自分の所有地や借地に他人の車が無断で停められていた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
レッカー車などを手配して動かせれば話は早いのですが、そうはいかないのが難しいところです。理不尽に思う気持ちを抑えて、適切な手段によって事態の収拾を図りましょう。
今回は、他人に無断駐車されてしまった場合の対処法をまとめました。
1. 他人の土地に無断駐車|法律上の取扱いは?
他人の土地に無断駐車する行為が、違法であることは疑いの余地がありません。
その一方で、無断駐車されている車を勝手に動かす行為も、同様に違法である点に注意が必要です。
1-1. 無断駐車は違法|所有権侵害・不法行為・住居侵入罪・不退去罪など
他人の土地に無断駐車する行為は違法であり、行為者には以下の法的責任が発生します。
①所有権・占有権の侵害
無断駐車は、土地の所有権・占有権に対する侵害行為に当たり、土地の返還請求の対象となります。
②不法行為
無断駐車は、故意または過失により、土地の所有者・借地権者などに対して違法に損害を与える行為のため、不法行為に基づく損害賠償の対象となります(民法709条)。
③住居侵入罪
住居・邸宅・建造物の敷地に、正当な理由なく故意に無断駐車した場合、住居侵入罪に該当します(刑法130条前段)。
④不退去罪
住居・邸宅・建造物の敷地に駐車し、所有者などから退去を求められたにもかかわらず退去しなかった場合には、不退去罪が成立します(刑法130条後段)。
1-2. 無断駐車の車を勝手に動かすのも違法|不法行為・器物損壊罪など
無断駐車は違法であるとはいえ、その車を土地の所有者や管理者が勝手に動かすことも違法とされています。
法治国家の日本では、司法手続きによらずに実力で権利を回復する「自力救済」が原則として禁止されているからです。
なお最高裁の判例では、ごく狭い例外的な場合に限り、自力救済が認められる余地があることを判示しています。
「私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない。」
(最高裁昭和40年12月7日判決)
上記の判示では、「現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情」という、きわめて厳しい自力救済の要件が設定されています。
無断駐車については、たしかに「駐車部分の土地を使えない」「通行の邪魔だ」などの被害は生じます。しかし一般的には、放置すれば被害状況が急速に悪化する性質のものではないため、上記の自力救済の要件には当てはまらない可能性が高いでしょう。
2. 無断駐車への対抗策は?
自力救済が禁止されているため、土地の所有者・管理者といえども、無断駐車の車両をレッカーなどで勝手に動かすことはできません。
もし自分の所有・管理する土地で無断駐車を発見した場合、以下の方法によって対処しましょう。
2-1. 住居等の敷地内の場合|警察に相談する
住居・邸宅・建造物の敷地に無断駐車する行為には、住居侵入罪または不退去罪が成立します(刑法130条前段・後段)。
犯罪に当たる行為は、警察による捜査の対象になり得ます。そのため、住居・邸宅・建造物の敷地で無断駐車を発見した場合には、警察に相談して対応を求めるのがよいでしょう。
2-2. 共同駐車場の場合|和解交渉・訴訟の提起
これに対して、住居・邸宅・建造物の敷地ではない共同駐車場の場合、無断駐車をしても、住居侵入罪・不退去罪は成立しません。この場合は、純粋な民事上のトラブルに当たります。
民事上のトラブルを解決するには、まず当事者間で協議による和解を試みるのが一般的です。しかし、無断駐車をした者が和解を拒否するケースもあり、その場合は訴訟(裁判)の手続きを利用することになります。
無断駐車の車両の撤去を求めるには、裁判所に対して土地明渡請求訴訟を提起します。
所有権または管理権の存在と、無断駐車による占有の事実を立証すれば、裁判所は明渡しを認める判決を言い渡すでしょう。
なお、駐車場の使用料相当額などについては、無断駐車によって生じた損害に当たるため、無断駐車をした者に賠償を請求することが可能です。土地明渡請求訴訟を提起する際には、併せて損害賠償の請求を行うことも考えられます。
土地の明渡しを認める判決が確定すれば、確定判決を債務名義として、裁判所に明渡しの強制執行を申し立てることができます。
強制執行手続きでは、執行官を責任者として、あらかじめレッカー車などで強制的に無断駐車の車両を移動します。
このように、訴訟・強制執行の手続きを経れば、最終的には無断駐車の車両を移動できます。
しかし、数か月程度の期間を要するほか、費用や労力もかかるため、土地の所有者・管理者にとっては災難と言うほかありません。この辺りは、現状の法制度の限界が表れてしまっている状況です。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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