独自のハイブリッドシステムを搭載し、「日本流とはひと味違う!」と自信たっぷりに登場してきたルノーのクーペSUV「アルカナ」。伝統のルノーの味わいを活かしながらの新世代ハイブリッドはどんな世界を見せてくれるのか?
あの“名車”にも通じる味わいを発見
「う~ん、やっぱりルノーだなぁ~」。
なぜか分からないが、ルノーの最新モデル、アルカナで走り出して10分ほどすると、こんな言葉が浮かんできた。なにを理由にそう思ったのか、相変わらずの乗り心地の良さを除けば、具体的な答えをすぐに見つけることが出来なかったが、なぜか、そう思った。
少しだけモヤモヤしたまま、さらに最高出力94馬力の1.6Lガソリンエンジンと、49馬力と20馬力の2個のモーターを組み合わせた最新のハイブリッドシステムが生み出す、優しく滑らかな、なによりも平和で穏やかな走りを味わっていた。すると、ひとつの原体験がふっと浮かんできた。2002年だったと思うが、ルノー・アヴァンタイムという、まるでミニバンのようなフォルムでありながら、大きな2枚のドアとリアハッチを備え、メーカーが3ドアクーペと呼んでいたクルマで、初冬の京都へ出掛け、休日を楽しんだことを思い出した。
「あ、あの感覚に似ているな」。
21世紀を迎えて早々、ルノーから登場したアヴァンタイムは、210馬力の3.0Lガソリンエンジンで前輪を駆動する FF車だ。フランス語のアバンギャルド(前衛)と英語のタイム(時代)を合成し、「時代を切り拓く、前衛的な車」という意味を込めたネーミングである。なにより魅力的だったのは、それまで見たこともない3ドアクーペ(ルノー自身のカテゴライズではあるが……)としてのデザインだった。だが、それほどに刺激的なデザインでありながら、不思議と1200年あまりの歴史を有する京都の風景に溶け込み、決して邪魔にならないのである。
風情のある白河筋や木屋町通りも、今ほど混雑していなかったこともあり、スッと乗り入れたが、古都のしっとりとした空気感と絶妙な融合を見せるのである。少し足を伸ばし、貴船や大原あたりまで出掛ける。途中に連なる日本の原風景とも言える景色をも邪魔しない不思議な存在感に、すっかり魅了されてしまったのだ。パリの街角に佇むアヴァンタイムが、とても自然で美しく見えたのと同様に、前衛と熟成された歴史とは本来、とても親和性が高いのだと気が付かされたのだ。に
そして、久し振りにゆったりと走ることが出来たもうひとつの理由といえば、1脚50万円はするといわれたレザーシートと、人の快適さを第一に考えた、居住性があったからだった。多分、ルノーの最新ハイブリッドのアルカナを走らせ、「やはりルノーだなぁ」と感じたのは、アヴァンタイムと同種の人に優しい、いたわりを感じさせてくれる走行感があったからだ。
新世代の機能美とクーペのエレガンスは誰のために?
今となっては珍しくはないクーペSUVというカテゴリー。アルカナもそこに分類されるSUVだが、なだらかに弧を描くルーフラインとボリューム感あるフェンダーラインとの組み合わせによる造形と、そのバランス取りの上手さは決して悪くない。いや、これ見よがしの自己主張ではなく、エレガンスを選択したデザインは、最近のルノーを選択する理由でもある。
そんなアルカナのドライバーズシートに体を預けると、まず感じたのが「大きな手で包まれる感覚」だった。あのアヴァンタイムほど豪奢なシートではないにしても、その安心感のある座り心地とゆとりのある居住性は、このまま1千キロ先まで走れ、と言われても思わず、そのまま走り出してしまうほどである。
さらにアルカナの「E-TECH HYBRIDシステム」は、欧州車に多くあるマイルドハイブリッドではなく、フルハイブリッドであることも、快適な走りを予感させる理由である。アクセルペダルを優しく踏み込み、穏やかに発進する。ここではエンジンは始動せず、モーターだけで、穏やかに速度を上げる。そのしとやかさが市街地で垣間見せるエレガンスにも通じる。
もし、シャープな切れ味を求めるなら、走行モードを「Sport」にすればいい。車名に「R.S.ライン」が付与されていることでも分かるが、F1を始めとしたモータースポーツの知見が活かされたルノー・スポールならではの刺激を味わえるのだ。ただ、これは個人的な好みの問題かもしれないが、ごく普通に市街地からワインディングを流すのであれば、スポーツとエコの中間的性格の「マイセンス」というドライブモードがベターだと思う。エンジンとモーターとの制御バランスも良く、運転も楽しく、そしてエコにも有利な、実に平和な走りが味わえるのだ。このあたりの味つけの上手さはルノー流フレンチの美味さであり、なんとも安定感がある。
アヴァンタイムの登場から約20年、ラテン語で「神秘」や「秘密」という意味の車名を与えられ、最新のハイブリッドシステムを与えられて登場してきたアルカナ。どんな人生にアジャストし、ユーザーをどのような幸福に導くために登場してきたのだろうか?
その答えを探すために、今度はアルカナを走らせ、インバウンドの混雑が本格的に戻ってくる前に京都で味わってみたいと思った。
クーペとはいえ伸びやかなルーフラインのお陰で、実用性が良さそうなサイドフォルム。
少し腰高感のあるクーペスタイルのSUVは、機能的な美しさも表現している。
通常は高さは少し不足気味だが、スクエアで無駄なスペースがほとんどない荷室。上下2段式でフロア下にもスペースがある。
現在、R.S.ラインのみで、ブラックを基調に赤いラインを配したスポーティな仕様のインテリアとなっている。
ドライブモードにより、メーターの表示デザインが切り替わる10.2インチのフルデジタルメーターパネル。
赤いステッキが配されたスポーティなシート。安心感のあるホールド感でワインディングでも高速でも快適な座り心地。
リアシートの空間は予想以上に確保され、足元のスペースにもゆとりがある。
スポーツモードでは鋭さを見せたハイブリッドユニット。WLTCモード燃費は22.8km/L。
赤いアクセントカラーが入った18インチホイール。215/55R18サイズの「クムホ・エクスタHS51」タイヤが組み合わされていた。
(価格)
4,290,000円(R.S.ラインE-TECHハイブリッド/税込み)
<SPECIFICATIONS>
ボディサイズ全長×全幅×全高:4,570×1,820×1,580mm
車重:1,470kg
駆動方式:FF(前輪駆動)
トランスミッション:AT
エンジン:水冷直列4気筒DOHC 1,597cc
最高出力:69kw(94PS)/5,600rpm
最大トルク:148Nm(15.1kgm)/3,600rpm
メインモーター:交流同期電動機
最高出力:36kw(49PS)/1,677~6,000rpm
最大トルク:205Nm(20.9kgm)/200~1,677rpm
サブモーター:交流同期電動機
最高出力:15kw(20PS)/2,865~10,000rpm
最大トルク:50Nm(5.1kgm)/200~2,865rpm
問い合わせ先:ルノー・コール 0120-676-365
TEXT:佐藤篤司(AQ編集部)
男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。