最近では、「キラキラネーム」に関する社会の許容範囲が広くなってきたように思います。しかし依然として、氏名のせいで奇異の目で見られたり、いじめに遭ったりした経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
氏名は生来のもの、自分では変えられないと思いがちですが、実は法律上、自分の判断で指名を変更できることがあります。
もしご自身の名前によって、生活上重大な支障が生じている場合には、改氏・改名の手続きをご検討ください。
今回は、自分の氏名を変更するための要件や手続きをまとめました。
1. 氏(苗字)を変えるには?
氏名の変更に関するルールは、戸籍法によって定められています。
まずは、氏(苗字)を変えるための要件・手続きを見てみましょう。
1-1. 氏を変更できる者は限られている
氏の変更を申し立てられるのは、原則として以下の者に限られます。
・戸籍の筆頭者とその配偶者
・父または母が外国人である者(15歳未満のときは、その法定代理人)
たとえば、日本人の両親が存命している未婚の子どもは、氏の変更を申し立てることができません。
1-2. 氏の変更には「やむを得ない事由」が必要
氏を変更しようとする際には、原則として「やむを得ない事由」が必要です(戸籍法107条1項)。
「やむを得ない事由」とは、氏の変更をしないとその人の社会生活において著しい支障を来すことを意味します。
過去の審判事例に照らすと、以下のような事情がある場合に氏の変更が認められています。
・正確に読むことが難しい
・近親者に同姓同名の人がいるため、混同されやすい
・外国人に間違われやすい
・外国人配偶者のミドルネームを氏に追加したい
・帰化したので日本的な氏に変更したい
・長年用いている通称を正式な氏としたい
など
1-3. 家庭裁判所による氏の変更許可審判
氏(苗字)を変更するには、家庭裁判所に氏の変更許可を申し立てる必要があります。
①申立先
申立人の住所地の家庭裁判所
②費用
収入印紙800円分
連絡用の郵便切手
③必要書類
申立書
申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
氏の変更の理由を証する資料
同一戸籍内にある15歳以上の者の同意書
参考:氏の変更許可|裁判所
1-4. 家庭裁判所の許可を得ずに氏を変更できる場合の例
以下のいずれかに該当する場合には、例外的に家庭裁判所の許可を得ることなく、氏を変更できます。
①配偶者が死亡した後、旧姓に戻す場合(民法751条1項)
②離婚してから3か月以内に旧姓に戻す場合(民法767条2項)
③外国人と結婚してから6か月間経過後、配偶者の氏に変更する場合(戸籍法107条2項)
④②によって氏を変更した者が、離婚・婚姻の取消し・配偶者の死亡の日以降、3か月以内に旧姓に戻す場合(戸籍法107条3項)
2. 名(下の名前)を変えるには?
氏の変更に比べると、名(下の名前)の変更は広く認められています。
2-1. 名を変更できる
氏の変更とは異なり、名の変更許可申立てについては、申立人の範囲に制限がありません。したがって、誰でも名の変更を申し立てることができます。
なお、申立人が15歳未満の場合は法定代理人が代理で申立てを行います。
これに対して15歳以上であれば、未成年であっても単独で名の変更許可申立てが可能です。
2-2. 名の変更には「正当な事由」が必要
名を変更しようとする際には、「正当な事由」が必要です(戸籍法107条1項)。
「正当な事由」とは、名の変更をしないとその人の社会生活において支障を来すことを意味します。氏の変更における「やむを得ない事由」よりは緩やかな要件です。
過去の審判事例に照らすと、以下のような事情がある場合に名の変更が認められています。
・奇妙、珍奇な名である
・正確に読むことが難しい
・近親者に同姓同名の人がいるため、混同されやすい
・異性や外国人に間違われやすい
・長年用いている通称を正式な名としたい
・僧侶になった(僧侶をやめた)ので名を変更したい
・有名な犯罪者と同姓同名である
など
キラキラネームのような独特の名前を変更したい場合、具体的にどのような社会生活上の支障が生じているのかを、家庭裁判所に対して説得的に訴えることがポイントです。
2-3. 家庭裁判所による名の変更許可審判
名(下の名前)を変更するには、家庭裁判所に名の変更許可を申し立てる必要があります。
①申立先
申立人の住所地の家庭裁判所
②費用
収入印紙800円分
連絡用の郵便切手
③必要書類
申立書
申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
氏の変更の理由を証する資料
参考:名の変更許可|裁判所
3. 氏名を変更した後に必要な手続きは?
家庭裁判所の審判によって氏または名の変更が認められた場合、市区町村役場にその旨を届け出る必要があります。
①届出先
届出人の所在地または本籍地の市区町村役場
②届出書類
氏の変更届書or名の変更届書
戸籍全部事項証明書(本籍地の市区町村役場に届出を行う場合は不要)
・家庭裁判所の審判書の謄本、確定証明書
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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