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一度頓挫したプラズマ乳酸菌の研究、社内に味方がいなくなった時に研究者はどう動いたか?

2022.07.03

プラズマ乳酸菌の発見者が自ら語る開発秘話

7月に入り、各地の新型コロナの感染者が減少から増加に向かい始めたようだ。このように今後も感染者の増加&沈静が繰り返されるだろう、と誰もが思っているはず。

さて、今回のコロナ禍により、マスクや手指の消毒などの感染予防に加え、免疫力についても関心が高まった。なかでも免疫低下リスクの対策として、多くの人が積極的に摂るようになったのが乳酸菌だといえよう。

その数ある乳酸菌の中でも、注目を集めているのがプラズマ乳酸菌だ。これは、免疫の司令塔であるpDC(ピーディーシー/プラズマサイトイド樹状細胞)の働きを直接サポートする世界初の乳酸菌である。

プラズマ乳酸菌の電子顕微鏡写真

通常時のpDC

プラズマ乳酸菌は、免疫の司令塔であるpDCを直接サポートすることで、免疫細胞全体が活性化され、健康な人の免疫機能の維持に役立つ機能がある。

プラズマ乳酸菌のサポートで形が変わったpDC

一方、一般的な乳酸菌は免疫の司令塔であるpDCをサポートすることはできず、一部の免疫細胞の働きだけをサポートする。

 

このプラズマ乳酸菌の発見者である、キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業部部長 兼 キリン中央研究所・フェローで農学博士の藤原大介先生に、お話を聞く機会を得た。

その内容は「ええっ!?」と声をあげるほど驚く意外なものであった!

大学では研究に絶望している学生だった!?

--話題のプラズマ乳酸菌の発見者が、どんな方なのか気になるところです。やはり大学時代から研究熱心だったのでしょうか?

藤原先生「いや、それがまったく逆で。大学のときは細胞周期という超基礎研究をやっていました。例えば、教科書に書いてあるような、染色体がどうなってこうなって、という感じ。活用の前の理論研究みたいなことですね。

ただ、自分的には全然面白くなくて(苦笑)。何かの製品になる目算があるわけでもないし。私はよく“この研究が世の中で何の役に立つんですか?”と先生に聞いていました。

研究する目的を理解していないので、結果も出せるわけがなく、研究することに絶望していましたね。つまんないな~、と思って」

このときの筆者の内心は「これは……予想の斜め上を行くご回答。大きな成果を上げる研究員さんは、学生時代から研究熱心ではないのか!? そういう仕事術のプロットで取材の質問を考えてきたのだが」と、冷や汗タラリ……。

閑話休題、質問を再開しよう。

--でも、その基礎研究があったからこそ、今、役立っていることがあるのではないでしょうか?(←あくまでも優等生的な答えを導き出そうとしている)

藤原先生「いやー、あまり関係なかったですね。私、大学で研究に向いていないと思ったので会社に入ったんです。“もう研究はやらない!”って。

入社前は、工場勤務を希望していました。工場での生産は、出来たモノを実際に目で見ることができるので、やりがいがあると思って。

ですが、入社式の前日に人事部から電話があって“2年間だけ研究所に勤務してくれ”と」

--それは、藤原先生に何か光るものがあったから「ぜひ研究室に」ってことですね。

藤原先生「多分、私が所属していたのが有名な研究室だったからでしょう。

でも、会社の研究所に入って出会った最初の上司が、素晴らしい方でした。研究がいかに面白いかを、毎日毎日、耳にタコができるほど教えてくださいました。あとは“仕事を楽しむ”ということを。

その上司とは7か月しか一緒に仕事をしていないのですが、研究者として生きていく方法をその方に教わりました」

--研究の楽しさに目覚めて気分一新、最初に着手した研究とは?

藤原先生 「ビールを飲んだときに甘い香りが立ち昇りますが、その香りが酵母の中でどのようにできるのか、という研究を3年くらいやっていました。

その後は薬の研究です。ガンの研究、糖尿病の研究もやっていました」

--キリンさんは医薬の研究もされているのですね。

藤原先生「はい。キリンのグループ企業に協和キリンという製薬会社があります」

プラズマ乳酸菌は、定められたテーマも納期もない自由な研究所で生まれた

--研究内容は会社の方針で変わっていくのでしょうか?

「そこが大事なところですが、うちの会社には基盤技術研究所(現在は中央研究所と改称)というところがありまして。

普通の会社って、ビールの研究所やジュースの研究所など、プロダクトごとに研究所がありますよね。

ところが基盤技術研究所だけは課題がない。研究員がやりたいことをやっていい研究所なのです。定められたテーマも納期もないような」

--聞いたことないですね、そういう会社って!

藤原先生「民間の企業では、ほとんどなかったですね。だから人気ありました。この研究所に入りたいって学生も多くて。

その代わり、厳しいです。課題も納期も定められていませんが、条件として出されていたのが“その研究に関する分野において、一流と認められるレベルでなければならない”ということ」

--成果を出せなかったらどうなるのか、ちょっと聞くのが怖いです……。

藤原先生「取り潰しです。成果が出せないと自分のテーマがなくなるのです。だからある意味、身分が保障されていない」

--キリンさんは、なぜテーマも納期も決められていない研究所をつくったのでしょうか?

藤原先生「人口減少、少子高齢化で国内のビール類市場は減少すると、80年代の終わりくらいにわかっていたからです。そのため、新しいビジネスを支えるような技術をつくらなければ発展はない、と。

それで多角化に向かったわけです。最初は医薬、その後に植物と。どんなテーマがいいか会社でもわからないけれど、何か新しいことをやらなければいけない。それでテーマが決まっていない研究所をつくったのです」

--そこで藤原先生が選んだ研究が免疫?

藤原先生「そうですね。免疫とは、医学の中でいちばん広い研究分野なので。人間の健康に関わる現象の中で、免疫は非常に多くの現象に関係していて、出口がたくさんあるのです。

感染症だけでなく、ガン、糖尿病、老化、目の疲れなど、人間の生命現象を辿っていくと、すべて免疫学で語れるくらいです。応用範囲が広い学問だといえるでしょう」

医学の中でいちばん広い研究分野である免疫を選択(画像はイメージです)

プラズマ乳酸菌の研究は、社内での理解が乏しかった……

--そこでいよいよプラズマ乳酸菌の発見ですね!

藤原先生「免疫研究を始めて、最初に出した成果はアレルギーの研究でした。アレルギーも免疫のひとつで、効果のあるKW乳酸菌という素材を発見したのです。

プラズマ乳酸菌の発見は2010年くらいに発表しました。それから製品化するまで3年程かかりましたね。

しかし、研究を始めて数年間は逆風しかなかった。本社からプラズマ乳酸菌の研究は止めるように、と指示を受けたのです」

--えっ? 何でですか!? 自由なテーマで研究してもよかったのでは?

藤原先生「そうなんです。しかし、免疫の研究を始めた頃、会社は逆に多角化ではない方向に舵を切りました。2007~2009年頃のことです。

当時、酒類と飲料を2本柱とする、綜合飲料グループ戦略の推進を掲げていました。“キリンは飲料とビール、ワインの会社になります”と」

--アルコールは今後、伸びにくいとおっしゃっていたのに……

藤原先生「会社の方針というのは、変わるものですから。というわけで、プラズマ乳酸菌の研究は、オフィシャルでは1回、消滅しているのです」

--会社の方針にいちいちキレていたら、どんな仕事でも続かないということですね。

藤原先生「どんな研究でも、最初から最後まで順風満帆にいくことはありませんから。私は早いうちに博士号を取らせてもらったし、留学もさせてもらいました。そういった意味でも、会社での環境は恵まれていると思います」

--それでも、会社の方針に逆らってまで研究を続けた理由とは?

藤原先生「研究自体、どんどん進んでいたからです。会社に何と言われようと、いい結果が出ていたので間違いないと。

そして何よりも、一緒に研究しているメンバーのためです。しっかりとして研究データを出せているにも関わらず、彼らの発表には誰も興味を示さない状態に。辛いですよね。

私が巻き込んでしまったので、彼らの研究に少しでも耳を傾けてもらえる環境をつくらなければいけない、という思いがありまして。

また、未知なる感染症がいつかは来ると確信していました。そのとき、何か自分で貢献したいという信念があったので。

現在の新型コロナのことは、その当時はもちろん予測できませんでしたが、未知のウイルスは世界中で絶えず生まれているのです。この瞬間にも」

社内に味方がいなかったら、他で味方をつくる!

--免疫の研究を存続させるため、具体的にどのような行動を起こしたのですか?

藤原先生「本社と研究所の中にほとんど味方がいなかったので、それ以外のところで味方をつくろうと動きました。

そこで、小岩井乳業にプラズマ乳酸菌配合のヨーグルトを一緒につくりませんか? と提案し、実現することができたのです。製品を出してしまえば、風向きはきっと変わると信じて」

--会社から研究を中止するよういわれているのに、他企業とコラボできるのですか?

藤原先生「小岩井乳業はキリンのグループ企業なので。イメージ的にはとても遠い他部署といった感じです。

どんな仕事でもそうですが、1本線がつながれば生き延びることができる。本社からは“プラズマ乳酸菌入りヨーグルトは、小岩井乳業のテーマだと思っているから”と言われました。それで本社の中で、一旦整理がついたみたいです」

--会社が研究の存続を認めてくれるまで、研究費をどう捻出していたのかが気になります。

藤原先生「その当時、本当に研究費がなかったです。何しろ新しく予算をつけてくれないので(笑)。ヒトで臨床試験をやろうとして、ヒト試験の会社に委託すると5千万円とか1億円くらいかかります。そんなお金、到底出せるわけがありません」

--予算がないのに、どうして研究を続けられたのですか?

藤原先生「そこで、自分たちで手分けして、被験者を集め、アンケートをつくり、お医者さんや看護師さんに1時間いくらで、と協力していただきました。

そのときにかかった費用は480万円だったかな? やればできるんです、全部手作りすれば」

--みなさんの諦めない努力が実を結び、現在、さまざまな製品にプラズマ乳酸菌が配合され、注目されるようになったんですね!

藤原先生「現在、明らかにステージは違いますよね。プラズマ乳酸菌が製品化されてから、たくさんの人たちが関わってくださっている。それこそ、私以外の誰かの熱い思いで出来ています。今はそちらのほうが大事。ひとりのモノではないので」

--今、逆風に立ち向かっているビジネスパーソンは、藤原先生のお言葉で勇気をもらい、免疫力が上がるように思います。読んで免疫力アップ! みたいな。

藤原先生「そうなるといいですね!」

プラズマ乳酸菌を継続的に摂取すれば、年収が20万円アップする!?

--ところで、プラズマ乳酸菌を摂ることで、ビジネスに与える影響はありますか? 健康へと導くイメージはわかるのですが、ビジネス的なメリットがあると、積極的に摂ろうとする人が増えると思うので。

藤原先生「確かに“免疫はよくなりました。だからどうなるんですか?”という疑問を持たれる方は多いと思います。

昔の健康経営(※1)は、社員の欠勤率を減らすとか、薬などで健康保険に使うお金を減らすため、社員をどうやったら病気にさせないで済むか、という方針でした。

※1)従業員の健康を重要な経営指標と考え、健康増進に積極的に取り組む企業経営スタイル。

ところが、WHOが健康経営を研究したところ、いかにやる気を出して活き活き働くか、が大事だとわかったのです。そのような労働生産性に関する指標をプレゼンティーズム(※2)といいます。

※2)健康問題による出勤時の生産性低下。

免疫が上がったらビジネスにもメリットがあることを証明したくて、ヤフーさんと共同試験をしたことがあります。

ヤフー本社に勤務する20歳から65歳までの226名の従業員を対象に、2017年11月下旬~2018年2月下旬にかけて実施しました。

被験者をランダムに2つのグループに分け、片方のグループにはプラズマ乳酸菌を4週間摂取した後に、4週間の摂取しない期間を設定。もう片方のグループには、順番を入れ替えて非摂取期間、プラズマ乳酸菌摂取期間の順に実施しました。

その結果、摂取期間の労働生産性のプレゼンティーズムが約5%向上しました。それは体調が整い、生産性が約5%アップしたということです」

--5%の生産性アップが、どういうことなのかピンときませんが……。

藤原先生「では年収で計算してみましょう。例えば、400万円の年収だったら5%は20万円。つまり、20万円分の年収アップが期待できるのです」

--20万円も年収がアップするのだったら、毎日摂取したいです!

「会社がプレゼンティーズムを改善するため、社員ひとりひとりにカウンセラーや運動のコーチを付けると、ものすごくお金がかかりますよね。

しかし、この試験期間で使ったプラズマ乳酸菌配合のヨーグルト代は、ひとり2~3千円程度。とても費用対効果がいいと思います」

--免疫とビジネスという着眼点、とても面白かったです。貴重なお話の数々、ありがとうございました!

【筆者の視点】

コロナ禍により注目を集めているプラズマ乳酸菌。その研究が一度、中止になっていたとは驚きだった。

藤原先生曰く「仕事でやりたいことがあったら、もっと自己主張すべきだ」とのこと。また、社内にひとりでもいいから、尊敬するメンターをつくっておくことも大切だと説く。そうすれば、仕事で壁にぶつかったとき、打破するための助言をくれたり、チャンスとなるきっかけをくれる場合もあるという。

とても熱い心を持った研究員さんであった。本稿をお読みいただいて、みなさんの心の免疫力が上がることを願うばかりである。

藤原大介(ふじわら・だいすけ)先生

キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業部部長 兼 キリン中央研究所・フェロー。1995年 東京大学大学院 農学生命科学研究科 修了。1995年 キリンビール株式会社 基盤技術研究所 入社。1999年 博士号(農学)取得。2005年 理化学研究所免疫アレルギー研究センター訪問研究員。2005~2007年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校 医学部ポストドクトラルフェロー。2014年 東京大学大学院 農学生命科学研究科 非常勤講師を経て現職。

関連情報:https://www.kirinholdings.com/jp/purpose/model/stories/topics_211012.html

取材・文/藤田麻弥(ウェルネス・ジャーナリスト)

雑誌やWebにて美容や健康に関する記事を執筆。美容&医療セミナーの企画・コーディネート、化粧品のマーケティングや開発のアドバイス、広告のコピーも手がける。エビデンス(科学的根拠)のある情報を伝えるべく、医学や美容の学会を頻繁に聴講。著書に『すぐわかる! 今日からできる! 美肌スキンケア』(学研プラス)がある。

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