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月と火星の有人活動に必要な電気エネルギーは原子力発電が最適といわれる理由

2022.07.10

人類は、再び月を目指そうとしている。米国航空宇宙局NASAは、アポロ計画以来約50年ぶりとなる月面有人計画Gatewayやアルテミス計画を着々と進めている。そして中国でもILRS計画という類似した計画を進めている。月や火星での有人活動において必要不可欠となるエネルギーとして電気エネルギーは除外できないだろう。

では、その電気エネルギーはどのように生成する計画なのか。

月での太陽光発電は最適な選択か?

宇宙というフィールドで発電するには、太陽光発電を選択するのが自然だ。人工衛星しかり、宇宙ステーションしかり、現在の宇宙にかかるテクノロジーの発電には太陽光発電が使われてきたからだ。その考えをそのまま月にももちろん延長することは可能だ。

少し古い構想になるが、2009年に清水建設は、「月太陽発電 ルナリング」という構想を発表している。このルナリングとは、月に設置した太陽光パネルによって発電したエネルギーを地球に伝送し、地球上すべての電力需要をまかなうという構想。月の赤道をぐるりと一周する巨大な太陽電池パネルの帯で発電を行い、そのエネルギーをマイクロ波とレーザー光に変換して地球側の受・変電施設へ送り、電力や水素に変換して全世界へと供給する仕組みだ。この構想は、地球のための発電という位置付けだが、もちろん月面活動の発電にだって活用可能だろう。

では、具体的にどのような太陽光発電施設になるのだろうか。当時、清水建設は、こんな構想を立案していた。月において24時間の連続発電を可能とするため、月の赤道一周に太陽光パネルを設置する。その規模は、幅400km、長さ11,000km(月一周分)で、総面積は日本の国土の11倍にあたる約440万km2にも及ぶ。発電施設全体の発電能力は、原子力発電所約13,000基分に相当する年間220TW(テラ=1兆)で、地球上が必要とするエネルギーすべてをここでまかなうことができるように設計した構想のようだ。とても興味深い素晴らしい構想だ。しかし、2022年現在においても、これほど大規模な発電施設を整備するためには、莫大なコストと時間を必要することは、ご理解いただけることだろう。

月面発電に原子力発電は有力候補

もちろん、今現在計画されている月面活動するにおいて、これほどの大規模な太陽光発電施設は必要ないだろう。もう少し小規模なものでよい。ただ、必要な分だけのエネルギー発電と供給ができる、全質量が小さい、形状ができるだけ小さい、月面ではケーブルだけの接続だけで形状変更や組み立てが不要、メンテナンスが可能な限り不要なもの、このような条件を満たすものが最適だろう。そして、なによりも月には、太陽が当たらない時間帯が存在する。2週間だ。そのようなときには、太陽光発電が選択できない。2週間の夜に、長期の月面活動を可能にする電力を提供する手段が必要だ。それが原子力発電なのだ。

以前からNASAと米国エネルギー省DOEは、共同で月面における原子力発電のコンセプト設計を開始している。両者が発表している原子力発電イメージが以下だ。既に、2018年にネバダ州のテストサイトで1キロワットの非常に小さな原子炉を使用した技術のデモが行われ、高濃縮ウラン(HEU)を使用し、効率的で軽量な原子炉を実現したという。

NASAの月面における原子力発電(イメージ)
(出典:NASA)

しかし、月とはいえども、原子力発電に関する課題もあるようだ。高濃縮ウランは、核兵器にも使用できるものであり、核不拡散に対する思想に懸念を引き起こしかねない。そのため、現在では、低濃縮ウラン(LEU)の使用を検討している側面もあるようだ。低濃縮ウラン(LEU)は不拡散の問題は少ないというが、技術的には成熟していない点がある。また、万が一の事故のケースだ。原子炉がメルトダウンに至らないよう冷却しておく方法を十分検討する必要があるという。月では昼夜の温度差が最大300℃近くになり、大気がなく真空であることから、厄介な問題となる可能性も十分あるからだ。

2022年6月21日、NASAとDOEは、月面での原子力発電におけるシステム設計企業を3社選定した。3社とは、Lockheed Martin、Westinghouse Electric Corporation、IXだ。Westinghouse Electric Corporationは今回のシステム設計においてアルテミス計画の超大型ロケットSLSのエンジン製造を担当するAerojet Rocketdyneと提携するという。IXとは、月面着陸船を打ち上げ予定のIntuitive Machinesと、高温ガス炉とその燃料の開発を手掛けるX-energyの合弁会社で、今回はMAXARとBoeingと提携するという。この原子力発電は10年間、40kW級の電力を発電できる仕様にシステム設計を行う。2028年までに原子力発電を月に供給する予定だ。

世界各国も月の原子力発電へと乗り出す!?そして次は火星?

実は、月面有人活動を始動しているのは、アメリカだけではない。大国中国でもILRS計画という類似の計画も着々と進めている。詳細な情報は定かではないが、中国では、秘密裏に1MW級の原子力発電施設を月面に整備する計画だという情報がある。他にも欧州宇宙機関ESAでも200kW級の原子力発電の地上テストを目指しているという報道もある。

そして、月の次が火星だ。火星は、有人活動においては、太陽光発電不向きだろう。その理由は、火星では、地球が受けている太陽光の半分未満しか得られない。そのため、太陽エネルギーから電力を生成することは技術的に困難なのだ。では、火星には、強い風が吹いているからそれを利用すればいいのではないか、そんな疑問を持つ読者もいるかもしれない。しかし、従来の風力発電タービンを地球からロケットなどの輸送機で輸送するには重すぎて不可能に近いのだ。

火星に設置される原子力発電イメージ
(出典:NASA)

おそらく、そう遠くない月面有人活動において、原子力発電は有力なエネルギー源の選択肢の一つとなるだろう。しかし、先述したように科学者の中にも懸念点があるように、万が一の事故などを十分想定した安全なものにしなければならないだろう。それは火星の場合でも同様だ。原子力発電の選択には、賛否あるだろうが、地球という星から月や火星という星にフィールドが移ったとしても、安全でクリーンな発電であることを願いたい。

文/齊田興哉
2004年東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。同年、宇宙航空研究開発機構JAXAに入社し、人工衛星の2機の開発プロジェクトに従事。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。新刊「ビジネスモデルの未来予報図51」を出版。各メディアの情報発信に力を入れている。

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