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ペット休暇や忌引きが取りにくい現状は変わるのか?「ペットとの共生」を推進する2社の先進的な取り組みに密着

2022.06.20

近年、「ペット休暇」や「ペット忌引」など、ペット関連の福利厚生を導入する日本企業は少なくないが、一部に限られている印象があった。しかしSDGsや多様性を重視する考え方の拡がりを背景に、より踏み込んだペット関連制度を導入する一般企業も出てきている。

そのペット関連の福利厚生について、先進的な取り組みを行っている2社にインタビューし、SDGsの観点からの「ペットとの共生」を推進する背景を探った。

日本初“最高動物福祉責任者 「CAO」を役職として新設

株式会社SARABiO 温泉微生物研究所は、先日、「最高動物福祉責任者(CAO)」という役職を新設した。CAOとは、「Chief Animal-welfare Officer(チーフ・アニマルウェルフェア・オフィサー)の略」。“働きながらペットと暮らしやすい就業環境の創出と啓蒙を目的とした役職”で、このような役職を作ったのは日本で初めてという。

同社は、大分県別府市を本社に置く、温泉プロバイオティクス研究による機能性食品やペット用品などの製造販売を行う企業だ。その企業がなぜこのような役職を創設したのか。

CAOに就任したペットライフスタイル事業マネージャーの羽鳥友里恵氏は次のように述べる。

最高動物福祉責任者(CAO)に就任した羽鳥友里恵氏

「昨今、ペットの飼育頭数は15歳未満の子どもの数を上回り(※)、ペットの家族化が当たり前になりつつある一方で、ペットと暮らす環境、特にペットを飼っている方の就労環境という視点ではペットとの共生が整備されていない現状に課題意識を感じています。

私自身、広告代理店に努めていた際に家族に迎えた愛猫が、慢性鼻炎を患っていたので、急遽動物病院へ連れて行かなければならない状況が多々ありましたが、ペットの看病を理由にして仕事を休みづらく、精神的にストレスを感じていました。

実際に当社で意識調査をした結果、ペットを飼っている約8割の方は『ペットを理由に仕事を休むことを言いづらい』という現状がわかり、働きがいという観点でも、企業からアクションを起こしていくべきであると考えました」

「Q. ペットが理由で仕事を休みたいと言いにくいですか?(遅刻や早退を含む)」

出典:ペット飼育者に関する働き方についてのアンケート調査結果(2022年3月20日~4月6日/調査対象:20~60代 男女 犬猫飼育者(過去に飼育していた場合も含む)430人

「当社は“温泉を通じて多くの方の美容と健康を”というスローガンのもと、『温泉プロバイオティクス』(微生物の力を美と健康に活かす)という発想で、人間だけではなく、ペットや、動物の飼料などにも活用し、環境、医療、食品、美容といった分野で持続可能なより良い未来につなげていく事業を展開しています。当社が描くこの『持続可能なより良い未来』を創造していくには、人と動物の共存、アニマルウェルフェアの概念が非常に重要だと考えました。今回CAOという専門的な役割を持った役職の導入により、企業の中から、アニマルウェルフェアへの理解促進や制度の整備、そして、就労環境という視点において、人と動物が持続可能な社会の実現を目指しています」

※出典:(一社)ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」及び総務省「人口推計」

●ペットに関する福利厚生も新たに導入

同社はCAO新設と同時に、新たなペット関連の福利厚生制度を導入した。以前はペットを理由に仕事を休むことを受け入れる企業風土はあったものの、特に制度を設けた取り組みはしていなかったという。

「今回、ペット忌引休暇、ペットの病院付き添い、介護による有給休暇取得制度、ペット関連資格の取得支援制度を新たに導入しました。資格の取得支援制度は、ペット関連の資格だけではなく、当社の事業に関わる資格であればすべてを支援対象とし、ペット飼育者だけが受けられる福利厚生ではなく、飼っていない人にとってもQOLの向上やスキルアップできる制度となっています」

同社はペット関連の福利厚生制度を導入することにより、次のメリットを期待しているという。

・従業員のQOL向上(離職率の低下や、ストレス値の軽減)
・年休取得率の向上
・採用率の向上
・飼えなくなってしまうリスクの回避(殺処分や飼育放棄防止につながるCSR活動の一貫)
・動物と生きることに対するリテラシーの向上

●世間にもたらしたい影響

CAO創設やペット関連福利厚生制度導入により、他社や世の中にどのような影響をもたらしたいと考えているだろうか。羽鳥氏は次のように述べた。

「日本初のCAO創設企業として、ペットも家族であるという意識の定着を図り、働きながらペットと暮らしやすい環境を率先して整えていきます。より多くの企業がCAOなど動物福祉という視点を企業の制度の中に取り入れていくことを推奨することで、社会全体の動物福祉への意識向上、人の福祉推進、女性の活躍機会の創出、経済成長などペットにとどまらず、様々な領域において良い影響を生み出していきたいと考えています」

ペット同伴出勤・保護猫を迎え入れるグローバル企業の日本の拠点

グローバルでペットケア事業を含む4事業を展開する米マース インコーポレイテッドの日本の拠点であるマース ジャパンでは、17年前から社員がオフィスにペットを3匹まで連れてくるのを許可しており、東京オフィスを移転した6年前にはオフィスに保護猫を2匹迎え入れている。

社員のペットたち

同社の広報、中村由帆氏は次のように背景を述べる。

「親会社マースのペットケア事業は、使命(Purpose)として、『ペットのためのより良い世界(A BETTER WORLD FOR PETS)』の実現を掲げており、体現する一つの施策として犬・猫と一緒に過ごせるオフィスをグローバルで推奨しています。日本では、2005年にオフィスを移転する際に、ペットフレンドリーオフィスを実現できるオフィスに決め、犬・猫との同伴出勤が可能なオフィスに決定し、その後の移転先でもペットフレンドリーオフィスを継続しています。

猫がオフィスに居住している理由は、猫の特性によるものです。犬は飼い主になつくので、どんな場所であっても飼い主がいれば安心できますが、猫は場所になつく傾向があるため、飼い主がいたとしても知らない場所に行くと落ち着かず、ストレスがかかる傾向があります。そのため、オフィスの空間に慣れ、そこに居住する形式を採用しました。

オフィスにいる保護猫たち

2016年にオフィスを移転した際、新たに迎え入れる猫について協議しましたが、私たちの使命の実現からしても、満場一致で保護猫を迎え入れることに決定しました。かねてよりお付き合いのあった東京都獣医師会による、小笠原諸島で野生化した猫を捕獲し、都内の動物病院で新しい飼い主さんを探す『小笠原ネコプロジェクト』を知り、オフィスに2匹を迎え入れました。コロナ禍をきっかけに原則、在宅勤務体制に移行したため、猫たちは社員に譲渡し、現在は飼っている犬猫を連れてこられる制度のみ継続しています」

●その他のペット関連制度

同社は、その他にも社員がペットを飼いやすい環境づくりとして社員向けの福利厚生制度を導入している。

慶弔関連では、ペットを新しく飼い始めた社員は1日有給休暇とお祝い金支給、ペットを亡くした社員は1日有給休暇とお見舞金支給制度がある。

またペットホテル・ペットシッター費用補助も行っている。出張や、オフィス出社時など、ペットが家で留守番をするのが心配な際に、ペットホテルに預けたり、ペットシッターに家にきてもらう場合に会社が費用を支給する(上限あり)。出張の多いペットオーナーの社員の声がもとになり実現したそうだ。

●SDGsにも貢献

これらの取り組みは、「SDGs」の持続可能性にも貢献するという。

「SDGsでは『誰一人取り残さない持続可能で多様性と包摂性のある社会』の実現を目指していますが、当社では『誰一人』の中にペット(特に犬と猫)も含まれると考えております。ペットと一緒に過ごすことのできるオフィスを通じて、人とペットが共生できる社会の素晴らしさや、飼い主としての責任を感じるきっかけになったり、保護犬や保護猫がペット迎える際の選択肢となるように、認知度を上げることで、すべてのペットに温かいおうちがあるような世界を実現したいと考えています」

その他、同社は社外的にもペットや動物との共生についての啓蒙活動も積極的に展開している。代表的な例として、(一社)マナーニ主催の「こども笑顔のラインプロジェクト」として行われている小学校低学年向けの動物介在教育への協賛や、(公社)日本動物福祉協会主催の「シェルター・メディシン・セミナー」として行われている動物保護活動の場で、多くの場合必要になる動物の「群管理」をする際に必要となるシェルター・メディシンという考え方を、専門の先生より学ぶセミナーへの協賛などがある。

従来は、「ペット休暇」などが一部の社員向けに制度化され、影が薄い状況だったと思われるが、この2社の先進的な取り組みは、まさにSDGsを考慮した「ペットとの共生」を体現するものという印象だ。今後、一般企業にも同様の考え方が広がっていく時代が来るかもしれない。

取材・文/石原亜香利

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