女性の本当の気持ちを知って、モテる男性になるための必殺技
ベストセラー「上級国民/下級国民」(小学館新書)でもおなじみ、橘玲先生が監訳した「モテるために必要なことはダーウィンが教えてくれた 進化心理学が教える最強の恋愛戦略」(タッカー・マックス著, ジェフリー・ミラー著, 橘玲監訳, 寺田早紀翻訳, 河合隼雄翻訳、SBクリエイティブ刊、定価1870円)が話題になっている。
今、日本の若い男女の恋愛状況は厳しく、内閣府の調査では20歳代の独身男性の4割が女性とデートをしたことがないと報道されている。カップル誕生までには厳しい道のりが待っている。
そんな中、本書で紹介されているモテる男性になるための方法は、これまでの恋愛指南書と全く異なり、進化心理学など、学問的にきちんとしたエビデンスに基づいているものだった。
今回は監訳の橘先生に、この本をもっと深く読むために、文書によるインタビューをお願いした。先生、よろしくお願いします。
世界中に広がってしまった男性のライバル
――橘先生はこれまでにも『残酷すぎる成功法則 : 9割まちがえる「その常識」を科学する』(エリック・バーカー著)など複数の翻訳、監訳を行っていますが、今回は男女の恋愛という、まったく新しい分野です。この本を選んだ理由を教えてください。
橘先生 婚活サイトや出会い系サイトによって恋愛市場は大きく拡大し、それにともなって性愛をめぐる競争が激しくなってきました。これまでは学校や会社という狭い範囲で目立てばよかったのが、いまでは日本中、あるいは世界中にライバルがいます。
著者たちが繰り返し述べているように、男女の性愛の生物学的な違いによって、恋愛の選択は二つの段階に分かれています。第一段階では、男性が競争して女性が選択する。そして第二段階で、選ばれた男性がどの女性と長期的な関係をもつかを選択する、というものです。
マンガやアニメ、小説など、恋愛をめぐる物語で描かれるのは主に第二段階のやりとりですが、多くの男性にとっては、実は最初の壁を突破するのがきわめて難しい。その結果、若くして性愛市場から脱落してしまうのが「非モテ」問題で、日本だけでなく欧米でも大きな社会問題になっています。
「非モテ」を解消する即効薬として、ピックアップ・アーティスト(PUA/ナンパ師)のテクニックが一時期、脚光を浴びました。女性の脳を進化の過程でつくられたプログラムと見なして、それをリバースエンジニアリングすることで、どのインプットに対してどんなアウトプットが返ってくるかを操作できるという、きわめて工学的な発想です。
こうしたPUAのテクニックには一定の効果があるようですが、それがネットを介してあまりに広まったために、激しい反発を引き起こすことになりました。女性を機械のように扱っているというだけでなく、インセル(非自発的禁欲主義者)を自称して無差別の銃乱射事件を起こした若者が、PUAのコミュニティに参加し、それでもモテなかったことで、自分を相手にしない若い女性に対して強い憎悪をもつようになったということがわかったからです。
リベラル化する現代社会でこれ以上の方法はない
橘先生 著者の一人であるジェフリー・ミラーは気鋭の進化心理学者ですが、こうした“俗流進化論”を強く批判しています。
その一方で、社会のリベラル化によって、「セックスには相手の同意が必要」というのが共通ルールになってきました。日本でも、同意のない性行為を犯罪と見なすという方向での法改正が議論されています。
性暴力をなくすためには必要なことですが、これだけだと「セックスは恐ろしいもの」と思う男性が出てくる可能性もあります。相手の同意を求めるためには、男性と女性が親密な関係になる必要がありますが、そこに至るまでの方法についてはいっさい教えず、「相手からの同意の獲得に失敗したら、一生涯、性犯罪者の烙印を捺される」と脅されているような印象を与えかねません。
こうした現状に強い危機感を覚えた著者たちは、モテに悩む男性たちに、進化の仕組みにのっとって、女性がどのような男性を(生物として)求めているのかを説明し、その期待に応えることでモテるようになるというアドバイスをしています。これが「倫理的・道徳的なモテ戦略」で、「ますますリベラル化する現代社会では、これ以外の方法はない」というのはきわめて説得力があります。
こうした状況はアメリカの方がより深刻ですが、日本でもいずれ同じことが起きる(あるいは、すでに起きている)でしょう。だとしたら、本書がきっと役に立つと思ったのが翻訳・紹介した理由です。
600ページもの原作を日本人向けに編集
――監訳で最も苦労された点はどこですか?
橘先生 原書は大部の本で、そのまま訳出すると600ページを超える分厚さになってしまいます。これでは定価も高くなり、多くの読者の手に取ってもらうのが難しくなってしまうので、著者たちに事情を説明したうえで、日本向けに編集する許可をもらいました。
「女が望むような男になる」という原則はまったく変えていませんが、パーティでのハグやキスの仕方など、日本の恋愛文化に合わないところをかなり削って330ページに収めました。手前味噌ですが、原書よりすっきりした仕上がりになったと思います。
男の子の母親にはぜひ読んで欲しい
――この本の読者は男性を意識されていると思いますが、女性にとっても「自分はこんな男性を望んでいたのか」という気付きにもつながる内容でした。橘先生は女性の読者を想定されていますか?その理由も教えてください。
橘先生 真っ先に読んでほしい女性読者は、男の子の母親ですね。もちろん父親もですが、いちばん心配しているのは、思春期になった子どもが性愛から脱落してしまうことでしょう。性の話を親が子どもにするのは難しいでしょうが、本書はきわめて論理的に書かれているので、説教臭さはまったくありません。高校生はもちろん、早熟な中学生でもじゅうぶん読めるでしょう。
本書に出会って真っ先に思ったのは、10代でこのことを知っていたら、人生はずいぶん変わっただろうということでした。
若い女性が読めば男性を理解できる
橘先生 若い女性にとっても、この本を読めば、男性がなにを考えていて、なぜそんな行動をとるのかを理解できるでしょう。本書の重要なアドバイスは「恋愛のタイムスパンを合わせる」ことですが、ほとんどの場合、男性が短期的な関係を望み、女性が長期的な関係を求めることで、さまざまなやっかいな事態が起こります。
男性が発するシグナルを正しく解読できれば、口先だけの甘い言葉に惑わされることなく、安定した関係を築ける男性と出会えると思います。
――最後に@DIME読者に恋愛に関するエールかアドバイスがあればお願いいたします。
橘先生 「女が求める男になる」ということは、頼りがいのある魅力的な人間になるということでもあるので、恋愛だけでなくすべての人間関係にあてはまります。本来、モテる男は仕事もできるし、仕事で成功すれば女性たちの注目が集まってモテるようになるという好循環になるはずです。
最高の男しかモテないのは俗説
橘先生 それと、「アルファ(最高の男)しかモテない」というのは俗説です。際立って魅力的な男性はいるでしょうが、一夫一妻制のしばりがあるために、長期的につき合える女性の数はせいぜい数人です。生殖には生物学的な限界があるので、ふつうの女性は、アルファを追いかけるような確率の低いギャンブルで何年も無駄にしようとは思わないでしょう。
現代の女性のいちばんの不満は「まともな男はみんな結婚している」です。だとしたら、「まともな男」になるだけで、ちゃんとモテるようになるはずです。本書で述べられているように、それはけっして難しいことではありません。モテる男性が増えれば、多くの女性が幸せになります。これは個人にとっても、社会にとっても、とてもよいことだと思います。
――ありがとうございました。
モテるためにはお金持ちでなければ…そんな風に思っている人がいたら、ぜひこの本で女性の心理を理解して欲しい。橘先生渾身のこの一冊で、出会いに悩む男性だけでなく、女性も幸せをつかみやすくなるのではないだろうか。
著者紹介
橘 玲(たちばな あきら)
2002年、小説『マネーロンダリング』(幻冬舎)でデビュー。同年、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラーに。06年、小説『永遠の旅行者』(幻冬舎)が第19回山本周五郎賞候補作となる。また、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮社)で新書大賞2017受賞。『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』(幻冬舎)、『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『上級国民/下級国民』(小学館)、『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』(幻冬舎)、『裏道を行け』(講談社)ほか著書多数。
文/柿川鮎子
編集/inox.