「国民健康保険に加入していても、出産一時金をもらえるの?」と悩んでいる人はいませんか? 出産一時金の受給条件や直接支払制度を含めた請求方法、出産に関する制度や控除を紹介します。国や自治体の制度をチェックして、出産の際に役立てましょう。
出産一時金ってどんなもの?
そもそも『出産一時金』はいくらぐらい支給され、何に使えるお金なのでしょうか?まずは出産一時金の金額や、『出産手当金』との違いを解説します。
1児につき42万円が給付される
出産一時金の正しい名称は、『出産育児一時金』です。出産率の低下を解消するためにスタートした国の制度で、高額になりやすい出産費用の一部を助成するというものです。
出産一時金の金額は、1児につき42万円です。出産の回数ではなくて子どもの人数あたり42万円が支給されるため、双子の場合は42万円×2人分の84万円がもらえます。
なお、妊娠22週未満や、『産科医療補償制度』の加算対象ではない出産の場合には、1児につき40万4000円が支給されます。
公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する産科医療補償制度には、2022年6月時点で病院や診療所は99.9%、助産所は100%が加入していることが報告されています。
出産手当金との違いは支給額と対象範囲
同じように思える出産手当金と出産一時金は、似て非なるものです。出産手当金は、妊娠・出産により働けなくなった女性を支える制度です。
出産日以前の42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までの範囲内で、いつも通り働いていたら得ていたであろう『標準報酬日額』の3分の2が支給されます。
1児につき42万円と決められている出産一時金とは対象的に、収入によって支給額が違うのが大きな特徴です。出産により会社を休んだ期間の収入を補償するものなので、対象となるのは健康保険加入者です。
出産一時金の給付条件
出産一時金は、子どもを産む人が全員もらえるお金なのでしょうか?対象となる保険の種類や妊娠期間、申請する前の注意点をチェックしましょう。
公的医療保険の加入者や扶養者
出産一時金は公的医療保険の加入者や扶養者なら、全員が受け取れるお金です。公的医療保険は国民が加入を義務付けられている保険で、会社員が加入する被用者保険や後期高齢者医療制度はもちろん、主に自営業者やフリーランスなどが加入する国民健康保険も対象となります。
妊娠を機に仕事を退職した場合でも、退職日までに継続して1年以上、健康保険に加入していて、退職日の翌日から6カ月以内の出産であれば一時金の支給対象です。
なお、国民健康保険で対象外になったとしても、例えば退職後に社会保険に加入している配偶者の扶養に入ると、社会保険から出産一時金が支給されます。
妊娠4カ月以上の出産
出産一時金は、妊娠4カ月(85日)以上の出産は全て支給の対象となります。妊娠期間が4カ月を過ぎていれば、たとえ早産であったとしても1児につき42万円が支給されます。
流産や死産になった場合には、妊娠12週を過ぎていれば通常の出産と同じように出産一時金が支払われます。ただし、22週未満の出産に対する一時金の額は産科医療補償制度の加入に関係なく40万8000円(2021年12月31日以前の出産は40万4000円)です。
出産翌日から2年以内に申請している
受給条件を満たしていても、出産翌日から2年を過ぎてから申請すると出産一時金をもらうことはできません。出産一時金の申請期限は出産翌日から2年以内と決まっているため、2年を経過すると給付金を受ける権利自体が消滅するのです。
出産から2年を経過していなくて一時金を受け取っていない場合は、さかのぼって申請することが可能です。産後2年以内で出産一時金を受け取っていない人は、なるべく早く申請を済ませるようにしましょう。
参考:厚生労働省「健康保険法第106条の規定に基づく出産育児一時金の支給の取扱い等について」
出産一時金の申請方法は大きく三つ
「出産一時金をもらえるのは分かったけれど、どうやって申請すればいいの?」と思っている人もいるでしょう。次は、出産一時金を申請する三つの方法を紹介します。
差額が請求される「直接支払制度」
多くの産院で導入しているのが、『直接支払制度』です。直接支払制度は、加入している公的医療保険から医療機関に直接出産一時金が支払われる制度です。
例えば出産費用の総額が45万円だった場合、直接支払制度を使うと一時金の42万円分を引いた3万円が請求されます。
直接支払制度の申し込み方法は、出産をする医療機関や助産院などに保険証を提示し、出産一時金の代理申請・受取に同意する書類「健康保険出産育児一時金内払金支払依頼書」や「健康保険出産育児一時金差額申請書」を記入するだけです。
40万円強の出産費用を立て替える必要がないため、経済的な負担を軽くして出産ができます。なお、出産費用が42万円を超えなかった場合には、出産日の翌日から2年以内に差額の請求が別途必要なことも覚えておきましょう。
「受取代理制度」で申請を医療機関に委託
直接支払制度が利用できない医療機関や助産院などでは、『受取代理制度』を利用できる場合があります。受取代理制度は直接支払制度と違い、事前に加入している健康保険組合への申請が必要です。
受取代理制度とは、医療機関や助産院などが代わりに出産費用を健康保険組合などに申請できる制度です。出産予定日の2カ月前から、厚生労働省に届け出をしている医療機関や助産院などで申請が可能です。
事前に出産をする医療機関や助産院の窓口で、受取代理制度に対応しているかを確認するのをおすすめします。
支払い後に行う「事後申請」
医療機関や助産院などを通さずに出産一時金を受け取りたい場合は、加入している健康保険組合などに直接申し込む『事後申請』の選択が可能です。
事後申請のデメリットは、数十万円単位の出産費用を全額立て替える必要があることです。申請をしてから出産一時金がもらえるまでには2週間から2カ月ほどの時間がかかります。
しかし、出産費用をポイント還元率の高いクレジットカードで支払うとポイントが貯まるメリットもあるでしょう。まとまったお金が用意できる人は、事後申請で出産一時金を受け取るのも一つの方法です。
出産費用が高額に!使える制度や控除を紹介
妊娠中の通院や出産のトラブルで、予想以上に費用がかかるケースもあります。出産前後に使える制度や控除をチェックして、想定外の出費を抑えましょう。
出産のトラブルに役立つ高額療養費制度
高額療養費制度を利用すると、医療機関や薬局で支払った医療費が上限額を超えると、オーバーした分が払い戻されます。
被用者保険、国民健康保険などの公的医療保険の適用になる診療が対象で、出産によって起こりうる帝王切開や吸引分娩なども含まれています。
医療機関から発行される領収書で、保険診療の治療が行われたかを確認できます。事前に健康保険組合に『限度額適用認定証』の交付を申請し、入院する医療機関や助産院などで提示すると、限度額を超えた請求をされないので安心です。
医療費控除の対象になる出産費用も
「妊娠は病気ではないから、医療費控除が受けられない」と思っていませんか?実は、出産をするためにかかった費用の中には、確定申告や年末調整の際に医療費控除の対象となるものが複数あります。
医療費控除が受けられる出産費用の例は、以下の通りです。
- 定期健診や検査などの費用
- 通院費用
- 出産による入院で使ったタクシー料金
- 病院に支払う入院中の食事代
定期健診や検査などの費用でも、妊娠と診断される前のものは医療費控除の対象とならないので注意しましょう。たとえ領収書がない通院費用でも、家計簿やノートなどに金額と内訳を記載して内容を説明できるようにしておくと医療費控除として申請できます。
陣痛が始まったら電車やバスなどでの移動が困難なため、タクシー費用も医療費控除の対象となります。
反対に、里帰りのための交通費や入院のために購入したパジャマやタオルなどの生活用品、入院中に利用した出前や外食の費用は対象外です。
なお、申請の際には健康保険組合や共済組合などから支給された出産一時金や出産費などの金額を医療費から差し引くようにしましょう。
参考:No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例|国税庁
構成/編集部