発展著しい東京港を、東京都港湾局の船で視察するツアーがあるのをご存じでしょうか? 平日のみ、中学生を除く15歳以上、要予約など、説明だけ聞くと少し堅苦しい感じがしますが、一般の旅客船からはあまり見ることのできないレアスポットを巡ることができと評判なのです。実際に乗って確かめてきました。
予約はネットから
東京都ではこの視察船を「東京みなと丸」と名付けています。全長35m、総トン数215トン、巡航速度13ノットの船体は、2020年12月に就航。港区の竹芝小型船船着場から午前と午後、2回にわけて運航しています。
お隣の竹芝客船ターミナルで見かけるような大型船ではありませんが、内部は2階建てで気品さえ漂うスタイル。実は知る人ぞ知る、イタリア製のクルーザーなのです。
予約はネットで東京都港湾局の専用ページにアクセスして行います。1回あたりの定員は、新型コロナの影響もあって、現在は最大25名になっています。
どこに座るか迷うけれど…
乗船受付は乗り場前の小型船ターミナル内で出航の20分前。それが済めば乗船です。船尾から乗りこみ、そのまま左に進むと、広い会議室のような部屋に入ります。正面には大きなモニターがあり、前方の映像が映し出されています。
座席は左右の窓側に2人掛けが並び、真ん中の空間には大きなテーブルが鎮座し、そちらの席に座ることもできます。
自由席なので、ここはぜひ窓側に……と言いたいところですが、実際に乗ってみると、窓と窓の境目(壁)が長く、一概にどの席が良いといえない面があります。
運行ルート
運航ルートは、受付の際に配布されるパンフレットに詳しく出ています。これらの資料は乗船中、とても役立つので、ぜひ有効活用してください。
間近に見えるレアスポット
運航ルートから見えるスポットを順に紹介しますと……。
日の出ふ頭
浅草などへの水上バス、海上バスやレストラン船の発着地として利用されています。実はここ、東京港でもっとも古いふ頭で、大正15年からの供用開始。そういえば、上屋がノスタルジーを感じます。
芝浦ふ頭
竹芝、日の出と並ぶ歴史の古さを誇っています。これら3か所のふ頭の開港により、東京港の近代化が進んだといいます。現在は主にセメントや紙類などの国内雑貨貨物を扱っています。
レインボーブリッジ
ご存知、東京港の玄関口です。船がこの下をくぐるとき、何とも言えない高揚感がありますね。ただ、この橋があるおかげで大型船が航行できなくなくなったことも事実です。
品川ふ頭
北側は北海道への定期航路として、車が自走して乗り込めるRORO船の基地。南側は日本初のコンテナターミナルとして、東南アジアなどの近海航路に利用されています。
大井コンテナふ頭
大型コンテナ船が7隻着岸できる、日本屈指のふ頭です。巨大なガントリークレーンが並ぶさまは圧巻!
中央防波堤コンテナふ頭
年々大型化するコンテナ船に対応するために造られた、東京港で最も新しいふ頭。
海の森
港の中に浮かぶ緑の森です。ここはゴミと建設発生土で埋め立てられたところに苗木を植えています。
東京ゲートブリッジ
大型船の航行を可能にする桁下、羽田空港への着陸機の妨げにならない高さを両立した橋です。別名恐竜橋とも呼ばれています。
フェリーふ頭
四国・九州へのフェリー基地として使われています。
10号地ふ頭
内航(国内)貨物の基地。西日本各地と首都圏を結ぶ拠点です。
お台場ライナーふ頭
外貿在来船の主力ふ頭。鉄鋼や機械、木材など多様な貨物を扱っています。
青海コンテナふ頭
コンテナクレーン12基を有する高規格コンテナふ頭です。
東京国際クルーズターミナル
2020年9月開業。世界最大のクルーズ船にも対応可能です。以前は晴海の客船ターミナルが使われていたものの、レインボーブリッジをくぐれない大型客船が増えたことで、こちら(青海)に整備したわけです。
臨海副都心
台場、青海、有明南、有明北からなり、複合的なまちづくりを進めています。
ここだけは押さえておきたいポイント
運航中は常に港湾局OBのガイドさんが見どころの解説をしてくれます。それだけでも十分に聞きごたえがありますが、Q&Aでポイントを教えてもらいましたので、ご参考まで。
Q:視察船だからこそ見ることができる景色でおすすめは?
A:レインボーブリッジをくぐりながら間近で見られるところです。また、国内外を行き交う巨大船舶やふ頭で荷役作業を行うガントリークレーンなど、船上からでしか見ることができないダイナミックな景観も。
Q:乗船前にどのようなことを知っておくと、視察に役立ちますか?
A:基本的に船上から見える施設などについて、案内ガイドからわかりやすくご説明させていただきますが、東京港の埋立の歴史について知っていると、現在の東京港の姿と比較することができて、より有意義な視察になるでしょう。
【参考】東京港や臨海副都心の歴史、現在の姿、未来をご紹介する展示室「TOKYOミナトリエ」
Q:東京港がほかの港(横浜や神戸などの)と違う点は?
A:東京港は、外国貿易額および外貿コンテナ貨物取扱量について日本一を誇っています。また、東京港で取り扱う外貿貨物取扱量のうち、コンテナ貨物が全体の97%を占めており、高い外貿コンテナ化率となっています。
Q:東京港ならではの特長とは?
A:貨物量を入出貨別にみると入貨が全体の3分の2を占めています。これは、首都圏4000万人の方の生活と産業に必要な物資を多く受け入れる重要な物流拠点としての役割を果たしているためです。
東京湾と東京港の関係とは
東京湾は、神奈川県、東京都、千葉県に囲まれている海のことを指し、東京港、川崎港、横浜港、横須賀港、木更津港、千葉港の6つの港があります。いずれも首都圏の物流を支える拠点であり、中でも最大の貨物取扱量を誇るのが、最奥にある東京港です。
東京港の歴史は埋め立ての歴史といっても過言ではなく、15世紀頃は現在の皇居のあたりまで海岸線が入り組んでいたといいます。
乗ってみてわかった学びの多さと東京港の奥深さ
視察船という名はとても堅苦しいけれど、東京港の見どころの多さは予想以上でした。一般の方は大井ふ頭などに立ち入ることはできないため、海側から積み下ろしを目の当たりにできるのは貴重な体験です。ガントリークレーンやコンテナ船の巨大さも、海側から見たほうが圧倒的な存在感があります。
次々に新しく整備されるふ頭、ふ頭ごとに扱う荷物や行先が異なることなども、目からウロコなことばかり。船の発展と共に、港もどんどんアップデートされていることも大きな発見です。
頭上を通過する航空機の迫力、海上からもわかる海底トンネルの目印といった、東京港の奥深さにも脱帽なのでありました。
これで無料だなんて、お得すぎます!
取材・文/西内義雄