捨てられるはずのモノに命を吹き込む「廃材アート」の世界
【廃材(はいざい)】・・・不用なものとして廃棄された、または廃棄される予定の材料や材木のこと。
廃材は無価値という意味から「無価物」と呼ばれることもあり、一般的にはゴミとして捨てられてしまう物を指します。
さて、今回ご紹介するアーティストはそんな廃材に命を吹き込む「廃材再生師」。無価物と呼ばれたモノを有価物によみがえらせる廃材再生師・加治聖哉さんが手がけたユニークな廃材アートをご覧ください。
廃材から生まれた生き物たち
無邪気なマゼランペンギンの隣にこっそり佇んでいるのは、その名も「摩勢欄企鵝」。着色は一切せず、廃材のみで制作された立体アートです。
今年の干支でもある「寅」は、骨格やサイズ感まで本物を忠実に再現。躍動感がかっこいいだけでなく、上に人が乗ることもできるという勇ましさ。
高さ3.58mの「麒麟」は、コロナの終息と泰平の世を願い作られたという伝説の神獣です。角に流木、髭に植物の蔓などが使われており、本体に建築廃材と多素材を融合させた初めての作品なのだとか。
雅な「錦鯉:令和三色」を形作っているのは、イベントで使用されて役目を終えたという3色模様の看板。基本的に着色はしないため、この素材を見た時から「錦鯉にしよう」と決めていたそう。
大きな猛獣や小さな魚、伝説の神獣まで、あらゆる生き物を「原寸大」で制作することにこだわった加治さんの作品は、SNSやメディアで見かけた多くの人たちを虜にしています。
廃材にある可能性
新潟県村上市出身の加治さんは、廃材アートの可能性を広め、故郷である新潟を盛り上げるべく自治体や地域の商店街と協力しながら広く活躍されています。
ともすればゴミになってしまうはずのモノ、誰かが手放したモノを使って心に残る作品を生み出すという彼のスタイルは、一体どんな体験から生まれたのでしょう?
廃材を材料として使用するようになったきっかけについて尋ねてみました。
「廃材を使用している理由は、まだ使える可能性があるにも関わらず廃棄してしまうのがもったいなく感じたからです。そう感じるようになったきっかけは、母校である長岡造形大学の授業で家具などを制作していたとき。学生の材料取りが未熟で生じた廃材が非常に多く捨てられているのを見て、そんな風に思ったんです。」
そして、そんな考え方のルーツを辿ると加治さんのお祖母さまに由来するのだそう。
「祖母は『もったいないおばあちゃん』で、ティッシュの空き箱やラップの芯など色々ストックして小物入れやちょっとした工作をしていました。それを真似るようになってからものづくりが好きになり、何でも材料として使えるという考えが身についたのだと思います。」
これまで制作された中でお気に入りの作品は?という質問には
「基本的に私は自分の作品は全て気に入っています。愛着が湧きすぎて販売で手放すのが惜しくなることが多々あります。」
という加治さん。中でも思い出深い作品を挙げるならば、全長20mにおよび過去最大となった「ザトウクジラ」と、聖獣の「麒麟」なのだとか。特に麒麟はポージングや構造、表現の仕方で新たな挑戦をする部分が多く、苦労もあったということです。
社会問題へのメッセージ性を持たせた作品としても初挑戦だったため、とても思いの詰まった作品になったのだと語ってくれました。
■廃材再生師 加治聖哉(@scrapanimal)さん
廃材アーティスト/scrap wood artist
・廃材で実寸サイズの動物を作ってます
・廃材の可能性を広めたい
・長岡市栃尾を拠点に活動しています
■ツイッター https://twitter.com/scrapanimal
■インスタグラム https://www.instagram.com/19960308sk/
■ウェブサイト https://seiyakaji.com/
文/黒岩ヨシコ
編集/inox.