すでに退職したものの、再就職先が見つからずに困っている人はいませんか?「働きたいけれど、仕事が見つからない」という人は、国の制度を活用するのも一つの方法です。失業給付金がもらえる条件や金額、支給期間はもちろん、再就職に役立つ情報も紹介します。
雇用保険から出る失業給付金の特徴
失業給付金は、多くの労働者が加入している『雇用保険』から出るお金です。まずは、失業給付金が支給される目的やもらえる金額の目安などをチェックしましょう。
失業者の生活と雇用の安定が目的
失業給付金は、事情があって職を失った人々の生活を支え、安定した就職につなげるために支給されるものです。
失業の際に条件を満たすと利用できる『失業等給付』は、以下の四つに分けられます。
(一般)求職者給付 | ・失業中の保障 |
就職促進給付 | ・失業者の就職を支援 |
教育訓練給付 |
・スキルアップを支援 ・雇用の安定を支援 ・再就職を支援 |
雇用継続給付 |
・雇用の継続を援助・促進 |
このうち、失業した生活を保障する一般求職者給付によって支給されるのが、『基本手当』と呼ばれる失業給付金です。
なお、離職により受け取る失業給付金には税金はかからないため、確定申告の必要はありません。
前提条件は就職への強い意志
失業給付金をもらうための必須条件は、就職を強く希望していることです。働く意欲があり、努力しているけれど就職できない『失業の状態』にあると認められた場合のみ、失業給付金が支給されます。
そのため、以下のような理由ですぐに働けない人は、失業給付金をもらえないため注意しましょう。
- 病気やケガなどで療養中
- 妊娠や出産、育児で休業している
- 結婚で家事が忙しく働く余裕がない
給付条件も確認
失業給付金を申し込む際には『前職を辞めた日以前の2年間に雇用保険の加入期間が合計で12カ月以上』必要です。
ただし、倒産や解雇、雇止め(やといどめ)などを経験した『特定受給資格者』または『特定理由離職者』は、1年間に合計6カ月以上雇用保険に加入していると給付対象になります。
加入期間は『給与が発生した日数が11日以上』または『勤務時間の合計が80時間以上』の月を含められます。ここでいう『月』は、就職日から1カ月ごとの区分を指すことも押さえておきましょう。
シフト制で働いているアルバイトやパートの人は、勤務日数や時間が足りず、対象から外れる可能性もあるかもしれません。月ごとの勤務日数や働いた時間が分からない人は、給与明細を確認するとよいでしょう。
離職前の給与が基準!45~80%を支給
「退職する前に、もらえる失業給付金の額が知りたい!」という人もいるのではないでしょうか?
失業給付金の正確な金額は、申請の際に提出する『離職票』で決定します。おおよその給付額は、以下の計算式で算出できます。
- 基本手当給付額(日額):(離職前6カ月にもらった給料の総支給額)÷180×給付率
流れとして『賃金日額』を算出してから、給付率と掛け合わせます。給付率は退職した時点の年齢や給与の金額に合わせ『45~80%』の範囲で設定されるものです。
ちなみに『給与の総支給額』は、所得税や住民税、社会保険料などが引かれる前の額でボーナスは省きます。
以下の表は、60歳未満の失業者が受け取れる給付金の目安額を、月収ごとに記載したものです。
前職でもらっていた 給与の月額 |
支給額 |
約15万円 | 約11万円 |
約20万円 | 約13万5000円 |
約30万円 | 約16万5000円 |
月額15万円の人が11万円ほど支給されるのに対し、月額30万円の人はもとの収入の半分ほどの支給額です。表からも、もともとの月収が少ない人ほど、高い給付率がかけられていることが分かります。
参考:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」Q10
参考:雇用保険の基本手当日額が変更になります~令和2年8月1日から~
いつから給付金がもらえる?日数もチェック
失業給付金の支給が認められると、退職の理由に関係なく7日間の待機期間があります。
待機期間が終わってから失業給付金がスタートするまでの期間は、退職した理由によって異なります。退職理由ごとの支給開始時期や、日数を見ていきましょう。
自己都合の退職には給付制限期間がある
失業者の中には、転職や独立など、自分の意思で退職した人も含まれています。自分の都合で退職した場合には『待機時間を終えてからさらに2カ月間』の給付制限期間があります。
同じ職場で安定して働き続けるのを支援するのも、失業給付金が支給される目的の一つです。そのため、「失業給付金がもらえるなら、仕事を辞めても大丈夫だな」と、安易に転職や退職を決めるのを防ぐために、給付制限期間が設けられています。
なお、給付制限期間は退職した回数によって異なり、5年間で3回以上退職した場合には『3カ月間』に延長されます。
給付日数は加入期間の長さで決まる
転職や独立などの自分の希望で退職した場合は、年齢に関係なく『雇用保険に加入している期間』が長いほど給付の日数が多くもらえます。
雇用保険の加入期間 | 給付日数 |
1~4年 | 90日 |
5~9年 | 90日 |
10~19年 | 120日 |
20年以上 | 150日 |
失業保険を受け取れる期間は、原則『最大1年間』ということも覚えておきましょう。
仕方なく退職した「特定理由離職者」は例外
表面的には自分から退職したとしても、上司のパワハラや育児との両立、両親の介護などのやむを得ない事情を抱えている場合もあるでしょう。
以下のような事情で仕方なく退職した人は『特定理由離職者』として認められるケースがあります。
- 契約の更新が認められずに離職した有期契約労働者
- 出産や育児などで離職し、受給期間の延長が認められた人
- 両親の介護や配偶者との別居など、家庭の事情でやむを得ず離職した人
- 希望退職者の募集に応じて離職した人
認定には、ハローワークで事情を説明し、証拠書類を提出することが必要です。
有期契約労働者には、契約社員やアルバイト、パートタイマーなどの人も含まれます。特定理由離職者に認定されると、給付制限期間なく失業給付金を受け取ることが可能です。
参考:ハローワークインターネットサービス 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要
「特定受給資格者」は給付制限期間なし
勤務先の会社が倒産したり、リストラされたりして、突然失業するケースもあります。再就職先を探す時間もなく失業した人は、経済的な不安も感じるでしょう。
失業給付金は、失業者の生活を支えるためのお金でもあります。そのため、会社の都合で失職した人は『特定受給資格者』とされ、待機期間が終わったらすぐに失業給付金の支給がスタートするのです。
給付日数は年齢と加入期間で細かく分けられている
特定受給資格者に該当する場合には、年齢や雇用保険の加入期間ごとに以下のような給付日数が決められています。
加入期間/年齢 | 30歳未満 | 30~34歳 | 35~44歳 | 45~59歳 | 60~64歳 |
1年未満 |
90日 | 90日 | 90日 | 90日 | 90日 |
1~4年 | 90日 | 120日 | 150日 | 180日 | 150日 |
5~9年 | 120日 | 180日 | 180日 | 240日 | 180日 |
10~19年 | 180日 | 210日 | 240日 | 270日 | 210日 |
20年以上 | – | 240日 | 270日 | 330日 | 240日 |
大きな特徴は、一般的に教育費の負担が増えるとされている『45~60歳未満の人には給付日数が多く設定されている』ことです。なお、09年3月31日~25年3月31日にやむを得ない事情で退職した特定理由離職者も、上記の表に応じた給付日数が決まります。
参考:ハローワークインターネットサービス 基本手当の所定給付日数
申請から受給までの流れ
失業給付金を受け取るための最低条件は、働く意志があることです。では、どのようにして働く意志を確認するのでしょうか?失業給付金の申請から受給までの流れに沿いながら、解説します。
必要な書類を準備!ハローワークに申請
失業給付金の申請前には、以下のような書類がそろっているかを確認しましょう。
- 離職票
- 個人番号確認書類または身元確認書類
- 写真2枚またはマイナンバーカード
- 本人名義の通帳またはキャッシュカード
離職票は『元の勤務先』から交付されるもので、短期契約でも提出が必要です。個人番号確認書類や身元確認書類には、以下のようなものが該当します。
個人番号確認書類 |
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身元確認書類 |
|
運転免許証やマイナンバーカードは、『発行から6カ月以内のもの』に限り有効です。期限が切れていないかを確認するようにしましょう。
万が一、身元確認書類が用意できない場合には、以下のうち二つを提出することも可能です。
- 国民健康保険被保険者証または健康保険被保険者証
- 住民票記載事項証明書
- 児童扶養手当証書
住民票記載事項証明書に該当するものは、住民票の写しや印鑑証明書などです。書類の準備ができたら、『住んでいる地域のハローワーク』へ提出します。
参考:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」Q4
雇用保険受給者説明会に参加
提出した書類をもとに受給資格があると判断されると、約1週間後に行われる『雇用保険説明会』への参加が必要です。
ハローワークで2時間ほど行われる雇用保険説明会では、配布される資料を見ながら雇用保険を受け取っている間の手続きや、提出する書類の書き方などを教えてもらえます。
22年現在は新型コロナウイルス感染症を考慮し、説明会の内容を確認できる45分ほどの動画も用意されています。動画視聴が説明会参加の代替として認められるかは、申請元のハローワークに確認するようにしましょう。
参考:雇用保険受給手続きをされた皆様へ~雇用保険説明会のWeb視聴について
失業認定日に手続きをした後に振込
失業給付金を受け取るために欠かせないのが、失業認定日の手続きです。失業認定日とは『ハローワークに行って失業状態にあることを認定してもらう』日です。
失業認定日は自分で決めることはできず、ハローワークが指定した日に足を運ぶ必要があります。また、原則『4週間に1度』の認定が必要です。
ただ、以下のようなやむを得ない理由が認められたときに限り、事前の申し込みと証明書類を提出すれば失業認定日の変更が可能です。
- 就職が決定
- 各種国家試験、検定等資格試験の受験
- 病気やけが(働くことができない期間が14日以内のもの)
- 本人の婚姻
失業認定日にハローワークへ行って所定の手続きをすると『約1週間後』に、希望した金融機関の口座に認定日数分の給付金が振り込まれます。
参考:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」Q31、8
失業給付金を受給する際の注意点
失業給付金の支給が決まってからも、注意しなければならないことがあります。不正受給の疑いや、給付金の停止を防ぐためにも、注意点をきちんと確認しておきましょう。
認定日までに2回以上の求職活動が必要
失業給付金をもらうためには『待機期間と給付制限期間を終えてから最初の失業認定日まで』に一定回数以上の求職活動をしなければなりません。
<給付制限期間ごとの求職活動回数条件>
- 給付制限期間なし:1回以上
- 給付制限期間が2カ月:2回以上
- 給付制限期間が3カ月:3回以上
注意しなければならないのが、求職活動の内容です。求職活動として認められる行動の例は以下のようなものに限ります。
- 求人への応募
- ハローワークが行う職業相談や職業紹介などを利用する
- 個別相談の時間が設けられた企業説明会への参加
求人情報の検索や知人に仕事の紹介を依頼するだけでは、求職活動として認められない点を押さえておきましょう。
活動が認められると『雇用保険受給資格者証』に参加先の担当者から認定印がもらえます。
参考:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」Q33~34
アルバイトをする場合は申告が必要
給付制限期間中も含め、失業給付金をもらっている間にアルバイトをする際には、失業認定日に提出する『失業認定申告書』に必ず記載するようにしましょう。
もちろん、仕事をした日は失業給付金の対象にならなかったり、収入によっては減額されたりするケースもあります。しかし、アルバイトをしている事実をハローワークに申告しないで失業給付金を受け取ると『不正受給』になる可能性があるのも事実です。
不正受給だと判断されると、失業給付金の支給がストップするだけではなく『アルバイトをしながら受け取った給付金の3倍に当たる金額』の納付を命じられる場合があることを覚えておきましょう。
参考:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」Q35~36
健康保険や年金などの支払い義務は続く
失業給付金を受給している間にも、原則として健康保険や年金の支払いはなくなりません。
失業して保険料の支払いが苦しい場合には、下の表のような公的医療保険ごとに定めている制度を利用するのをおすすめします。
社会保険(健康保険) |
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国民健康保険 |
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特におすすめなのが、社会保険や健康保険に加入している配偶者の扶養に入ることです。扶養として認められると、料金を支払うことなく配偶者と同じ公的医療保険を利用できます。
失業給付金は非課税のため所得とはみなされませんが、社会保険の場合は失業給付金は『収入』扱いのところがほとんどです。扶養家族の所得限度額を超えないように確認しておくと安心でしょう。
また、任意継続保険の手続きをすると、前職の保険に失業後も継続して加入することが可能です。しかし、会社に勤めていたときとは異なり『保険料の全額を自分で負担する』ことも覚えておきましょう。
さらに、会社都合で退職した人は、『国民健康保険の減免制度』が利用できる場合もあります。
そのほか、国民年金や住民税の支払いに関しては、自治体ごとに分割納付や納付の延長などの制度を設けています。住んでいる自治体のホームページをチェックして、失業中の負担を減らしましょう。
参考:退職後の健康保険について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
失業から再就職まで!役立つ給付を厳選
雇用保険には、労働者の生活や雇用をサポートする給付制度や手当がたくさんあります。豊富な制度や手当の中でも、失業や再就職に役立つものをピックアップして紹介します。
資格取得を後押しする「教育訓練給付金」
「スキルアップして、安定した仕事につきたい」と思っている人は多いのではないでしょうか?雇用保険の『教育訓練給付制度』は、失業中にも役立ちます。
条件を満たすと、資格取得にかかった教育訓練経費の一部が払い戻されます。教育訓練ごとに取得できる資格の例は以下の通りです。
種類 | 資格の例 |
一般教育訓練 |
・簿記検定試験 ・Webクリエイター能力認定試験 ・中小企業診断士 ・インテリアコーディネーター |
特定一般教育訓練 |
・社会保険労務士 ・税理士 ・行政書士 ・介護職員初任者研修 |
専門実践教育訓練 |
・看護師や准看護師 ・美容師や理容師 ・理学療法士 ・キャリアコンサルタント ・調理師 |
続いて、払い戻される割合と上限額を種類別に確認しましょう。
種類 | 払い戻される割合 | 上限額 |
一般教育訓練 | 20% | 年間10万円 |
特定一般教育訓練 |
40% | 年間20万円 |
専門実践教育訓練 |
受講中:50% 受講後:70% |
最大で224万円 |
失業中に、看護師や美容師、理学療法士などの資格が含まれている『専門実践教育訓練』を受講すると、教育訓練給付金とは別に『教育訓練支援給付金』がもらえる場合があります。
失業している間に専門性の高い資格を取得し、安定した再就職につなげるのも一つの方法です。
参考:厚生労働省「国から支援を受けられる主な資格・講座リスト」
受給者の就職を「再就職手当」で祝福
再就職手当は、失業給付金をもらっている人が『給付が可能な日数を1/3以上残して1年以上の雇用が確実な職に就いた場合』に支給されるお祝い金のようなものです。
<支給される金額>
- 失業給付金の日額×給付日数の残り×60~70%
給付率は、下の表のように給付日数の残りで区分されています。
給付日数に対する残日数の割合 | 給付率 |
2/3以上 | 70% |
1/3以上2/3未満 | 60% |
例えば、日額1万円の失業給付金を90日受給できるAさんが60日を残して就職した場合、Aさんには『1万円×60日×70%=42万円』が再就職手当として支給されます。
失業給付金の受給中に再就職が決まった場合には、就職日に合わせて以下のタイミングでハローワークに就職の決定を報告しなければならない点にも注意しましょう。
就職日 | 申告のタイミング |
次回認定日の前 | 就職日の前日(給付制限中の採用時は前日でなくても可) |
次回認定日の後 | 次回の認定日 |
さらに再就職先で半年以上雇用され、半年間の賃金(日額)が前職よりも低い場合には『失業給付金の残日数の30~40%』を限度として就業促進定着手当が支給されます。
参考:厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」Q37~38
構成/編集部