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【深層心理の謎】いつも節約しているのに突然無駄遣いしたくなるのはなぜ?

2022.06.23

 無駄遣いとは思いたくないが、ずいぶん高い買い物をしていたように思える。ネットショッピングが充実している今だったらもっと賢い買い物ができそうな気はするのだが……。

夕暮れの上野のかつての「バイク街」を歩く

 上野に来たのはずいぶん久しぶりだ。かつては仕事上の用件で上野にある会社に行くこともあったのだが、仕事をしていた雑誌はかなり前に休刊(事実上の廃刊)となり、仕事で来ることはほとんどなくなっていた。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 それでもコロナ禍前まではたまに知人などと上野で飲む機会もあったりしたのだが、今回のコロナ禍でそういうこともまったくなくなって今日に到っている。

 今日は昼過ぎから休みを決め込み、久しぶりに上野を訪れてみた。午後7時になろうとしているがまだ薄っすらと明るい。もちろんどこかで「ちょっと一杯」してみるつもりだ。

 呑兵衛ならまずはアメ横方面ということになるのだろうが、今日はとりあえず入谷方面に行くことにする。駅のこっち側で飲むのはかなり久しぶりのことになる。広い高架デッキの階段を降りて地上に降りる。

 この界隈がかつて「バイク街」であったことを知る人は今や少ないと思うし、自分も全盛期の「バイク街」のことは知らない。それでも1990年代終盤くらいまでは、ずいぶん下火になったのだろうが「バイク街」の体裁はまだあったように思う。自分もそれくらいの時期にここにきてバイク用品店でヘルメットやジャケットやブーツ、グローブなどを何度か買いに来たことがあった。

 バイク用品は決して安い買い物ではない。その時期には安月給のサラリーマンであった自分だが、よくもまぁ一度に数万円が飛ぶ買い物をしていたものだと、今思えばむしろ感心する。その時期に買ったものは今は何一つ持ってはいないが、そうしたアイテムを着けてバイクに乗っていた時期のことはいい思い出にはなっている。

 線路沿いの入谷口通りには行かずに、昭和通りのほうへと向かう。めっきり見かけることが少なくなったハンバーガーチェーンを通り過ぎ、続いて牛丼屋と立ち食いそば屋の前を抜ける。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 バイクに乗り続けるにはそれなりに出費が伴うわけであり、思い出だけを残して水泡に帰すお金の使い方をしてしまう。決して無駄遣いをしたとは思いたくなくないものだが、もしも今自分がそうした状態にあったとすれば、バイク用品などはもっと賢く、手堅く購入できているのではないかとも思う。なんといっても今はネットショッピングが充実していることから、もっといろんな選択肢から選び、価格面もよりシビアになれそうな気がする。

普段は節約しているのになぜ無駄遣いしてしまうのか

 通りを進む。帰宅の時間帯からかスーツ姿の人が多い。その中には「ちょっと一杯」の人々も少なくないのだろう。自分が「ちょっと一杯」で行く店は大衆店に限られるが、エリートの方々であればそれなりの店に入ったりもするのだろう。羨ましい限りだ。

 日々の飲み代はなるべく低く抑えるなど、自分は決して無駄遣いをするような人間ではないのだが、バイク用品などの趣味性の高い買い物ではそれなりに大枚をはたいてしまうことが少なくともこれまでにはあった。

 この事実は自分でもけっこう意外なのだが、趣味に使うお金はやはり日常の消費行動とは違ってくるということなのだろうか。最新の研究では我々は消費において同じ金額差でも、それを絶対的な価値ととらえるのか、相対的な価値ととらえるのかをその都度切り替えており、我々は往々にして最適ではない意思決定を行っていることが示唆されている。


 私たち人間は、2つのものの大きさを比較せずに1つのものの大きさを理解することは難しいと感じています。

 2つの大きさを比較するとき、比率と差を使用する傾向があります。意思決定の手続き理論では、そのプロセスにおいて比率と差異を使用する可能性が含まれる必要があることを示唆しています。

 ここでは、意思決定の「比率差異理論」を提示します。

 比率の比較と差異の比較に重きを置く手続き型決定理論は、標準的な選択理論の結論を提供するだけでなく、多くの決定異常を説明する可能性があることを示しています。

※「now Publisher」より引用


 レンセラー工科大学、ネバダ大学リノ校、南オレゴン大学の合同研究チームが2022年6月に「Review of Behavioral Economics」で発表した研究では、我々は絶対差のみを考慮すべき場合の意思決定に比率を適用して相対的思考なり得ることと、逆に相対的な比率を考慮すべき場合に絶対差に重きを置いてしまうことがあり得ることを説明している。研究チームはこれを「比率差異理論(ratio-difference theory)」と名づけ、なぜ人々が不合理な意思決定を行うのかを解説している。

 たとえば5ドルを手元に残しておかなければならない必要があるとして、手持ちが25ドルだった場合は20ドルの買い物で我慢することになり、手持ちが500ドルだった場合は買い物は495ドルに留めなければならない。

 この消費行動を“差異”の観点から見ればどちらの買い物も5ドルを節約したことになる。

 しかし“比率”の観点から見れば、20ドルの買い物では4分の1の金額を節約できた一方、495ドルの買い物では99分の1の金額を節約したことにしかならない。当人にとってみれば、20ドルの買い物では節約できた自分をほめたい気持ちにもなるが、495ドルの買い物では節約した実感があまり湧いてこなかったとしても不思議ではない。

 だとすれば495ドルの買い物では無理に節約しなくともいいように思えてきたり、たとえば520ドルの気に入った商品を見つけてしまった場合はカード払いで購入してしまうかもしれない。こうして“差異”を考慮しなければならない買い物を“比率”の観点で見てしまうために、不適切な買い物をし無駄遣いをすることになるというのだ。

 普段はなるべく無駄遣いをせず、スーパーで割引された惣菜や弁当などを買うようにして“自分をほめて”いても、バイク用品などの比較的高価で趣味性が強い商品を買おうという時は、そうやってセーブしたお金をいとも簡単に使ってしまうことにもなる。

 もちろん自分が気に入ったものを購入して満足して使っているとすれば問題はないともいえるのだが、この“差異”と“比率”のメカニズムに自覚的であれば確かにもう少し賢い買い物ができそうである。

ステーキを肴にハイボールを立ち飲む

 昭和通りの歩道を進む。通りはこの辺からやや大きく左にカーブする。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 ラーメン店に薬局、銀行ATMを過ぎるといくつかの飲食店が見えてくる。看板に「大衆酒場」を謳ってる居酒屋もある。立ち飲み席もある酒場だ。入ってみることにしよう。

 店内は決して狭くはないが案外こぢんまりとしている。厨房に面して2、3人が経ち飲めそうなカウンターがあり、通りを眺められる場所には4人ほどが飲める立ち飲み席がある。通りに面した立ち飲み席の奥が空いていたので入らせていただく。

 テーブル席で飲んでいる先客は4組全員が2人連れで、おそらく混んでくるとテーブル席は相席になりそうなので、確かに2人以上の人数で飲むのはあまり相応しくなさそうだ。

 ハイボールの大ジョッキをお願いし、ジョッキが届けられたところで「チャックアイロールステーキ」と「ロールキャベツ」、「パクチーサラダ」を注文した。立ち飲み席のある居酒屋としては珍しくステーキが売りの店だ。

 ステーキがやってきた。90グラムということだが、酒の肴としては適量である。さっそくひと欠片の牛肉を口に運ぶ。ミディアムレアの肉がジューシーで柔らかく噛み応えがあってじゅうぶん満足だ。入ってみてよかった。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 店の中から眺める昭和通りはまだ薄っすらと明るく、完全な日没までにはもう少し間がありそうだ。日が長くなったとはいえ、こんなに早い時間に飲むのも久しぶりである。今日はもう仕事のことは考えないつもりなので、ゆっくり飲むことにしたい。なんらならこの店を出た後に2軒目に行ってもいい。間違っても高い店などには行くはずもないので、懐が痛むこともないだろう。ここ上野は安酒飲みがハシゴ酒できる街だ。

 パクチーサラダとロールキャベツもやってきた。酒場でロールキャベツを食べるのはたぶん初めてのような気がする。しかも立ち飲みで味わうというのは前代未聞のことだ。

 ステーキを食べて思い出したが、かつてこの近所に立ち食いステーキの店があって、けっこう利用していたことを思い出した。仕事の用事で訪れた時に見かけて入ってみたのが最初だったのだが、その後にふと思い出すようになり、時間がある時などにバイクに乗ってわりと頻繁に訪れていた時期があったのだ。

 バイクを手放してからは訪れることもなくなったのだが、閉店してしまったことをネットの情報で知って残念に思っていた。建物自体の建て替えということのようでそれは仕方のないことだ。それでもこうして久しぶりに上野のこの界隈にやってきて、店は違えど同じようにステーキを食べているというのもなんだか面白い。そう考えると、10年前から自分の行動はたいして変わっていないということにもなりそうだ。

文/仲田しんじ

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