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日本では誰もが気軽に医療を受けることができます。医療費の負担割合が原則3割で済むからです。それを支えているのが国民皆保険制度であり、公的医療保険として個人事業主なら国民健康保険、会社勤めなら社会保険(健康保険組合、協会けんぽなど)に加入しているはず。
ただ、このふたつの医療保険。負担割合が同じでも、中身はかなり違います。
国民健康保険と社会保険の根本的な違い
国民健康保険の保険者(運営主体)は、都道府県と特別区を含む市町村になります。被保険者(その保険の給付を受けることができる人)の年齢層はこどもから74歳まで。保険料の算出方法は運営主体の財政に影響を受け、市町村ごとに異なります。
社会保険の保険者は、大企業なら健康保険組合、中小企業は協会けんぽのケースが多く、被保険者は働き世代とその家族になります。
国民健康保険と社会保険は重複して加入できない
国民健康保険制度は「他の医療保険制度に加入していない全ての人を対象」にしています。つまり、国民は医療保険に必ず入ることになるわけです。
重複して加入することはできないので、退職や転職などでどちらかの医療保険の資格を失った時は、切り替えの手続きをしなければなりません。
国民健康保険と社会保険は負担額が違う
両者に共通しているのは前年度の収入により保険料が変わること。仮に保険料が20万円だとしたら、国民健康保険の被保険者は、当然のことながら全額の20万円を払うことになります。
一方、社会保険は所属している会社が50%負担してくれます。つまり、被保険は10万円で済むわけです。社会保険は給料から無条件に天引きされるため、イメージ的に「高い」と感じている声も聞きますが、実際はかなりお得なのです。
国民健康保険と社会保険の、扶養と控除の考え方
社会保険は被保険者の同一の世帯で、配偶者や子、孫など被保険者によって生計を維持している人を被扶養者として認定し、病気やケガ、死亡、出産について保険給付が受けられます。ただし、認定には原則、年間収入130万円未満といった条件がつきます。
国民健康保険に扶養という考え方はなく、住民票が同一世帯であれば一緒に加入となり、保険料は世帯主あてに一緒に請求されます。
医療保険は控除を受けることができます。国民健康保険ならその人が支払った保険料の全額が対象となり、確定申告により控除されます。社会保険は年末調整で控除が適用されるので、原則、自分から何かアクションを起こす必要はありません。
国民健康保険の社会保険料控除証明書は必要か
国民健康保険被保険者は確定申告を行うことでその保険料の控除を受けることができ、年間どのくらい払ったか証明する書類の添付は不要です。ただし、いくら払ったかわからない時は、役所の窓口で納付額がわかる書類を発行してもらえます。
国民健康保険と社会保険の切り替え方法と、二重払いの可能性
転職や退職に伴い、医療保険の切り替えが必要になることがあり、期限内に届出を行う必要があります。とくに国民健康保険は資格の取得・喪失の日から14日以内と決められています。できるだけ早めに行ない、医療保険が途切れないようにすることが大切です。
会社から会社への転職で、途中に空白期間がある時は、原則、国民健康保険への加入が必要です。ただし加入期間が数日の場合、保険料がかからないケースもあるので、まずは役場の窓口で確認しましょう。
保険料の二重払いは、同月得喪(どうげつとくそう)で起こることがあります。これは同じ月に入社と退職を場合、社会保険の健康保険料は1か月分納めるルールによるもので、退職後に国民健康保険に加入し月末を迎えれば、その保険料も納める。つまり二重払いが起こる珍しい例といえます。
※データは2022年6月下旬時点での編集部調べ。
※情報は万全を期していますが、その内容の完全性・正確性を保証するものではありません。
取材・文/西内義雄
医療・保健ジャーナリスト。専門は病気の予防などの保健分野。東京大学医療政策人材養成講座/東京大学公共政策大学院医療政策・教育ユニット、医療政策実践コミュニティ修了生。高知県観光特使。飛行機マニアでもある。JGC&SFC会員。