いくら働いても収入が増えない状況からの脱出
2018年の働き方改革に伴う「副業元年」から、はや4年。コロナ禍もあって、「副業」に対する心理的な垣根はどんどん低くなっている。
ライターの日比野新さんは、そうした世の中のトレンドよりも早くに副業に目覚め、それを本業にすることに成功した1人だ。
最新の著作『1文字1円を10円に上げる 書く副業』(かんき出版)には、「ホームページの原稿50サイト」などそうそうたる実績が並ぶ。今では、ライターの仕事だけでも十分食べていけるという。
もっとも、日比野さんが副業を始めた理由は、前向きなものとは程遠い。7年前の当時、システムエンジニア兼プログラマーという肩書で派遣社員をしていた日比野さんは、「いくら働いても収入が増えない」ことを実感する。派遣社員から正社員として登用される望みもなく、月収も波があり、1円も退職金は見込めない。
「正直やってられないという気持ちでいっぱいでした」
と、日比野さんは当時の心境を打ち明ける。
文章を書いて収入になる「ライティング」の世界を知ったのは、その頃。派遣社員としての月収とは別の収入源としては最適ではないかと、この世界に飛び込んだ。
同じ仕事をしている人からは、「月10万円稼げました」といった声がちらほら。大きな期待を胸に、この副業を始めたが……
■超格安案件からの副業スタート
ーー「見つけるのが難しい」といわれるライターの仕事ですが、どのようにして受注していったのでしょうか?
日比野さん:はじめた頃はパソコンだけで簡単に案件を見つけて応募できるクラウドワークスやランサーズや、そのころは老舗になっていた「アットSOHO」から受注してましたね。そこで1文字1円とか0.5円とか、そういうのを請け負ってました。
書く内容はというと、副業でブログアフィリエイトをやっている人からが多かったので、雑多な内容でした。
ダイエットの話もあれば男性ファッションの話もありましたし、リフォームとか、まぁいろいろありました。あまり詳しくない内容の依頼でも情報を探すことは好きだったので、始めた頃は「楽しいなぁ」と思いながら書いてました。
■いくら頑張っても単価が上がらない日々
ーーやがて、といいますか、すぐに「これは何かがおかしい」と気づくわけですね。なにしろ報酬が少ない、と。
日比野さん:そうなんですよ。これまで会社員としてしか働いたことがなかったので、当時の自分としては仕方なかったかなと思うんですが、案件を依頼される方の言葉や話を鵜呑みにしてしまっていたんですね。
中には良い人というか約束を守ってくださる方もいらっしゃったんですけど、8割以上は約束なんて「口先だけ」という状態でして…。
例えば、案件をスタートするときにオンラインで打ち合わせすると、「今は1文字0.5円ですけど、良いものを書いてもらったらすぐに1文字2円とか3円にしますから!」とおっしゃる人や、「20記事書いてもらったら21記事目から文字単価をアップしますんで」という人が出てくるわけです。
で、僕は会社員としてしか働いたことがなかったので、こういう約束は「守られるんだ」と思っているわけです。まぁ、甘いわけですね。副業市場をわかっていない素人なわけです。
で、依頼を頂いて書いていくわけです。内容もきちんと調べて濃く、納期も守って。納期に関しては一度も破ったことがありませんね。今も昔も。単価が安くても高くても。これだけは自慢です。
でもですよ、いつまで書いても1文字2円にならないんです。20記事書いて、次は21記事になるから単価が上がるなと思っていたら、「先方の予算が無くなりまして……」というような理由を書いたメールで届いて、それで案件が終わるんです。
こういうのが何度か繰り返されたところで、まぁ、遅いんですが「おかしい」と気づきまして。
これは、いいように使われているんだなと。派遣で仕事しているのと同じなんじゃないかと。だって、いくら書いても稼げないんですから。しんどいだけ。時間を使うだけ。休日も無し。こんな思いをするんだったら、副業ライターなんてやらない方がいいと何度も思いました。
でも、現実に目を向けると、何か別の収入源が必要なわけです。そうしないと暮らしが楽にならないですし、そもそも45歳を過ぎた高卒のおっさんが好条件で転職して正社員で入れることなんて、今の日本では現実的ではありませんから。
若い方でも正社員になれなくて苦労されているのに、後10年くらいで定年になるようなおっさんがね~。無理ですよ、普通は。かなり「キラッ」と光る何かがないと。
実はこのとき、ライターで起業を目指すグループに参加してライティングの勉強をしてました。別に怪しいグループではありませんでした。
参加者はみんな頑張って学んでました。そのグループで月に1回くらい集まって勉強会があるんですけど、参加者の中にはライティングだけで稼いでいる人がいるんです。月に10万円とか20万円とか30万円とか。
「大きな案件を獲得したので半年は大忙しになります!」と言っている人もいるんです。
話を聞いて「へっ? ホント?」って感じですよ。自分は数千円なのに。そんなことが数か月続いたとき、何とかして報酬をアップさせられないかと真剣に考え始めました。
■単価を上げるために工夫を重ねる
ーーでは、報酬単価をアップさせるために、どのような対策をとり、ライターを本業にするまでになったのでしょうか?
日比野さん:クラウドワークスやランサーズなどで案件を探すときは、最初から文字単価が高いものを選ぶようにしました。だって、後から上がることはありませんから。さすがに経験からわかってますし。
当然ですが、文字単価が高い案件は要望も高いですから、リサーチ力を必要とします。そこで本書でも紹介していますが、要望に合わせたリサーチ方法やリサーチしやすい雑誌などを見つけて整理していました。いつでも良い案件が出たらすぐに応募するために。
僕の場合、近くに国会図書館関西館がありましたので、開館から閉館まで雑誌から専門書まで1日使ってリサーチできたのは大きかったと思います。ただ、国会図書館でなくても地域の図書館でも十分に使えますので、ほとんどの人は同じ方法が使えます。
次に、ちょっと高額なセミナーに参加してホームページ制作会社さんやウェブコンサルタントさんと知り合い、一緒に仕事をすることをはじめました。
クラウドワークスやランサーズよりも報酬が高いですし、気に入ってもらえると継続案件になりますから、副業収入が一気に安定します。
ちょっと余談ですが、僕は昔から収入を「安定」させたいんです。これはフリーランスになった今でも同じです。ギャンブルはしたくないんですね。投資よりも貯金を好む典型的な日本人気質です。
人によっては1年12ヶ月の中で、どこかの1か月だけガツンと稼いで、他の月はゼロもOKという人もいます。この方法も良いと思うんですけど、リスクが大きいと感じてまして、それなら満遍なく毎月10万円入ってくる方が精神的にも辛くならないのでいいかなと。
話が逸れました。すいません。
■積極的に分野を広げ収入を安定させる
ーークラウドソーシング以外の発注先も見つけることが、単価頭打ちの1つの打開策だったわけですね。そこから間口を広げっていったと。
日比野さん:ホームページ制作会社さんやコンサルタントさんと仕事を始めると、副業で次の展開ができるんですね。例えば、単に「ブログ記事を書く」という以外に
・ホームページ全体の原稿を書く
・ランディングページの原稿を書く
・コンサルティングで使う資料を書く
・セミナーの原稿を書く
・コンサルタントさんの書籍出版を手伝う(代筆する)
さらに、ここからは得手不得手はありますが、ライティングしていると自然に身につく専門的な部分にフォーカスして
・SEO対策のアドバイスをする
・ウェブマーケティングのアドバイスをする
・オウンドメディアのアドバイスをする
こういうことを取り入れると、収入が一気に安定して増えるんですね。
こんなことを繰り返していって、今ではフリーランスとして収入を得て生活することができるようになりました。
■価値を認めてくれる人と一緒にやる
ーー「これからライティングを副業にしたい!」あるいは「とにかく何か副業を始めたい!」と考えている方に、アドバイスがあれば教えてください。
日比野さん:ライティングはスタートするのに、ほとんどお金がかかりません。これは会社員の方が始めるのにとてもうれしいことです。ですから悩んでいるのなら、悩んでいる時間がもったいないので。すぐにライティングをやってみてください。
やってみると自分に合っているのか、面白いと感じられるのかどうかがわかります。合っているなと感じたら、これも悩む前で練習用案件としてクラウドワークスやランサーズで低単価案件を獲得しましょう。少なくても実際にお金がもらえることを実感してください。これ、今後のマインドに大事です。
数百円でも自分が書いたもの(クリエイティブ)でお金が生み出せたなら、ここから1文字10円を目指してください。
最初のうちは安い単価も仕方ないですが、3か月、4か月と続けられて、お金を生み出しているのなら、高い単価を受け取る権利は生まれています。
そこからは、「とりあえず」で受けたくなる安い単価の案件は除外し、高い単価のものにフォーカスしましょう。
だって、会社員の方が副業するということは、主たる収入があり、安心して暮らせる環境があるんですから。仮に副業収入が無くても生活できます。
こういう環境があるからこそ、割のいい案件だけを少ない数でいいので受けるように意識してください。
仮に1文字1円で2000文字のブログ記事を書いても2000円です。
でも、1文字10円で2000文字のブログ記事を書けば20000円です。
1文字1円で忙しくしんどい思いをして月に10本書いて20000円稼ぐよりも、最初から割のいい案件で月に1本書く方が楽しく副業をする意味があります。
「楽して稼ぎましょう!」とは言いませんが、価値を認めてもらえない副業で稼ぐのは止めましょう。あなたが生み出したものの価値を認めてくれる人と一緒にやるように心がけてください。
僕はこの考え方でフリーランスとして活動できるようになりました。向き不向きはどんなことにもありますが、おそらく大きくは間違っていない方法だと思っています。
いかがだったろうか。日比野さんの言葉には、ライティングだけでなく、他の分野の副業にも通底する考え方が多々あるように思える。副業の収入が思うように上がらない方は、参考になるところがあるはずだ。
後編では、「本気でライティングを副業に」と考えている方向けに、「どういったジャンルが狙い目か」など、より踏み込んだ内容を紹介する。
日比野新さん プロフィール
ライター、システムエンジニア、プログラマー、DXプランナー。1968年生まれ。京都府出身。高校卒業後、SE・プログラマーに。以後、34年間ソフトウェア開発業務全般を行う。2015年、IT業界での働き方や収入に疑問を持ったことで、仕事とは別に収入を得る方法を模索。偶然出会った「セールスコピー」をきっかけに学習をはじめ、副業ライティングをスタート。現在は、書籍やデジタルマーケティングに関わるライティング、ECやホームページへの集客・販売向上アドバイスを行う。また、企業向けにDX化のアドバイスや支援も行っている。著書に『文系でもプログラミング副業で月10万円稼ぐ! 』『文系でも転職・副業で稼げるAIプログラミングが最速で学べる! 』『文系でも数式なしのPython×Excelで稼ぐ力を上げる! 』(いずれもかんき出版刊)などがある。
文/鈴木拓也(フリーライター)