2008年、テキサス州にある農場で行われた強制捜査では、400人以上もの子どもが警察によって保護された。
2022年6月8日より独占配信中の『キープ・スイート: 祈りと服従』は、アメリカで制作されたドキュメンタリー番組。
末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)の指導者が起こした事件について取材している。
プロデューサーとしてエミー賞にノミネートされたレイチェル・ドレッツィンが監督。
あらすじ
2002年、末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教)原理派の預言者ルロン・ジェフスの死によって権力を掌握した、息子のウォレン・ジェフス。
彼は、ルロンが65人の妻との間にもうけた数えきれない子どものうちの一人だったが、人一倍の野心と支配欲の持ち主だった。
原理派の信者らは、外部の人間とほとんど関わることなく、社会から隔絶された空間の中で共同生活を営んでいた。
そして「妻子の数が多いほど死後に救われる」と信じられていたため、一夫多妻制で可能な限り多くの子どもを産み育てながら暮らしていた。
父ルロン以上の独裁体制を敷いたウォレンは、信者の服装や行動などを厳しく管理。
身体的・精神的・性的虐待も横行し、耐えかねて脱走する信者も出始めた。
また一部の中高年男性が大勢の若い女性を妻として独占していたため若い男性が余り、彼らはコミュニティから追放されるか、過酷な労働環境でのタダ働きを強いられた。
噂を聞きつけたテレビ記者や私立探偵が教団の調査を行い、最終的に警察が強制捜査を行ったことで、その恐ろしい実態が明らかとなった。
元信者らへの独占インタビューを中心に、事件を振り返る。全4話。
見どころ
コミュニティ内では、男性の地位は妻の人数で判断され、妻や娘は男性にとっての“財産”として扱われていた。
そのため自分の地位を高めたい男性は、娘をコミュニティ内の最高権力者であった預言者ルロン・ジェフスに妻として差し出すこともあったようだ。
このような話は昔からどこの国の歴史でもわりとよく見聞きするが、85歳の男性と19歳の娘を自分の地位向上のために無理やり結婚させるのはいくらなんでも酷すぎる。
しかし女性たちは従順に従っていた。そのような世界しか知らなかったからだ。
本作から学ぶべきことは沢山あるが、その一つとして「世の中の多種多様な情報・人間に自由に触れることの重要性」が挙げられる。
本作でも教団から救出された女性がインタビューで語っているが、映画を観に行くことも好きな本を読むことも遊園地に行くことも、仕事や学校に行くことも禁止されていたそうだ。
どれだけおぞましい生活を強いられていても、比較するものがなければ、その異常性に気づくことは難しい。
日頃から色々な情報や価値観に触れ、社会から孤立しないように複数のコミュニティに属しておくことで、洗脳や支配を受けるリスクを少しでも軽減することができるかもしれない。
そして印象的だったのは、アリゾナ州とテキサス州の広大な景色だ。
人影も建物もほとんどなく、見渡す限りの荒野。
通信手段や乗り物を持たない女性や子どもが足だけを使って自力で逃げるのは、かなり難しい。
どれだけ大きな声で泣き叫んでも、外部にはなかなか声が届かないであろう。
このような厳しい自然環境が、ジェフスと教団の暴走に拍車をかけていたのかもしれない。
Netflixシリーズ『キープ・スイート: 祈りと服従』
独占配信中
文/吉野潤子