■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は、新製品が続々と発売されている2022年夏スマホについて話し合っていきます。
通信キャリアの端末発表会はやっぱり必要?
房野氏:ハイエンド、ミドルレンジともに、2022年夏のスマートフォンが続々と発表、発売されていますね。
法林氏:ついに通信キャリア4社のうち、端末説明会をドコモしかやらなくなったね。そのドコモも、メディア関係者にお披露目しただけ。大規模な発表会を各社やらなくなってしまった。それから、ドコモの夏モデルラインアップです……と紹介したけれど、事前にメーカーが発表していない端末はほとんどなかった。
石野氏:最近はメーカーが率先して発表するようになりましたからね。
法林氏:やっぱり、ドコモみたいに「2022年モデルを発表します」とお披露目すれば、ニュースになるので、発表会はやっておいたほうがいい。五月雨式にだらだらと順次発売していくのは、盛り上がりに欠ける。
石川氏:タレントが登場するセッションなどあれば、朝の情報番組などでも取り扱われる可能性が高いので、もう少しネタを仕込んでやってもいいのかなと思います。
石野氏:あと、メーカーから発表済みの端末が多くても、端末説明会の記事は結構読まれているみたいです。
房野氏:端末のニュースは読まれるといいますよね。
法林氏:結局、端末を並べて発表するのは大事。auやソフトバンク、楽天モバイルもやったほうがいいですよ。
「Galaxy S22」「Galaxy S22 Ultra」は絶好調! 折りたたみ機種とのすみわけは?
房野氏:端末ごとに見た時に、気になる製品はありますか?
法林氏:「Galaxy S22」「Galaxy S22 Ultra」は発売済みだけど、特にGalaxy S22 Ultraの売れ行きが想定以上に良かった。
石野氏:そうみたいですね。その話はドコモからも、サムスンからも聞いています。
法林氏:来年「Galaxy S23(仮名)」が出る頃までには、結局、Galaxy S22がの方が売れることになるんだろうけれど、「Galaxy Note」シリーズが約1年半前になくなっているので、その後継となれたのは大きい。総額18万円超えと、価格は高いけれどね。
石野氏:思ったよりも、Galaxy Noteから「Galaxy Z Fold3 5G」に流れる人は少なかったみたいですね。個人的には、18万円強の価格なら、あと5万円足して折りたたみにしたほうが楽しいよって思うんですけどね。
房野氏:私は折りたたみより普通のモデルが好きですね。開けたり折りたたんだりするのがちょっと面倒だし、Galaxy Z Fold3 5GにはSペンが内蔵されていないのが気になります。
石野氏:開くのが面倒くさいって、フォルダブルスマートフォン全否定ですね(笑)
房野氏:座ってじっくりと使う分にはいいけれど、移動中などにパパっと使う用途は満たせないかなと思ってしまうんですよ。
石野氏:まぁ僕も、Galaxy Z Fold3 5Gを使っていたら、ドコモの人に「開くの面倒くさくなりませんか?」って聞かれましたね(笑)
石川氏:やっぱり、両手で使うことが前提になると、扱いにくく感じちゃうよね。
法林氏:結局そこだよね。今にしてみれば、ケータイのワンプッシュオープンは偉大だったなと改めて思います。
スマートフォンカメラは今年も「1インチセンサー」に注目
石川氏:個人的に今回の夏モデルで注目したのは、シャープの「AQUOS R7」。前モデルの「AQUOS R6」でウィークポイントだった、カメラのAF速度などをしっかり改善しているようなので、どう仕上がっているのか注目ですね。
法林氏:実機レベルの調整が終わるまでは、メディア関係者に触らせないようにしているんですよ。調整中なのに、「iPhoneのほうが良い」っていう人がいるから(笑)
石野氏:前作のAQUOS R6は1インチセンサー搭載ということで、周囲の期待値を上げすぎてしまった感もありますからね。
石川氏:ただ、AQUOS R7では新しい1インチセンサーを搭載しているので、チューニングがどうなるのか注目ですね。
カメラセンサーの大型化が進むと、ソニーがイメージングセンサー部門で、かなり売り上げが伸びると言っている。事業説明会では、AIと組み合わせることで、2024年にはスマートフォンカメラの画質が、一眼レフカメラを超えるといい切っていた。AQUOS R6/R7とか、「Xperia Pro-I」はその先駆けで、もしかしたら秋発売のiPhoneも、センサーサイズが大きくなるかもしれません。
房野氏:iPhoneに1インチセンサーを搭載するんですか?
石川氏:1インチまでかはわかりませんが、センサーサイズが大きくなることは間違いないと思います。
石野氏:「Pixel 7/7 Pro」でも、センサーサイズの大型化はあり得ますよね。
石川氏:あるかもしれないけれど、Pixelの販売台数はそこまで多くない。ソニーの「売り上げが大幅に上がる」という発言は、数多く売れるものに対して搭載されるという宣言でもあるので、やっぱりiPhoneじゃないですかね。
法林氏:それでいうと、ライカと協業するXiaomiが搭載するんじゃないの?
石川氏:Xiaomiの場合は、1つのモデルがバカ売れするとは考えにくくないですか?
法林氏:まぁXiaomiは、バリエーションを多く展開して、トータルで売れるメーカーだからね。
石野氏:ただ、Xiaomiは1億800万画素のカメラを大量調達して、いろいろなミドルレンジ端末に搭載しまくっているので、モジュールだけ大量に仕入れるとか、そんな戦略をしかねないです。
法林氏:Xiaomiは部材をめちゃくちゃ持っているからね。それは確かに強み。
石川氏:あと、ソニーの「Xperia 1 IV」は望遠レンズが強化されているけど、1インチセンサーは搭載していない。なぜトレンドを乗せないんだろうとは思ってしまいます。
法林氏:Xperia Pro-Iの新型で新しい1インチのイメージセンサーを搭載するのかな。あと、ライカが「Leitz Phone」の新型で搭載すると思う。
石野氏:ちょっと違和感があるのは、ソニーは1インチセンサーは頑張っているけれど、AIについては、そこまで力を入れていないこと(笑)
法林氏:ソニーはデジタル一眼レフの「α」シリーズでAIをやっていない。デジカメはもともとAIを乗せる世界ではないからね。
房野氏:AQUOS R7のイメージセンサーはソニー製ですよね。同じイメージセンサーを使っても、写真の仕上がりは異なるものですか?
法林氏:スマートフォンのカメラ用のセンサーは、XiaomiとかOPPO用も含めて、ソニー製が多いけれど、それぞれのメーカーには独自の画像処理技術があるし、独自でプログラムを書くメーカーもある。カメラの性能にはイメージセンサーのほかにも、画像処理とか読みだした後の転送、レンズ自体の精度など、様々な要素が絡んでくる。AQUOS R7でいうと、レンズはAQUOS R6のリファインみたいに思われるかもしれないけれど、画像処理のプログラムは全然別物。Snapdragonもプログラムを各社で書き込むので、やり方がそれぞれ違います。
面白いのは、AQUOS R7のデモ機を見た時には、Xperiaみたいな「瞳AF」の表示ができていた点。製品版でやるのかはわからないけどね。
房野氏:瞳AFはソニーの技術ではないのですか?
法林氏:いや、もともとそういう処理の手法があるらしいです。AQUOS R7の製品版で瞳に四角いアイコンを乗せるかどうかはわからないですけどね。
石野氏:多くのスマートフォンでは、ピントがしっかり顔に合うよう、大きく四角いアイコンが表示されますけど、結局は目で合わせないと、ピントはズレますからね。
法林氏:そう。最終的にUIでどう見せるのかという話で、ソニーはその技術に長けています。
石野氏:あとはマーケティング力ですね。
房野氏:AQUOSのカメラ性能はどういう印象ですか?
法林氏:去年のライカとの協業では相当苦労したみたいだけど、その分、社内に技術力が蓄積された。シャープは、以前リコーと組んだ時、カメラ画質が格段に向上した。当時のiPhoneやGalaxyでは撮影できないような暗所でも、シャープだけはくっきりと映っていました。でも、その後、各メーカーが暗所撮影の技術を向上していった。そんな中、シャープは遅れをとった感じもしたけれど、ライカとの協業で追いついた感じです。
石野氏:次は、ライカと協業するXiaomiの画質がグッと上がるかもしれませんね。
法林氏:ファーウェイも、ライカとの協業で、Proシリーズの画質が良くなった。そこで得たノウハウを活かして、協業モデルではないミドルレンジスマートフォンでも、画質が向上している。
房野氏:Xperiaでいえば、長年「ZEISS」のレンズを使っていますよね。
石野氏:そうですね。Xperia 1 IVなどでもZEISSのコーティングを施しているといった形です。
石川氏:そもそもライカにしても、スマートフォンのカメラに対して知見があるのかというと、そうでもないはずだし、レンズの構成や技術にそこまで造詣が深いわけではない。
法林氏:スマートフォンのカメラ技術は、分岐点に来ている感じはあるよね。画質がデジカメライクな方向に進む可能性もあるけれど、パッと撮影するだけで、ボケ感を出してくる、そんな評価軸もある。どっちが正しいのかはわからない。
AIが進化したことで、iPhone SE(第3世代)みたいにシングルカメラでもそこそこきれいな写真が撮れる。レンズを何枚も搭載したり、画素数をいたずらに上げたところで、端末本体の価格が上がるのはいいことなのか……疑問でもある。
房野氏:今後、1インチより大きいセンサーをスマートフォンが搭載する可能性はありますか?
法林氏:センサーサイズもそうだし、画素数もそうだけど、これ以上大きくしても意味があるのかという話。どんな写真や動画に仕上げるかは、各社の味付け次第だと思います。
年々完成度が高まるミドルレンジ、エントリークラスのスマートフォン。注目端末は?
房野氏:ミドルレンジ、エントリークラスのスマートフォンも各社から発表、発売されていますね。
石野氏:否定的な意見を書いてしまい、ソニーモバイル時代の社長の岸田さんから「ビジネスをやる上で必要だ」と力説された「Xperia Ace II」ですが、しっかりと生き残り、この夏、「Xperia Ace III」が登場する。Xperia Ace IIがドコモで売れたおかげで、今回のXperia Ace IIIはドコモに加えて、auとUQ mobileも取り扱う。本当に申し訳ない気持ちです(笑)
ソニーは、ハイエンドモデルを極めると言いながら、しっかりとエントリークラスでもシェアを取っている。そういう、したたかさは健在だなと改めて思いました。
法林氏:Xperiaの評価は難しいと思う。Xperia Ace IIIは、コスパ重視で割り切って作ったモデルだからね。
石野氏:Xperia Ace IIIは、「Xperia」という名前で売ってはいるけれど、本当はXperiaじゃないですよあれは(笑)
石川氏:ソニーに脈々と流れる「Xperiaの名前を付ければ売れる」という風潮が表れている端末です。
法林氏:Xperiaという名前だけというと怒られてしまうけどね。ただ、Xperiaらしいことはちゃんとやっている。触ってみた感触は良かったです。
石野氏:ディスプレイサイズを広げたり、モダンなデザインになるように努力はしていて、そういう意味でいえばだいぶXperiaっぽくなりました。今回のモデルなら、Xperiaのエントリーモデルと言われても、デザイン面などで説得力はある。
房野氏:ほかのミドルレンジスマートフォンで注目端末はありますか?
法林氏:僕は「Galaxy A53」の完成度が高いなと思っています。
石野氏:良く仕上がっていますよね。背面カメラ周りのデザインも良いですし、性能が高くてサクサク動く。カメラもきれいに撮れるので、よくまとまっている印象です。
石川氏:もうあれで十分だよね。
法林氏:「AQUOS wish2」は、価格がほぼ据え置きながら前モデルとチップを変えたので、全体的なパフォーマンスは上がっている。前モデルを買った人には申し訳ないけれど、新型の性能が上がって、よかった。
石川氏:前モデルからあまり期間を空けずに出ているのは、チップの数が足りず生産できないからという噂があります。
法林氏:今回のドコモ2022年夏スマートフォンラインアップで見ると、スタンダードモデルとハイスペックモデルの、売上数の差がとてつもなく開いています。一説によると、ハイスペックモデルは、フィーチャーフォンと変わらないくらいの台数しか売れていないという話もあるくらいです。
石川氏:前に聞いたんだけれど、ハイエンドモデルが1割、エントリーモデルが4割、iPhoneが4割、フィーチャーフォンが1割という売上比率らしいです。Xperiaも含めて、ハイエンドモデルはさらに価格が上昇しているので、市場はさらに小さくなってしまうんじゃないですかね。
房野氏:モトローラからも新製品が発売されていますね。
法林氏:ハイエンドの「motorola edge 30 pro」は、実機を触った感触としてすごく良かったし、8万9800円という価格は魅力ですよね。
石川氏:9万円切りでSnapdragon 8 Gen 1搭載ですからね。一方で、日本仕様のミドルレンジスマートフォンとして発売された「moto g52j 5G」は、動作が少しもっさりしているなと思いました。
石野氏:背面はプラスチック素材ですしね。
法林氏:ただ、XiaomiやOPPOと戦っていくためには、おサイフケータイ機能や防塵防水に対応した端末を出さざるを得ない。そこを今回、しっかりと押さえてきたのは評価したいです。
石野氏:モトローラはラインアップを広げすぎというか、1台ごとの売り上げを下げている感じがする。対応する社員の作業量も増えていくし……。
石川氏:モトローラというブランドは昔から知っている人も多いし、グローバル市場では伸びている。価格競争力もあるので、本来なら、日本の通信キャリアに採用される端末がもっと増えてもいいメーカー。ちょっともったいない印象がありますね。
……続く!
次回は、携帯キャリア4社の決算について会議する予定です。ご期待ください。
法林岳之(ほうりん・ たかゆき)
Web媒体や雑誌などを中心に、スマートフォンや携帯電話、パソコンなど、デジタル関連製品のレビュー記事、ビギナー向けの解説記事などを執筆。解説書などの著書も多数。携帯業界のご意見番。
石川 温(いしかわ・つつむ)
日経ホーム出版社(現日経BP社)に入社後、2003年に独立。国内キャリアやメーカーだけでなく、グーグルやアップルなども取材。NHK Eテレ「趣味どきっ! はじめてのスマホ」で講師役で出演。メルマガ「スマホで業界新聞(月額540円)」を発行中。
石野純也(いしの・じゅんや)
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
房野麻子(ふさの・あさこ)
出版社にて携帯電話雑誌の編集に携わった後、2002年からフリーランスライターとして独立。携帯業界で数少ない女性ライターとして、女性目線のモバイル端末紹介を中心に、雑誌やWeb媒体で執筆活動を行う。
構成/中馬幹弘
文/佐藤文彦