飲食店がごみ置き場へ大量の生ごみを捨てた結果、カラスが増えるなどの環境被害が生じてしまった例がしばしば見られます。
飲食店を含む事業者によるごみ捨ては「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)によって規制されており、飲食店が家庭ごみの集積場へごみを出すことは原則違法です。
もし近所の飲食店のごみ捨てにより、何らかの環境被害が生じている場合には、お早めに市区町村役場へご相談ください。
今回は、飲食店によるごみ捨てのルールや、近所の飲食店の悪質なごみ捨てによるトラブルへの対処法などをまとめました。
1. 廃棄物処理法に基づく、飲食店の正しいごみの捨て方
廃棄物処理法3条1項では、事業者にごみを含む廃棄物の自己処理義務を課しています。
(事業者の責務)
第三条 事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない。
廃棄物は「一般廃棄物」と「産業廃棄物」の2種類に大別されますが、飲食店が日常的に排出するごみは大半が一般廃棄物です。
飲食店が一般廃棄物を捨てる場合、原則として以下のいずれかの方法により自己処理を行う必要があります。
1-1. 処理施設に自ら持ち込む
事業者は、清掃工場などの処理施設に、一般廃棄物を自ら持ち込んで処理することができます。
事業系一般廃棄物の処理施設には、それぞれ一般廃棄物の受け入れ基準が設けられています。
搬入できるごみの種類・寸法・持ち込みに用いる車両・搬入可能時間などが決められていますので、事業者が一般廃棄物を持ち込む場合は、処理施設の基準を遵守しなければなりません。
1-2. 一般廃棄物処理業者に処理を委託する
自分で処理施設にごみを持ち込むのは大変なので、実際には一般廃棄物処理業者に処理を委託している事業者が多いです。
一般廃棄物処理業者は、一般廃棄物の収集・運搬を業として行う地域を管轄する市区町村長の許可を受けなければなりません(廃棄物処理法7条1項)。
一般廃棄物を排出する事業者としても、原則としてその処理の委託先は一般廃棄物処理業者とする必要があります。無許可業者に一般廃棄物の処理を委託した場合、廃棄物処理法違反によって刑事罰の対象です(同法6条の2第6項、25条1項6号)。
なお市区町村によっては、一定重量以上の一般廃棄物を排出する事業者に対して、一般廃棄物管理票(マニフェスト)の提出を義務付けています。
2. 飲食店が家庭ごみ集積場にごみを捨てることは、原則違法
飲食店を含む事業者が、家庭ごみの集積場にごみを捨てた場合、原則として事業者の自己処理義務を果たしたことになりません。自己処理義務に違反してごみを捨てる行為は、不法投棄に当たり違法です(廃棄物処理法16条)。
(投棄禁止)
第十六条 何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。
不法投棄をした事業者には「5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金」が科され、または併科される可能性があります(同法25条1項14号)。
ただし一部の市区町村では、少量の場合に限って事業系ごみの回収を行っています。
たとえば東京都北区では、小規模事業者(従業員20人以下)で自ら処理することが困難な場合に、少量の可燃ごみ・不燃ごみ・古紙に限って事業系ごみの収集を行っています。
重量は1日当たり10kg未満、可燃ごみ収集1回当たり45リットル袋で4個までに制限されています。また、有料のごみ処理券を購入したうえで、ごみ袋に貼付しなければなりません。
事業系ごみの回収に関するルールは市区町村ごとに異なりますので、詳細は市区町村役場にご確認ください。
3. 飲食店のごみに関する苦情の相談先
飲食店のごみ排出による環境被害などに悩まされている場合、相談先は市区町村役場または警察となります。
3-1. 市区町村役場
市区町村では、ごみ処理に関する行政事務を取り扱っています。家庭ごみの集積場についても、道路に隣接して設置されているものについては、市区町村が管理しています。
飲食店が乱雑に出したごみのせいで、カラスが増えるなどの環境被害が発生している場合には、市区町村役場に連絡をとって対応を依頼しましょう。
3-2. 警察
事業者が自己処理義務に違反して、家庭ごみの集積場に事業系ごみを出すことは廃棄物処理法違反であり、刑事罰の対象とされている行為です。そのため、悪質なケースであれば警察による捜査・検挙の対象となります。
基本的には市区町村と連携して対応すれば足りると考えられますが、飲食店側の態度があまりにも横柄であり、市区町村から注意しても一向に改善が見られない場合には、警察に相談することもご検討ください。
4. まとめ
飲食店が家庭ごみの集積場へごみを出すことは、原則として廃棄物処理法違反です。
家庭ごみに混じって出された飲食店のごみにより、何らかの環境被害に悩まされている方は、お早めに市区町村役場の窓口などへご相談ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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