土地の相続に課せられる相続税がどのぐらいの額になるか正確に把握している人はそう多くありません。評価基準となる路線価の特徴や読み取り方、評価額の計算方法を事例を使って解説します。路線価の基礎知識や評価額の調整方法を知り、相続税の減額に役立てましょう。
相続税の計算に使われる路線価とは?
相続した土地にかかる相続税の金額は、その土地の評価額によって決まります。相続税や贈与税において、土地の評価額を計算する際に使われる基準が『相続税路線価』です。まずは、相続税路線価の意味や特徴をチェックしましょう。
国税庁が毎年7月頃に公表する土地の価格
相続税路線価を決めているのは、相続税を含めた国民の税金に関する事柄を管理する国税庁です。国税庁が毎年7月頃に、その年の1月1日時点における市街地の道路に面した土地の価格を相続税路線価として公表しています。
相続税路線価が必要になるのは、相続や遺贈、贈与を受けたタイミングです。取得した土地や敷地権に課税される、相続税や贈与税の金額は多くの場合、相続税路線価を使って算出されます。敷地権はマンションやビルなどのように一つの建物を複数で所有している場合に、土地に対して発生する権利です。
金額は公示地価の80%ほど
相続税路線価の金額は、『公示地価』の80%程度を目安に決定されています。公示地価とは、毎年3月に国土交通省が地価公示法に基づいて公表する土地の価格です。
評価地点は毎年1月1日と決められており、全国2万6,000カ所の標準地における1㎡当たりの金額を公示地価として公表しています。
なお、調査する標準地は、いずれも更地の状態を想定しています。しかし、実際に土地の売買をする際には土地だけではなく、建物の状態も金額に影響するでしょう。土地の形状によっては、路線価を元にした評価額で売れない可能性もあります。そのような事情を考慮し、相続税路線価は公示地価の80%になるように計算されているのです。
参考:令和4年 地価公示の実施状況及び地価の状況|第1 地価公示制度の概要|国交省
路線価がない地域もある
道路に面する土地1㎡当たりの評価額(路線価)をベースとする『路線価方式』の計算で使われる路線価が、決められていない地域もあります。なぜなら路線価が設定されるのは、家屋や商業施設、商店街などが集まった市街地に限られているからです。
相続や贈与で取得した不動産がある地域に路線価が定められていない場合には、『倍率方式』で土地の評価額を求めましょう。
倍率方式は、不動産の所有者に請求される固定資産税の基準になる固定資産税評価額を使って土地の評価額を算出する方法です。
ちなみに固定資産税評価額は、公示地価の70%ぐらいになるように決められています。
相続した土地の路線価を調べる方法
「相続した土地の路線価を調べる方法が知りたい」という人もいるのではないでしょうか?インターネット環境が整ったパソコンやスマートフォンがあると、簡単に路線価を調べられます。路線価を調べる二つの方法をチェックしましょう。
国税庁のホームページで路線価図を確認
国税庁のサイト「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」では、直近7年分の路線価図が見られます。知りたい年度を選んでから路線価を確認するまでの流れは、以下の通りです。
- 知りたい土地がある都道府県を選ぶ
- 『路線価図』のリンクをクリックする
- 市区町村を選ぶ
- 地名の横に路線価図のページ番号が表示される
ページ番号をクリックすると、その地域の路線価図が確認できます。
なお、相続税路線価図は、相続や贈与が発生した年を選ばなくてはならないことも覚えておきましょう。
市区町村か郵便番号を入力!全国地価マップを使う
一般財団法人の資産評価システム研究センターが作成した『全国地価マップ』でも、相続税路線価の一般的な情報をチェックできます。
地図や住所一覧から探すほかに、検索画面に住所や郵便番号などを入力して調べることも可能です。
路線価が設定されている路線が青く表示されるため、取得した土地の評価額を求めるのに路線価が使えるかがひと目で分かります。
路線価図の見方をチェック
表示された路線価図を見ただけでは、何を意味しているのかが分かりにくいでしょう。路線価図から土地の評価額を読み取るポイントを、三つ紹介します。
単位は千円!路線価は1㎡当たりの金額
路線価図を見る前に、路線価の単位が1,000円で、1坪ではなく1㎡当たりの金額だということを把握しておきましょう。
例えば路線価が『350』になっている場合、その土地の1㎡当たりの価格は1,000円×350で35万円だと分かります。
面積が700㎡の土地を想定して計算すると、路線価における評価額は1㎡当たりの評価額 × 宅地面積となりますから、35万円×700㎡で2億4,500万円です。
路線価の囲まれ方で地区区分が分かる
路線価を使って算出した土地の評価額には、周辺環境や立地などの生活条件は考慮されていません。
騒音が発生する工場が密集する地域よりも、普通住宅地の方が生活条件が良いでしょう。そのため、路線価の数字がどのように囲まれているかによって、地区区分が分かるようになっています。
下の表は、地区区分ごとの囲み方をまとめたものです。
地区区分 | 囲み方 |
ビル街地区 | 横長六角形 |
高度商業地区 | 楕円形 |
繁華街地区 | 八角形 |
普通商業・併用住宅地区 | 円 |
中小工場地区 | ひし形 |
大工場地区 | 長方形 |
普通住宅地区 | 無印 |
地区区分は土地の評価額を調整する『補正率』にも関係するので、忘れずにチェックしておきましょう。
路線価方式で評価額が下がる土地の特徴
路線価方式で計算した土地の評価額が下がると、その土地に課税される相続税や贈与税の金額も下がります。相続税や贈与税を払い過ぎないためにも、評価額が下がる土地の特徴を確認しておきましょう。
人に貸している
相続や贈与で取得した土地を人に貸している場合、売却が難しいため土地の評価額が下がります。
どれぐらい減額されるのかは、『借地権割合』を使って求めることが可能です。借地権割合がある場合には『350D』の『D』のように、路線価を表す数字の隣にアルファベットがついています。アルファベットが示している借地権割合は、以下の通りです。
A | 90% |
B | 80% |
C | 70% |
D | 60% |
E | 50% |
F | 40% |
G | 30% |
借地権が設定されている土地の評価額は、自用地評価額×(1-借地権割合)で求められます。例えば、自用地評価額が5,000万円の土地に、60%の借地権割合が設定されているとしましょう。
借地権割合を考慮した土地の価格は、5,000万円×(1-0.6)の2,000万円です。路線価を使って算出した5,000万円よりも、3,000万円評価額が下がっていることが分かります。
使い勝手が悪い
いびつな形状の土地やL字の角地、奥行きの長い土地も、路線価方式で評価額を下げられるでしょう。理由はシンプルで、整った土地に比べると使い勝手が悪いからです。
使い勝手が悪い土地の特徴は、以下の通りです。
- 道路からの入り口(間口)が狭い
- セットバックを必要とする幅4m以下の狭い道
- 私道に面している
- 道路の突き当たりにある
- 崖地
- 地面が傾斜している土地
路線価は、長方形や正方形などの整った土地を前提に計算されています。しかし、実際には整った土地ばかりではありません。
そのため、実際には路線価方式で求めた金額に、土地の状態を加味する『奥行価格補正』や『側方路線影響加算』を行って評価額を決定するのです。
状態に応じて価格の調整を行うため、使い勝手の良い土地の場合はその分評価額も上がります。
パターン別!路線価で評価額を求める方法
「路線価を使って、取得した土地の評価額を計算してみたい」という人もいるのではないでしょうか?路線価に補正率をかけて評価額を求める流れを、パターン別に解説します。
事例1 一つの道路に面している宅地
一つの道路に面していても奥行が長い土地だと、使い勝手は悪いといえます。そのため、路線価を使って求めた評価額に補正率をかける必要があります。
国税庁の『奥行価格補正率表』では、奥行きの長さに応じた補正率を確認できます。奥行価格補正が使えるのは路線価方式のみで、倍率方式の土地には利用できません。
以下の事例を使って、土地の評価額を計算してみましょう。
地区区分 | 普通住宅地区 |
路線価 | 20万円 |
奥行距離 | 30m |
面積 | 200㎡ |
借地権割合 | 70% |
路線価が20万円で面積が200㎡なので、この土地の評価額は20万円×200㎡で4,000万円です。借地権割合が70%の土地なので、4,000万円×(1-0.7)で1,200万円に減額されます。
土地の評価額を求めたら、補正率で調整していきましょう。
地区区分は普通住宅地区で角地ではないため、補正はありません。一方、30mの奥行距離には0.95の『奥行補正率』が該当します。
1,200万円×0.95で、土地の評価額は1,140万円です。
参考:土地及び土地の上に存する権利の評価についての調整率表」|国税庁
事例2 二つの道路に面している角地
二つの道路に面している土地の場合は、路線価も二つです。二つの路線価のうち、どちらを基準にするかを決める必要があります。
基準にする道路を『正面路線』、もう一つの道路が『側方路線』です。二つの路線価それぞれに奥行補正率をかけて比較し、数値の大きい方を正面路線とします。
それでは実際に、二つの道路に面している角地300㎡の評価額を求めてみましょう。二つの道路の路線価と奥行距離、奥行補正率は以下の通りです。
路線A | 路線B | |
路線価 | 10万5,000円 | 11万円 |
奥行距離 | 20m | 30m |
奥行補正率 | 1.00 | 0.95 |
それぞれに奥行補正率を乗じると、路線Aが10万5,000円、路線Bが10万4,500円と計算できます。数値の大きい路線Aを正面路線とします。
事例のように金額が近い場合には単純に路線価で比べると、金額が高い路線Bの方を正面路線だと判断してしまうので注意しましょう。
路線Aを基準にすると、10万5,000円に土地の面積300㎡をかけて評価額は3,150万円です。さらにこの土地は角地なので、『側方路線影響加算率』も使えます。
地区区分が普通住宅地の場合、角地の補正率は0.03です。そのため、土地の評価額3,150万円に0.03を乗じます。計算で求められる94万5,000円が、補正率を適用した後の土地の評価額です。
構成/編集部