「年金の受給者が亡くなると、未支給年金が受け取れる」と聞き、対象になる年金や金額が気になっている人はいませんか? 未支給年金を請求する際には、事前の準備が大切です。請求前のチェックポイントや確定申告の注意点、申請の流れなどを解説します。
未支給年金を請求する前のチェック事項
亡くなった人の未支給年金を請求する前には、確認したいポイントが二つあります。トラブルに巻き込まれないためにも、請求の前に忘れずにチェックしましょう。
年金受給停止手続きが済んでいるか
原則、年金を受給していた人が亡くなると、『受給権者死亡届(報告書)』を提出して年金の受給停止手続きをしなければなりません。年金の受給停止手続きが済んでいないと、受給者が亡くなった事実が年金事務所に伝わらないからです。
亡くなったことが伝わらないまま生存していたころと同じように年金が振り込まれると、不正受給として返却の手間が発生します。当然ながら、年金の受給停止手続きが済んでいない状態で、未支給年金は受け取れません。
年金の受給停止手続きには、期限が定められていることも覚えておきましょう。厚生年金は『死亡後10日以内』国民年金は『死亡後14日以内』に、年金事務所や年金センターへ受給権者死亡届を提出する必要があります。
なお、例外として、『日本年金機構』へ個人番号(マイナンバー)を登録済の受給権者(死亡者)は、受給権者死亡届の提出を省略できます。
亡くなった人の年金受取口座を解約している
年金の受給停止手続きが済んだら、亡くなった人の年金受取口座が解約されているかをチェックしましょう。解約しないままで未支給年金を請求すると、受取予定の遺族ではなく『亡くなった人の口座』へ入金される可能性があります。
この場合、亡くなった人の財産扱いとなり、相続にも関係してきます。口座は凍結され、手続きを行うまでは解除できません。遺産分割がない場合にも、銀行への連絡が必要になります。
スムーズに未支給年金を受け取るためにも、事前に亡くなった人の口座を解約することをおすすめします。
受給者の死亡後に発生する未支給年金とは?
年金受給者が亡くなった後に発生する未支給年金には、個人年金や企業年金は含まれるのでしょうか?未支給年金が発生する年金の種類や金額、課税の有無について解説します。
未支給が生じる年金は大きく3種類
未支給年金が出る可能性が高いのは、公的年金です。
- 国民年金
- 厚生年金(会社員・公務員が対象)
国民年金は、20歳以上のすべての日本国民が加入する制度です。亡くなった人が会社員や公務員だった場合には、国民年金にプラスして厚生年金に加入しています。
支払いは2カ月に1回で、2カ月分がまとめて支払われる形です。後述しますが、死亡時期によって1~3カ月分の未支給分が発生することになります。
また、企業年金の一つである『確定給付企業年金』や公務員へ支給される『年金払い退職給付』も、有期年金の残余期間分は未支給分が発生するでしょう。
参考:教えて!公的年金制度 公的年金制度はどのような仕組みなの?|厚生労働省
公的年金の場合は相続税の課税なし
公的年金を受け取っていた人の死亡により遺族が受け取る『遺族年金』は、所得税と相続税の両方が非課税です。しかし、未支給年金は、『遺族の一時所得』に該当します。相続税は非課税な反面、所得税の課税対象です。
ちなみに、個人年金や企業年金などの私的年金も、課税される点を覚えておきましょう。『私的年金の契約者と給付金受取人が同一であるかどうか』で、課税される税金の種類が変わります。
参考:No.4123 相続税等の課税対象になる年金受給権|国税庁
参考:No.1610 保険契約者(保険料の負担者)である本人が支払を受ける個人年金
給付される金額は亡くなった時期で変わる
年金の受給中に死亡した場合、日割りではなく『亡くなった月』まで支給されます。年金は毎月支給されるわけではなく、『偶数月の15日』に前月と前々月分がまとめて振り込まれるものです。そのため、受け取れる未支給年金の額は、亡くなった時期によって変わります。
- 支給月(偶数月)の支給日後:1カ月分
- 支給月(偶数月)の支給日前:3カ月分
- 支給月以外(奇数月):2カ月分
例えば8月14日に死亡した場合は、本来8月に受け取るはずだった6・7月の年金と死亡月に当たる8月分の計3カ月分が未支給分です。
なお、年金の受取時期を遅らせる『繰り下げ受給』期間中に死亡した場合は、本来の受給開始時期の『65歳以降から死亡月まで』の年金額をまとめて請求することが可能です。
未支給年金が給付された!確定申告は?
年金受給者の配偶者や子どもなどの遺族が未支給年金を受け取ると、確定申告は必要なのでしょうか?未支給年金が給付された後の、注意点をチェックしておきましょう。
一時所得の合計が50万円を超えると必要
結論からいうと、遺族が受け取った未支給年金の額が50万円を超える場合には確定申告が必要です。未支給年金は、受け取った遺族の『一時所得』として分類されます。
一時所得には50万円の特別控除があるため、『未支給年金を受け取った年の一時所得が50万円』に満たない場合には確定申告をする必要はありません。
未支給年金以外の一時所得には、懸賞や福引などで得たお金、落とし物を届けた際に謝礼として受け取る報労金などが該当します。また、生命保険や損害保険の満期返戻金なども一時所得に含まれます。
未支給年金の請求から給付までの流れ
未支給年金を請求する際には、どのような点に注意すればよいのでしょうか?未支給年金を請求できる遺族の範囲や必要書類、申請から受給までにかかる期間などをチェックしましょう。
必要な書類を準備!遺族が自分の名前で請求
受け取った人の一時所得になる未支給年金は、『亡くなってから5年以内』に死亡者の名前ではなく『受給予定者本人』の名前で請求する必要があります。請求先は、年金事務所や年金相談センターです。
請求できる遺族の前提条件は、『死亡当時に生計を共にしていた』ことです。その上で、以下の優先順位で1人だけ未支給年金の請求ができます。
順位 | 死亡者との続柄 |
1 | 配偶者 |
2 | 子 |
3 | 父母 |
4 | 孫 |
5 | 祖父母 |
6 | 兄弟姉妹 |
7 | 上記以外の3親等以内の親族 |
未支給年金を請求する際に、提出する書類の例は以下の通りです。
- 未支給年金・保険給付請求書
- 亡くなった人の年金手帳、年金証書または基礎年金番号通知書
- 預金通帳やキャッシュカードなど金融機関の証明ができるもの
- 戸籍謄本か戸籍抄本、戸籍の記載事項証明書
- 請求者の世帯全員の住民票
- 受給権者(亡くなった人)の住民票の除票
住民票は、請求者だけでなく世帯全員分の本籍地や続柄が記載されたものが必要です。世帯全員分の住民票で受給権者が確認できないときのみ、住民票の除票が必要になります。
なお、住民票の記載住所は別であるものの、一緒に暮らしていた場合などは『同居についての申立書』や『別世帯になっていたことの理由書』などが必要です。
請求して審査に通ると半年ほどで振込
未支給年金の給付を請求すると、3~4カ月ほどかけて審査が行われます。審査の結果、給付の可否にかかわらず通知書が送付される流れです。
通知書の名称には違いがあり、審査が通ると『未支給(年金・保険給付)決定通知書』が、通らないと『不該当通知書』が届きます。
多くの場合、未支給(年金・保険給付)決定通知書が送付されてから50日ほどで未支給年金が指定の口座に振り込まれます。
請求してから給付までには半年ほどかかることと、審査が通らない可能性を理解して請求するようにしましょう。
構成/編集部