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東山魁夷画伯の唐招提寺・襖絵を美しく演出するためにパナソニックのLED照明が採用された理由

2022.07.17

南都六宗のひとつ、律宗(りっしゅう)の総本山「唐招提寺(とうしょうだいじ)」。

8世紀後半の創建時の姿を残す国宝の「金堂」を初め、数々の国宝を有する奈良の名刹は、親しみ深い鑑真大和上(がんじんだいわじょう)の私寺として知られ、天平宝字3年(759年)に戒律を学ぶ人たちのための修行の道場でした。

「国宝 金堂」

開祖の座像は「国宝 鑑真和上座像」として名高く、そちらを安置するため没年の763年から1200年にあたる昭和39年(1964年)に、奈良・興福寺の別当坊だった一乗院の表向き御殿の遺構を移築し、「御影堂(みえいどう)」が建立されました。

「重要文化財 御影堂」

そして、第81世森本孝順長老が発願し、昭和50年に東山魁夷画伯の襖絵を含む障壁画が奉納されました。

しかし、50年前にたった1年半で移設した突貫工事の影響か、御影堂は地盤が緩み、玄関周りが10数cmも落ち込んでいました。また、屋根の銅板葺きも傷みが目立ち、雨漏りが起きていたこともあって、平成28年から保存修理が始まったのです。

それから6年あまりの歳月を経て、令和4年3月31日に無事竣工を迎えた御影堂には、「国宝 鑑真和上座像」も無事に遷座され、東山魁夷画伯奉納障壁画も復位しました。

東山魁夷画伯が思い浮かべた障子越しの光を邪魔しないLED照明

御影堂を美しく彩る、東山魁夷画伯が筆を取った襖絵は、鑑真大和上の人生を表すとされます。

森本孝順長老が発願した後、東山魁夷画伯は何を描くべきか約5年もの間悩み続けたといいます。そして、描かれた絵には、荒々しい波と穏やかな海があります。

鑑真大和上は唐の揚州に688年に生まれ、14歳で出家。洛陽・長安で修行を重ねた後、天保元年(742年)に遣唐使の「栄叡(ようえい)」「普照(ふしょう)」から、朝廷の「伝戒の師」としての招請を受けて、来日を決意しました。

以来、12年間に5回の渡航を試みたのですが、失敗。次第に視力を失うこととなりました。そんな苦難の末、天平勝宝5年(753年)、6回目の渡航でついに日本の地を踏むことになったのです。

そんな困難辛苦の渡航をしのび、荒波は日本に渡来する苦労を、穏やかな海辺は晩年を過ごした落ち着いた日々を東山魁夷画伯は描いたそうです。

御影堂に襖絵を奉納するにあたり、東山魁夷画伯は、障子越しの外光で眺めることを想定していました。

堂内に障子越しで外光が届く様子

しかし、障子の光を得るのも、御影堂の雨戸を開放する作業が必要となります。また、紫外線が絵を傷める可能性もあり、堂内を明るくすることが難しかったと言います。

御影堂の雨戸を開放したところ

さらに、御影堂では年に2回、4月と12月に一般のみなさまのため写経の会を開いており、その際はスタンド照明をわざわざ用意していたのです。

そんな手間を考えて、御影堂の保存修理では照明の設置が検討されました。

しかし、御影堂は重要文化財の指定を受けており、文化財建造物には一切釘を打ってはいけないという規則がありました。

そこで、文化財の照明の実績が豊富で、しかも、唐招提寺とゆかりがあるパナソニックに照明工事を依頼したそうです。

唐招提寺 執事長の石田太一さん(左)、パナソニック エレクトリックワークス社 ライティング事業部エンジニアリングセンター 大阪エンジニアリング部 建築環境デザイン課 福澤広行課長(右)

襖絵にはLEDのスポットライトを、写経用には同じくLEDのベースライトを導入しました。太陽光に近いレベルで色を再現する高演色スポットライトは、調光が細かくできるため、最適なライティングができるそうです。

また、ベースライトは写経時に使用するため、3500ケルビンの色温度で鮮明な照明となっています。

写経用のベースライト(手前)、襖絵用のスポットライト(奥)

釘が打てない御影堂の工事では、配線ダクトの設置に苦労したそうです。天井板の一部を新しく交換し、そこにのみボルトなどを打ち、スポットライトやベースライトをセットするなど、重要文化財の価値を損なわないため苦慮されたそうです。

そして、紫外線が非常に少なく、襖絵の劣化を抑えるのは、LED照明を採用した理由のひとつ。「美術館などでは50ルクス程度で照らすことが多いですが、御影堂の照明は40ルクス程度で、これも劣化を抑える要素です」(福澤さん)と、主役である襖絵のことを徹底して優先した照明となっています。

天候や季節を感じさせる照明を目指す

御影堂の襖絵は、外光を採り入れることで眺めるものでした。それは、雨の日は暗く、晴天では爽やかに襖絵を映し出します。そして、季節による陽の移り変わりも、絵の見え方に変化を与えます。

福澤さんは将来、こういった時の移り変わりや季節感を思わせる照明が表現できればと思っているそうです。

奈良の名刹でめでる東山魁夷画伯の襖絵。その絵を彩る現代の照明。文化財を守り、そして次代に価値をつなぐため、パナソニックの照明が唐招提寺御影堂に選ばれたのは、必然だったのかもしれません。

【参考】唐招提寺

取材・文/中馬幹弘

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