友人や職場の同僚に手作りお菓子をあげたところ、相手が食中毒になってしまった…。
善意といえども、かえって相手に迷惑をかけてしまったとすれば、あげた側はやるせなさを感じることでしょう。しかし、道義的な問題は別として、手作りお菓子をあげた側は何らかの法的な責任を負うのでしょうか?
今回は、手作りお菓子をあげた相手が食中毒になった場合について、法的に問題となる点をまとめました。
1. 手作りお菓子で相手が食中毒になった場合の法的責任
手作りお菓子を食べた相手が食中毒になった場合、お菓子を作った人は不法行為責任を負うことがあります(民法709条)。
不法行為とは、故意または過失により、相手に対して違法に損害を与える行為です。
手作りお菓子に何らかの衛生上の問題があり、それが原因で食中毒が発生した場合、お菓子を作った人の「過失」による不法行為が成立する可能性があります。
不法行為が成立する場合、お菓子を作った人は食中毒になった相手に対して、治療費などの損害を賠償しなければなりません。
2. 手作りお菓子と食中毒の因果関係がポイント
ただし、手作りお菓子を食べた後で食中毒になったとしても、食中毒の原因が手作りお菓子であると断定できるケースは稀でしょう。
実際には、「手作りお菓子を食べたことによって食中毒になった」という因果関係が立証できず、不法行為責任が否定されることも多いと考えられます。
2-1. 他の食べ物により食中毒になった可能性もある
一般的には、手作りお菓子をもらった日にも、朝・昼・晩と3回食事をとる方が多いでしょう。また、もらった手作りお菓子以外にも、何か別の間食をするかもしれません。
食中毒の潜伏期間は短時間の傾向がありますが、それでも食事から数時間程度を経て発症することは十分あり得ます。
そのため、食中毒を発症した原因が、手作りお菓子以外の食事にある可能性を否定することはなかなか難しいでしょう。
2-2. 因果関係の立証責任は請求する側にある
仮に不法行為に基づく損害賠償請求訴訟へ発展した場合、請求を行う側は、不法行為と損害の因果関係を立証しなければなりません。
したがって、手作りお菓子によって食中毒になったと主張する側が、その因果関係を立証する必要があります。
訴訟上の因果関係とは「高度の蓋然性」、つまり「通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであること」を意味すると解されています(最高裁昭和50年10月24日判決)。
かみ砕いて言えば、「手作りお菓子が食中毒の原因であることは、普通に考えてまず間違いない」と評価できなければ、因果関係を立証したことにならないのです。
実際には、他の食事によって食中毒になった可能性を排除することは難しく、手作りお菓子を作った人の不法行為責任が認定されるハードルは高いと言うべきでしょう。
3. 元々相手の胃が弱かった場合は?
仮に手作りお菓子に衛生上の問題があり、かつそれが食中毒の原因になったことが証明できたとします。この場合、手作りお菓子を作った人には、食中毒になった人に対する不法行為責任(損害賠償責任)が発生します。
では、食中毒になった人が元々消化器疾患などを持っており、それが食中毒の症状を深刻化させてしまった場合、手作りお菓子を作った人が全部の責任を負わなければならないのでしょうか?
この点については、「素因減額」という考え方があります。
素因減額とは、不法行為と被害者の疾患がともに原因となって損害が発生した場合に、損害賠償を減額することです。
最高裁の判例では、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念を根拠に挙げ、過失相殺(民法722条2項)の規定を類推適用して素因減額を行い得る旨が示されています(最高裁平成4年6月25日判決)。
手作りお菓子の衛生上の問題と、食べた人の消化器疾患などが両方作用して深刻な食中毒を引き起こした場合、まさに素因減額が問題となる場面です。
この場合、手作りお菓子を作った人が負担すべき損害賠償額は、疾患の態様・程度などを考慮して、一定程度減額される可能性が高いでしょう。
4. 買ってきたお菓子をプレゼントした場合は?
手作りお菓子ではなく、買ってきたお菓子を友人や職場の同僚にプレゼントしたところ、相手が食中毒になった場合はどうでしょうか?
結論としては、買ってきたお菓子の場合、食べた人が食中毒になったとしても、あげた側は不法行為責任を負わない可能性が高いと考えられます。
手作りお菓子の場合は、作る過程で衛生管理の不備があったとして、作った人の過失を認めやすい傾向にあります。
これに対して、店舗で売っているお菓子については、食品衛生上十分な配慮がされていると消費者が信じるのは普通のことです。
したがって、買ったお菓子にたまたま衛生上の問題があり、そのせいで相手が食中毒になったとしても、あげた側の過失が認められることはほとんどないでしょう。
ただし、消費期限を経過したお菓子をあげた場合や、賞味期限をあまりにも長期間経過したお菓子をあげた際に食中毒が起きた場合などには、不法行為責任を問われる可能性があるのでご注意ください。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw