AIで気候変動に対応!台湾で開催されたウェビナーをレポート
今、気候変動の影響を感じる場面が増えている。状況が待ったなしであることに変わりはないが、幸いなことに気候変動の影響を軽減し、企業や業界全体の意志決定の指標を得るためにAIを活用できるという。
台湾で、AIと気候変動に関する最新のトピックについて議論するウェビナー「Global Use of AI in Tackling Climate Change」が開催された。主催は台湾経済省内の産業開発局(IDB)と、気候変動に対応するためのAIの活用の推進を目的とするCenter for AI&Climate。
「AIの力によっていかに気候変動の問題を解決するか」を論点とするウェビナーは、国際的な機関と台湾のAIハブの専門家らによる議論や意見の交換を通じて、AIのポリシーと技術、応用技術についての理解を広める機会となった。
この記事では5月25日、現地時間の午前と午後、それぞれ1時間半に渡って開催されたウェビナーと、オンラインで公開されている参考資料から、気候変動対策にAIを適用できる分野と具体例を紹介する。
AIが気候変動対策を促進する10の分野
AIを使うことで、整理されていない膨大な生データや過去に起こった気象現象、規則性のない多種多様な情報から、気候変動に関わる精度の高い有用な情報を導き出すことが可能であると同時に、科学の分野での発見にも寄与することができる。この特長を生かせる10の分野と、具体的な例を見ていこう。
1.電力システム
AIを使って予測することで電力の需要量と供給量のバランスを保ち、消費電力の削減と再生可能エネルギーの利用割合を高めることができる。また、複数地点に分散する小規模発電施設から供給される電力の有効な活用も可能である。
さらに再生可能電力の風力タービンやソーラーパネルのオペレーションが改善できるとともに、見逃されがちな、メタンガスが漏れているガスのパイプラインの場所をピンポイントに把握する際にも有効である。
2.建物と都市
AIによって、都市環境における電力使用を効率的に管理することが可能となる。ビル内での電力消費に関するデータが収集されていないケースでは、衛星画像を利用して建物の特性からエネルギーの使用量を推測したり、デジタルで計測した電力を分析することができる。
スマートビルディングと呼ばれる、高度に情報管理されたビル内では、AIが空調や照明を調整することでビルの機能を最適化することが可能である。結果的に使用する電力が抑えられることによって、二酸化炭素削減につながり気候変動を抑制できるのである。
3.交通機関
AIに公共交通機関やインフラの需要を予測させ、交通機関の利用率の予測をより正確なものとすることで、交通機関の脱炭素化を目指すことができる。また、貨物の運送経路と運行計画を最適化し、電車やバイオ燃料など、より低炭素な選択肢を考慮する際のツールにもなり得る。さらに電気自動車の普及のベースとなる充電プロトコルと充電場所を最適化する上でもAIは有用である。
4.重工業と製造業
重工業の分野で脱炭素化を図るためにもAIを使うことができる。例えば生産プロセスにおけるエネルギー消費の最適化、エネルギー需要をおさえる物質の発見に活用が可能。
リサイクル原料を処理する際、アルミニウムやスチールといったエネルギーを大量に消費する廃棄物の仕分けにおいても、AIはその力を発揮する。仕分け作業が高度化することにより、新しい原料の採掘や未加工の原料の処理にかかる炭素排出をおさえることにつながるのだ。
5.農業
精密農業と呼ばれる分野では、農業を通じて排出される温室効果ガスの削減に寄与する。また作物の状態や成長をモニタリングし、収穫量を予測することで、干ばつや異常気象の際にも事前に策を講じることで、食糧の安定的な確保が可能となる。
6.林業とその他の土地利用
衛星からの映像を使って土地の有効な利用方法を決めたり、カーボンオフセットの計算をする役割をAIが担うことができる。また生態系を活用して炭素除去を行う際にもAIの導入が効果的である。
土地利用の状況や森林破壊の範囲の把握、またドローンによる植林を進めたり、山火事のリスクやその広がりを予測したりする際にもAIは有用である。
7.気候科学
AIを使って衛星画像を分析し、気候や気象、その他の地球環境の予測精度を高めることができる。気象災害といった危機のシミュレーション結果を素早く算出できるため、危険のある場所について局所的な解像度を上げて、リスク予測を行うことが可能である。
8.社会への適用
気候変動を原因とする社会的なパンデミックを和らげるためにもAIが活用できる。気候変動の影響を受けやすい脆弱な土地を特定したり、メンテナンスが必要なインフラを特定し事前に対応することで、問題を未然に防ぎ、社会への影響がおさえられるのだ。
嵐や洪水、火事のような災害においては、AIを用いて危険にさらされている人を特定し、救援活動を支援することが可能だ。
9.生態系と生物多様性
気候変動に際し、生物の多様性を保全する目的でもAIを活用できる。例えば音声や画像を使って動植物の種類を特定し観察を行うなどで、生態系の変化を把握するなど。
またシチズンサイエンスと呼ばれる分野では、市民が収集したデータから生態情報を分析する際にもAIの活用が始まっている。
10.気候変動政策
1〜9で紹介している方法は、政策決定に必要となる重要なデータを提供する。また、複数の選択肢について検討する際や、実行された政策の有効性を検証する際にもAIが有用である。
参考:
Use AI in Tackling Climate Change: Experience Sharing from Taiwan and the World | CISION
CLIMATE CHANGE AND AI : Recommendations for Government | Global Partnership on AI Report
文/森野みどり
編集/inox.