大学入試などのテストでは、良い結果を残したい思いのあまり、カンニングなどの不正行為をする受験者が時々出てきます。
しかし軽い気持ちで不正行為を行うと、失格になるだけでなく、悪質な場合には犯罪の責任を問われる可能性があるので要注意です。
今回は、テストでの不正行為について成立し得る犯罪や、不正行為の摘発事例などをまとめました。
1. テストでの不正行為には「偽計業務妨害罪」が成立し得る
テストでカンニングなどの不正行為をした場合、「偽計業務妨害罪」という犯罪が成立する可能性があります(刑法233条)。
1-1. 偽計業務妨害罪の構成要件
偽計業務妨害罪は、以下の要件をいずれも満たす行為について成立します。
① 虚偽の風説を流布し、または偽計を用いたこと
「虚偽の風説を流布」とは、客観的真実に反する噂や情報を、不特定または多数人に伝播することを意味します。
「偽計」とは、他人を欺き、または他人の錯誤・不知を利用することを意味します。
② ①の行為により、他人の業務を妨害したこと
実際に業務が妨害されたことは不要であり、業務を妨害し得る行為がなされていれば足ります(危険犯。最高裁昭和28年1月30日判決など)。
テストで不正行為をすることは、主催者・採点者などを欺く行為であるため「偽計」に該当します。
また不正行為が判明した場合、合否判定の変更やメディア発表などの余計な対応が発生し、主催者の業務が妨害されるおそれがあります。
そのため、テストでの不正行為は、偽計業務妨害罪の構成要件を満たすと考えられます。
1-2. 偽計業務妨害罪の法定刑
偽計業務妨害罪の法定刑は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
なお、同程度の法定刑が設定されている犯罪としては、以下の例が挙げられます。
・公務執行妨害罪(3年以下の懲役、禁錮または50万円以下の罰金)
・不正指令電磁的記録作成等罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)
・名誉毀損罪(3年以下の懲役、禁錮または50万円以下の罰金)
など
2. 大学入試での不正行為に関する摘発事例
大学入試での不正行為については、偽計業務妨害罪を被疑事実として、たびたび捜査機関による摘発が行われています。近年の摘発例をいくつか見てみましょう。
2-1. 2011年の京都大学入試2次試験
2011年に行われた京都大学入試の2次試験について、試験時間の最中に試験問題が「Yahoo!知恵袋」に投稿される事件が発生しました。
さらに、同様の要領による試験中の問題投稿が、同志社大学・立教大学・早稲田大学の入試についても行われていたことが判明しています。
京都大学は、上記の不正行為について被害届を提出し、京都地検は投稿者(当時19歳)を偽計業務妨害の非行事実で家庭裁判所へ送致しました。
最終的に、非行事実を認めたうえで謝罪の意向を示したことを踏まえて、山形家庭裁判所は投稿者を不処分としました。
2-2. 2022年の大学入学共通テスト
2022年1月に実施された大学入学共通テスト(旧・大学入試センター試験)では、受験者(当時19歳)が試験中にスマートフォンを操作し、問題文の画像を外部に送信していたことが判明しました。
さらに同じ受験者によって、前年(2021年)の共通テストでも同様の不正が行われたことも判明しています。
東京地検は、当該受験者を偽計業務妨害の非行事実で家庭裁判所へ送致しました。
当該受験者に対する処分の状況は明らかになっていませんが、不正行為の当時未成年であったため、家庭裁判所が今後処分の要否・内容を決定するものと思われます。
2-3. 2022年の一橋大学留学生試験
2022年1月に実施された、一橋大学の外国人留学生向け入学試験において、問題を外部流出させた疑いで20代の中国人受験者が逮捕されたことが報道されています。
逮捕被疑事実は他の不正事案と同様、偽計業務妨害罪です。
当該受験者は不正行為の当時20代であったことから、他の2つの事件とは異なり、通常の刑事手続によって処分が決定されることになるでしょう。
3. 実際にテストでの不正行為が摘発される可能性は?
テストでの不正行為について、捜査機関による摘発が行われたケースの大部分は、大学入試のような重要度の高い試験であり、かつ問題を外部流出させたような悪質な事案です。
これに対して、学校の定期試験における不正行為や、他の人の答案を盗み見た程度の不正行為であれば、捜査機関による摘発の対象となる可能性は低いでしょう。
ただし、犯罪として摘発されなければよいわけではなく、テストで不正行為をした場合には、退学・停学・成績無効などの処分を受ける可能性が高い点にご注意ください。
4. 少年法改正により、テストでの不正行為は今後実名報道される?
2022年4月1日から施行されている改正少年法により、18歳・19歳の者(特定少年)による犯罪について、実名報道が一部解禁されました(少年法68条)。
これまでの大学入試における不正事案の中で、被疑者の実名報道がなされたケースはありません。改正以前の少年法では、10代の被疑者についての実名報道が禁止されていたことがその背景事情に挙げられます。
少年法の改正により、18歳・19歳の特定少年による不正行為についても、理論的には実名報道の可能性が生じました。
しかし、特定少年の実名報道が認められるのは、正式起訴されたケースに限られます。
また、大学入試等における不正行為よりも重いとされる犯罪(窃盗、傷害など)でも、ほとんどのケースで特定少年の実名報道は行われていないのが実情です。
したがって、少年法によって一部解禁されたとはいえ、18歳・19歳の者による大学入試等の不正行為について、実際に実名報道が行われる可能性は低いと考えられます。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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