大風量を実現した2重反転ファン
日本の夏に定着したハンディファン。小型軽量で充電池内蔵、ボタンを押すだけでいつでもどこでも涼しい風を送ってくれる頼りになる存在だ。それだけに100円ショップから家電量販店まで、さまざまなハンディファンがズラリと並ぶ。いったいどれを選べばいいのか悩み所である。
そこに登場したのが2重反転ファンを採用したリズム時計のSILKY WINDシリーズである。2重反転ファンとは2組のファンを前後同軸に配置して逆回転させることで、ファンのカウンタートルクを相殺して効率を上げられる方式。プロペラ機全盛時代には各国で研究され実用化もされてきた。また、船舶のスクリューにも採用されている。リズムの最新モデル「SILKY WIND Mobile 3」はヨドバシ.comのハンディファンのベストセラーランキングで2位に、小型モデルの「SILKY WIND Handy Fan S」は3位にランクインするほどの人気がある。果たして2重反転ファンに優位性はあるのか? 家電製品総合アドバイザーの資格を有する私が、550円のDAISO「HANDHELD FAN with STAND」と徹底比較してみた。
強力な風と操作性に優れた3Way
リズム「SILKY WIND Mobile 3」の特徴は2重反転ファンだけでなく、0~110度まで無段階の角度調整を利用して、据え置きと、首から下げる、そして手に持つの3Wayに対応。内蔵電池は2000mAhの大容量で、風力は4段階切り替え、連続運転時間はターボで30分、強で約2時間、中で約5時間、弱で約10時間とかなり長い。その反面、フル充電まで約6時間かかる。充電用端子はUSB-Cだが、USB PDに未対応なのが残念。PD対応の急速充電器では充電できず、USB-AからUSB-Cの変換ケーブルを使えば充電器のみでなく、モバイルバッテリーからも充電できた。肝心の風量はターボにすると迫力ある音と共にパワフルな強風が得られる。重量は実測150g。実勢価格約2780円。
前後に形状の違うファンがあり、独立したモーターで反対方向に回転させる仕組み
ライバルのDISOは550円でリチウムイオン電池内蔵
DAISO「HANDHELD FAN with STAND WHITE」は1200mAhのリチウムイオン電池を内蔵したハンディファンで、専用スタンドが付属、風力は3段切り替え、連続運転時間は強で約1時間10分、中で約2時間、弱で約5時間30分。充電時間は約3時間となる。充電用のUSB端子はmicroUSBでケーブルは付属しない。重量は実測で126g。重さと連続運転時間はトレードオフとなるが、本機は軽く、弱運転でデスクトップに置いて、ほぼ6時間稼働できる性能を持っている。2000円クラスの製品に負けない高性能モデルだ。
シンプルなデザインでロゴなどもなく550円とは思えない完成度だ
25cmで風速5.8m/sを実現した2重反転ファン
ハンディファンの風速はどれぐらいなのか。調べてみると最強で4~5m/sぐらいあるようだ。そこで今回は手に持って顔に風を当てる時の距離25cmから、デスクトップで置いて使うことも考えて80cmまでの距離で風速を測定した。測定機器は「FUSO LM-8010」というマルチメーターである。グラフで分かるようにMobile 3は最強で5.8m/sを達成。HANDHELD FANは4.7m/sと悪くない数値である。30、40、80cmと離れるにつれて2重反転ファンの風力が衰えないことが分かる。確かに2重反転ファンは強風が得られることが実証された。
青が「SILKY WIND Mobile 3」、赤が「HANDHELD FAN with STAND WHITE」
2重反転ファンはうるさいのか?
確かに強い風は出るが、その分、騒音も大きいのではと思ったあなたは鋭い。もともと2重反転ファンは普通のファンよりもノイズが大きくなるという弱点がある。距離25cmから80cmで風量最大のノイズレベルを測定した。25cmでのノイズは72dBとかなり大きい。目安としては騒々しい事務所レベルだ。60dBはデパートの店内レベルで会話可能だ。50dBはエアコンの室外機ぐらい。予想に反して2重反転ファンは40cm離れるとDAISOとの差はほとんどない。30cmなら54dBになるため、一般のハンディファンとほとんど変わらないレベルと言える。
ノイズレベルの比較、距離が離れるにつれて2機種の差が少なくなった
電池容量で運転時間が倍増
2重反転ファンは2枚の羽根を2個のモーターで回すため、2倍の電力が必要かと言えば、そうではないようだ。DISOの連続運転時間が最大5時間30分に対して、Mobile 3は10時間も使える。最強のターボモード以外ではMobile 3の方が長時間運転できる。その分、電池容量の少ないDISOの方が軽量だ。屋外での使用が多いなら、軽さ優先で、屋内メインなら連続使用時間重視で選ぶのがいいだろう。
大容量充電池を搭載したMobile 3が長時間使えるが、フル充電まで約6時間かかる
ターボモードでも体感温度に差はない
こうして比較すると、数値的にはMobile 3の優位性が見えてくるが、実際のところはどうなのか。使ってみるとターボモードが必要になる場面はあまりない。かなりうるさいし、30分で電池がなくなってしまうため長時間運転もできない。デスクトップでは最弱で使うことが多かった。もしかするとターボモードには速く顔が冷えるとか、より冷えるとか、そんな効果があるかもしれない。
そこで伝家の宝刀、サーモグラフを使って顔の表面温度がどれぐらい下がるかを比較した。その結果はDISOもMobile 3も温度が下がるまでの時間は変わらず、顔に風を当てて続けても35.2度から34.5度までは下がってから、変化はなかった。顔が冷えるのは風で汗が乾く時に気化熱が奪われるためで、汗が乾けばそれ以上、温度は下がらないと思われる。首に濡れタオルを巻いたり、ミストを吹いたりすれば、さらに冷える可能性があるが、通常の使用で優位性は感じられなかった。
それでは550円のDISOで充分かと言えば、それは用途による。スタンドの角度を変えられないため顔に風が当てられない、またストラップホールがなく首から下げて使えない。電源OFFにするためにボタンを何度も押す必要がある、など使い勝手が悪い。するとDAISO「HANDY FAN」に角度調整対応、さらに弱運転で連続約9時間使えるモデルを発見。これはいいかもしれない。
リズム「SILKY WIND Mobile 3」のメリットは3Wayであること。長時間連続運転対応、そして男心をくすぐるメカ、2重反転ファンを採用していることだ。デメリットは前モデルまであったボタン長押しで電源をロックして誤作動を防止する機能がなくなったこと。その替わりボタン長押しで、どのモードからも電源OFFにできる。フル充電まで約6時間は長いのでUSB PDに対応して欲しい。
ハンディファンを回転させて最も温度の低い点を測定。左がDISO、右がMobile 3
顔の温度変化を鼻の位置で測定。左がMobile 3、右がDISO。その差は誤差の範囲だ
写真・文/ゴン川野