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AV新法のスピード施行について業界関係者から批判が噴出している理由

2022.07.08

2022年6月15日、国会で「AV出演被害防止・救済法(AV新法)※」が可決・成立し、同月23日付でスピード施行されました。

AV新法は、いわゆる「アダルトビデオ」の出演者を保護することを目的とした法律です。しかし、制作現場の意見を無視した拙速な立法であるとして、AV業界関係者を中心に批判が噴出しています。

今回はAV新法について、制定の背景・主なルール・問題点などをまとめました。

※正式名称:性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律

1. AV出演被害防止・救済法(AV新法)が制定された背景

AV新法が制定された背景には、性行為などを撮影したアダルトビデオ(AV)への出演を強要されたり、騙されてAVに出演させられたりする被害を撲滅すべきという問題意識があります。

もともとAV新法は、2022年4月1日より成年年齢が引き下げられた(20歳→18歳)ことに伴って、検討が開始されたものです。

未成年者取消権を行使できなくなった18歳・19歳の方について、AV出演に関する被害が拡大するおそれがあると指摘されたことが、AV新法に関する検討開始のきっかけとなりました。

しかし実際に制定されたAV新法では、18歳・19歳の方に限らず、すべての年齢のAV出演者に共通して適用されるルールが定められました。

その結果としてAV新法は、アダルトビデオの制作事業に対して強い制限を加える内容になっています。

2. AV新法の主なルール

AV新法で定められたルールのうち、主要なものは以下のとおりです。

2-1. 契約書の締結・締結時の説明義務

アダルトビデオへの出演契約は、個々の作品ごとに書面または電磁的記録(電子契約)で締結しなければなりません(AV新法4条)。

またアダルトビデオの制作公表者は、出演契約を締結する際、AV新法や民法のルール、AV出演のリスクや相談先などについて、出演者に書面または電磁的記録を交付したうえで、丁寧にわかりやすく説明することが義務付けられます(同法5条)

2-2. 撮影時期・作品公表時期の制限

アダルトビデオの撮影は、出演者に対して出演契約書・説明書面が交付されてから、1か月を経過した後でなければ行うことができません(AV新法7条1項)。

また、撮影されたアダルトビデオの公表は、全撮影が終了してから4か月を経過した後でなければ行うことができません(同法9条)。

これらの規定に違反してアダルトビデオが撮影または公表された場合、出演者は出演契約を解除できます(同法12条1項)。

2-3. 出演者の任意解除権・差止請求権

アダルトビデオの公表から1年(2024年6月22日までに締結された出演契約については2年)が経過するまでの間、出演者は書面または電磁的記録により、出演契約を任意に解除できます(AV新法13条1項、附則3条)。

任意解除権に基づき出演契約を解除した場合、出演者は制作公表者に対する損害賠償責任を負いません(同法13条3項)。

さらに出演者は、出演契約を解除したアダルトビデオの公表中止・回収などを請求できます(同法15条1項)。

3. AV新法は制作者側の自由を制限する|憲法上の問題点は?

AV新法は、アダルトビデオの制作者などの自由を大幅に制限するものです。

日本国憲法との関係で、自由を制限する目的・手段に合理性が認められない法律は違憲です。

したがってAV新法についても、アダルトビデオの制作者などの自由を不当に制限していないかどうかの観点から、違憲審査が問題になり得ます。

しかしこの点、AV新法によって制限されているのは、アダルトビデオの制作者などの「営業の自由」であると考えられるところ、営業の自由は「経済的自由権」に分類されます。

経済的自由権は、表現の自由などの「精神的自由権」に対して劣後するというのが、憲法解釈における通説的な考え方です。

これに対して、AV新法が保護しようとしているのは出演者の「性をめぐる個人の尊厳」、つまり「人格権」や「自己決定権」に当たるもので、これらは日本国憲法において特に重要視されている基本的人権です。

上記の自由・権利の性質と、過去の判例の傾向に鑑みると、仮にAV新法が裁判所の違憲審査にかけられたとしても、裁判所は緩やかな基準によって違憲性を判断する可能性が高いでしょう。

そのためAV新法の規制が、アダルトビデオの制作者などにとって非常に厳しいものであっても、「違憲とまでは言えない」という判断になる公算が強いように思われます。

4. AV新法は、出演者にとっても害を及ぼし得る

仮に違憲でないとしても、AV新法による規制は、出演者にとってマイナスに働き得るうえに、「AV出演被害の防止・救済」という目的すら満足に果たせない可能性があります。

4-1. AV出演者としての新規参入が難しくなる

AV新法により、アダルトビデオの公表から1年間(2024年6月22日までに締結された出演契約については2年間)は、出演者が自由に出演契約を解除し、さらにアダルトビデオの公表中止・回収などを請求できるようになりました。

出演契約の解除・公表中止等に発展した場合、アダルトビデオの制作にかかったコストが無駄になり、制作者は甚大な損失を被ってしまいます。

制作者の立場では、出演契約の解除を言い出さないと信頼できる、十分な出演実績のある出演者しかキャスティングしない判断が合理的になるでしょう。

その結果、自分の意思でアダルトビデオに出演しようと決意した方にとっては、新規参入のハードルが相当上がってしまうおそれがあります。

4-2. 優良事業者が縮小し、違法事業者が増加するおそれあり

AV新法の規制は非常に厳しいため、既存のAVメーカーなどの多くは、事業を縮小せざるを得ないことが予想されます。

特に、出演者の保護へ積極的に取り組む優良AVメーカーこそ、AV新法の規制遵守を徹底した結果、事業縮小に追い込まれてしまう可能性が高いでしょう。

結果的に、あぶれてしまった出演希望者(特に新人やキャリアの浅い方)が、法令や自主規制を無視する違法・劣悪なAVメーカーに引き寄せられてしまうおそれが否定できません。

AV新法が施行されたことにより、かえってAV出演被害に遭う方を増やしてしまっては本末転倒です。

5. まとめ

AV新法については、施行後2年以内に再検討を行い、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとされています(附則4条)。

制作現場の声にも耳を傾けつつ、現状の規制内容が妥当かどうかをフラットな視点で検討したうえで、適切な見直しが行われることを期待します。

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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