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日本学生支援機構が奨学金の過剰取り立てで敗訴、なぜ過払い金が発生したのか?

2022.06.26

2022年5月19日、札幌高等裁判所は日本学生支援機構に対して、保証人により返済された奨学金の一部返還を命じる判決を言い渡しました。

日本学生支援機構は上告を断念し、高裁判決が確定しています。

簡単に言えば、保証人が奨学金を「返しすぎた」と認定されたのですが、なぜこのような事態が生じたのでしょうか?

今回は、日本学生支援機構による奨学金の過剰取り立て事件について、概要や法律上の論点などをまとめました。

1. 保証人の「分別の利益」を理由に返還請求を認容

第一審の札幌地裁と、控訴審の札幌高裁は、細かい認定の違いは存在するものの、いずれも保証人による奨学金の「返しすぎ」を認めました。

裁判所による上記の判断は、保証人に認められている「分別の利益」が根拠となっています。

1-1. 「分別の利益」とは|連帯保証人と保証人の違い

「分別の利益」とは、保証人の人数で按分した責任額の限度を超えて、主たる債務の弁済義務を負わない保証人の利益を意味します。

たとえば200万円の債務が不履行となり、2人の(通常の)保証人がその債務を保証していたとします。

この場合、各保証人は100万円ずつを債権者に支払えば足り、200万円全額を支払う必要はありません。これが「分別の利益」です。

ただし、「分別の利益」は通常の保証人にのみ認められており、「連帯保証人」には認められていません。したがって、保証人が複数いる場合でも、連帯保証人は不履行となった債務全額を支払う必要があります。

1-2. 通常の保証人は、奨学金を全額返済する必要はない

奨学金の保証人は、債務者が奨学金を返済できない場合に、債務者に代わって返済を行う義務を負います。

しかし、保証人が奨学金の全額を返済しなければならないとは限りません。前述のとおり、通常の保証人には「分別の利益」があるからです。

不履行となった奨学金を保証人が全額返済しなければならないのは、以下の2つの場合に限られます。

①連帯保証人である場合
②(通常の保証人であるものの)保証人が一人しかいない場合

1-3. 日本学生支援機構は、通常の保証人にも全額返済を請求していた

日本学生支援機構の奨学金は、機関保証を設定する場合を除き、借入れの際に連帯保証人1名、通常の保証人1名がそれぞれ保証を行う必要があります。

つまり保証人は計2名なので、通常の保証人の負担額は、残債務の2分の1のはずです。

しかし日本学生支援機構は、通常の保証人に対しても、不履行となった奨学金債務全額の支払いを請求していました。

その請求に応じて、通常の保証人が本来の負担額を上回る返済を行った結果、過払い金が発生したのです。

2. 負担割合を超える返済は「非債弁済」|無効・不当利得返還請求の対象となる

札幌地裁・札幌高裁は、通常の保証人が、自らの負担額を超えて奨学金債務を返済したことが「非債弁済」に当たると判示しました。

「非債弁済」とは、債務者でない者が錯誤によって債務を弁済することを意味します。

本件において通常の保証人は、日本学生支援機構の請求により、負担額を超える部分についても返済義務があると勘違いして(錯誤に陥って)返済を行いました。

裁判所はこれを「非債弁済に他ならない」として無効であると判示し、日本学生支援機構に対して、不当利得に基づき超過額を返還するよう命じました。

3. 札幌高裁は日本学生支援機構を「悪意の受益者」と認定

さらに本件では、日本学生支援機構が「悪意の受益者」に当たるかどうかも争点となりました。

「悪意の受益者」とは、法律上の原因がないことを知りながら給付(債務の返済など)を受けた者を意味します。

悪意の受益者に該当する者は、給付の利益が現存するか否かにかかわらず、その全額に利息を付して返還しなければなりません(民法704条)。

札幌地裁は、日本学生支援機構を悪意の受益者とは認定しませんでした。

その理由として、保証人の負担限度を超える返済の取扱いについては見解の対立が激しく、裁判例も明確ではなかったことなどが挙げられています。

これに対して札幌高裁は、一転して日本学生支援機構を悪意の受益者であると認定しました。

その理由として、不当利得の発生根拠となる事実関係をすべて認識し、かつ法律上の根拠も認識していたことなどが挙げられています。

最終的には札幌高裁判決に基づき、悪意の受益者として不当利得の返還義務を負う、実質的に日本学生支援機構の全面敗訴となりました。

4. 日本学生支援機構による今後の対応方針

日本学生支援機構は、札幌高裁判決を踏まえて、過去に遡って保証人の過払い金を返還すると発表しました。

また、今後は保証人の負担限度の範囲内で、奨学金の返済請求を行うに留める方針を明らかにしています。

詳細は日本学生支援機構のプレスリリースをご参照ください。

参考:札幌高等裁判所判決を踏まえた今後の保証人への対応について|独立行政法人 日本学生支援機構

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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