人工甘味料で発症リスクが高まる!?
「新型コロナの発症リスクと、人工甘味料の摂取量が関係している」と聞いたら、どう思われるだろうか?
これは、陰謀論や疑似科学の話ではなく、人工知能(AI)がはじき出した分析結果をそのまま述べただけにすぎない。
人工甘味料だけではない。AIの分析によれば、食用油脂、乳製品、チキンブイヨンなど多くの食品と発症リスクが相関しているという―そう語るのは、(株)シグナルトーク代表取締役の栢孝文さんだ。
栢さんの会社は、ゲームソフト開発を皮切りに、近年はヘルスケアテックを主業としている。
昨年は、新型コロナの将来発症リスクを判定する世界初のスマホサービスをリリースするなど、AIを活用した開発にも力を入れる。
なかでも同社が得意とする分野が食品と健康だ。食品の健康度をAIが自動判定するアプリ「FoodScore(フードスコア)」は、食品のバーコードや原材料をスマホで読み込むだけで判定できると評判。日本人の健康意識向上に一役買っている。
■悪化する日本人の腸内環境
ところで、個々人レベルで感染症を発症しやすいかどうかの指標に「免疫力」がある。医学研究の進展で、免疫力が高いか低いかは、かなりの程度腸内環境に依存していることがわかっている。
栢さんの言葉を借りれば、「腸は、人体で最大といわれる免疫組織を持つとともに、その免疫を高めるのに欠かせない機能を持つ点でも大注目の臓器」なのだ。
にもかかわらず、日本人の腸内環境は悪化しているという。その理由として栢さんは、「栄養バランスの悪い食事や運動不足、不規則な生活やストレス」を挙げる。
とりわけ重要なのが「食事」だ。言うまでもなく、食事に含まれる栄養は、人体にとって必要なだけでなく、腸内細菌が活動するためのエネルギー源にもなる。
もし、腸内細菌に必要なものが不足し、代わりに好ましくないものが入ってくれば、結果として免疫力が低下し、感染症のリスクが高まる。
■15万件のデータをもとにAIが分析
では、どんな食品が、免疫力を低下させるのだろうか? 大きな関心を持った栢さんは、得意の AI を活用して、新型コロナの感染リスクと食材との関係を調べた。
方法としては、1500人の男女から、普段よく食べている食品を、年齢や既往症(新型コロナ含む)とあわせて答えてもらい、およそ15万件のデータを収集。
これに、同社のヘルスケア事業で集めた1万人分のデータや、世界中の新型コロナに関する論文の情報も盛り込み、AI によって分析をかけた。その結果は、栢さんの著書『新型コロナ発症した人 しなかった人』(幻冬舎)に詳しい。
冒頭で挙げた人工甘味料は、本書に詳細が記されている。その中で栢さんは、「オッズ比」という数値で発症リスクを示している。
これは、その食材を摂っている人は、摂っていない人に比べて、どれだけ発症リスクが高いかを意味するという。
例えば、パラチノースという人工甘味料は、オッズ比が22.6倍。これは、パラチノースを普段から摂っている人は、摂っていない人より発症リスクが22.6倍になることを意味する。
コーンシロップ(12.1)やソルビット(9.9)など、差はあれど人工甘味料は軒並みオッズ比が高い。悪者とされがちなブドウ糖(6.8)の方が、まだマシと思えるほど。
これをもってはっきりとコロナ発症の因果関係を証明するわけではないが、考慮すべき相関関係があることは確か。
最近の研究では、血糖値を上げないはずの人工甘味料を習慣的に飲む人のほうが、糖尿病発症者が多いという。人工甘味料は控えたほうが賢明のようだ。
■健康に良さそうに見えて要注意の食品
また、本書には食品添加物のオッズ比を記した長いリストがある。オッズ比の高い順に、粉大豆たんぱく(17.8)、じゃがいもでん粉(17.3)、チキンブイヨン(16.5)などと続く。
なかには、アントシアニン(13.4)や昆布エキス(6.3)といった健康に良さそうに思えるものも。これは、どう考えるべきだろうか。栢さんは、次のように解説する。
「例えば粉大豆たんぱくなどは植物性たんぱくとして大豆ミートなどに使用され健康的なイメージがありますが、多くは危険な化学物質を使用した化学製法で抽出されていて健康を害する恐れがあると言われています。
そういった影響もあり、AIも新型コロナの発症リスクが高いという数値を叩きだしているのだと思います。
また、アントシアニンや昆布エキスも同様に食物に含まれているものを抽出した添加物ですので、成分そのものが健康に良くないという事はないと思いますが、こういったものは本来はアントシアニンであればブルーベリーなどに、昆布エキスはもちろん昆布に自然に含まれているものであり、原材料名表示には現れるものではありません。
わざわざこれらを抽出した添加物を使用している加工食品を食べることが、健康を害し、結果的に免疫力を下げ新型コロナの発症リスクをあげている、とAIが計算結果を出したのだと思います」
■免疫力の“エリート”は何を食べているのか
さらに興味深いデータもある。家族が感染するなど濃厚接触者なのに、PCR検査は陰性だったという人の食生活の傾向だ。
こうした人を栢さんは、とても優秀な免疫システムに守られている“エリート”と名付けている。
本書には、エリートが食べている食材も一覧になっている。ダントツでトップなのが、豚ロース(46.0)。
続いて、米ぬか(29.8)、海藻(25.3)、酒粕(23.0)などと続く。この場合のオッズ比は、濃厚接触者でPCR陰性になる確率が、食べている人と食べていない人では何倍違うかを意味する。
肉もあれば、野菜もあり、魚もあったりと、共通性はなさそうに見えるが…… 再び、栢さんの解説を願おう。
「これらの結果にはAIを開発している我々も最初驚いたのですが、従来から健康の維持向上に役立つと言われている食品ばかりです。
豚肉はビタミンB1などが豊富で疲労回復に有効と言われてきているものですし、米ぬかには食物繊維が豊富なため整腸作用があり、フィチン酸なども含むため抗酸化作用により免疫力向上効果があると言われています。
また、海藻にはマグネシウム、ヨウ素、鉄、亜鉛などのミネラルが豊富に含まれるのはもちろん、水溶性食物繊維を持つことにより便秘改善などに役立ち腸内環境を整える働きがあります。
酒粕などの発酵食品は腸内細菌のエサになることで、腸内で作られる免疫物質の生成に役立つと言われている食品群です。
これらの成分が体内で働く仕組みを一つ一つAIに教えたわけではないのに、新型コロナとの関連をAIがデータとして見事にはじき出したことに驚きましたので、書籍にも掲載しました」
栢さんは、「コロナ禍を契機に、自前の防御システムである免疫の重要性が知られるようになった今こそ、人は自分が食べたものでできているというこの当たり前の事実に立ち返るべき」だと、力説する。
オッズ比の高低が即、感染症リスクの高低に直結するわけでもないだろうが、発症リスクと相関する食品は、糖尿病など健康リスクが判明しているものが多い。
そうした食品を徐々に減らすところから始めていけば、将来また別のパンデミックが起きたときの予防策となるはずである。
文/鈴木拓也(フリーライター)