
釣って楽しく育てて面白く、しかも泥抜きすれば食べることもできるアメリカザリガニ。
この夏、暇があったらあなたも久しぶりにザリガニ釣りに繰り出してみてはいかがだろうか。
【参考】
環境省 自然環境・生物多様性「なぜそこら中に? まだ大丈夫なところもあります!」
NHK NEWS WEB「ミドリガメやアメリカザリガニの販売など禁止へ 改正法が成立」
文/松本ミゾレ
編集/inox.