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なぜJR西国分寺駅のホームに医療クリニックがオープンしたのか?

2022.06.07

2022年4月、西国分寺駅のホーム上に対面診察とオンライン診察とのハイブリッドクリニックがオープンした。オープン後、利用者はどのくらいなのか、またどのような診察を受けているのか。また、なぜホーム上にあえてクリニックを開設したのかという新しい試みの背景と共に、課題や今後の展望についてクリニックと東日本旅客鉄道に聞いた。

「あおいクリニック-駅ホーム西国分寺」とは?

外観(画像はすべてJR東日本提供)

今回、西国分寺駅 JR中央線上りホームに登場したクリニックの名前は「あおいクリニック-駅ホーム西国分寺」だ。これは、JR東日本グループが手がける「スマート健康ステーション」の試みのひとつで、「駅を“つながる”くらしのプラットフォームへと転換する」という「Beyond Stations 構想」の一環としてオンライン診療サービスを活用した取り組みとなっている。

このクリニックのコンセプトは「働く人の“くらし”に寄り添うハイブリッドクリニック」で、スペースは約10坪ほどある。

対面診療は、内科疾患全般、総合診療領域で、特に継続治療が必要な生活習慣病に力を入れているという。利用は予約なしでも可能だが、予約は公式サイト上でも受け付けている。

併設されているオンライン診療ブースでは、皮膚科、耳鼻科、婦人科に対応。予約をすると、専門分野の医師とのオンライン診療を受けられる。必要に応じて対面診療の採血検査なども組み合わせる想定だ。

また、本クリニックは、西国分寺駅周辺クリニックとの診診連携(診療所―診療所間の紹介による連携)や、JR東京総合病院などの基幹病院との病診連携(診療所―病院間の紹介による連携)を行うなどして、安定的な診療体制を確保している。

開業の背景

対面診療

なぜホーム上にクリニックを開業したのか。その背景について東日本旅客鉄道の事業創造本部 マネージャーの松尾俊彦氏は次のように述べる。

「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機に、生活スタイルや働き方が大きな変革期を迎えています。医療サービスにおいては、就労時間と診療時間が合わない、待ち時間が長いなどの理由から、受診を諦めてしまうことがあるほか、感染不安からの通院控えによる治療中断、オンライン診療に対する不安感など新たな悩みも生まれています。

生活動線上にリアルとオンラインのハイブリッドという、新たな医療の選択肢を提案し、コロナ禍においても医療サービスへのアクセス性を向上させることで、心豊かな生活を支える医療サービスの実現を目指し、本サービスを開始しました。第一弾としてあおいクリニック-駅ホーム西国分寺を開業しましたが、今後もさらなる開業を検討しています」

あおいクリニック-駅ホーム西国分寺の利用実態

オンライン診療ブース

本クリニックでは、これまでにどれくらいの患者数が来院し、どのような診察を受けているのだろうか。医療法人社団創青会 理事長で医師・医学博士の桑井太郎氏によれば、開業後1か月程度の時点で、対面診療は一日に10名程度、オンライン診療は一日に数名程度だという。オンライン診療は、耳鼻咽喉科と皮膚科の受診者が多いそうだ。

また、受診者の年齢は20歳~60歳が約8割を占めているという。桑井氏によれば、通常のクリニックの受診者と比べると、若い世代の方の割合が高いそうだ。JR中央線や武蔵野線を利用する働く世代を中心に利用されていることがわかるという。

対面診療は内科診療と総合診療だが、どのような診療を行っているのだろうか。桑井氏は次のように述べる。

「内科を診療される方は大きく3つのグループに分けられます。一つ目のグループは、20歳代から40歳代前半の急性期疾患の受診希望者です。例えば風邪や胃腸炎、時には蕁麻疹(じんましん)や膀胱炎(ぼうこうえん)などの疾患を訴えて来院されます。若い働く世代が中心になります。

二つ目のグループは、30歳代から50歳代の疲労回復や美容的サポートを中心とした自費注射の希望者です。電車移動の隙間時間を活用して、ニンニク注射やプラセンタ注射を希望されている働く世代の方々が来院されます。

三つ目のグループは慢性疾患を持つ受診希望者です。このグループの方々は40歳代前半から60歳代の患者さんです。高血圧や糖尿病、コレステロールなどの生活習慣病を持つ方々が多く、継続的な内服治療が必要となります。しかし仕事が忙しく受診に難しさを感じておられることも多い年齢でもあります。この点、当院は平日の朝8時から夜21時まで、また土日祝日も診察をしていますので、出勤前や帰宅時、またお休みのときに受診をされることにより、治療継続を希望されている方々が来院されやすいのでしょう。

また若い方々でも喘息(ぜんそく)や片頭痛といった慢性疾患で、定期的な受診のために来院されます。こうした疾患の方々も、仕事で時間がなく平日は受診に間に合わない、もしくは処方箋をもらうことができないために、治療中断しやすい状況を改善するために来院されたという方が多いようです」

利便性の高さに好評 患者の声

利用した患者からは、どのような声が挙がっているのだろうか。

Googleに寄せられたクチコミでは

「仕事帰りに予約なしで行ってみましたが、すぐに診てもらえて助かりました」

「会社帰りの遅い時間でも、狭心症の薬の処方をしてもらえるので便利です」

「駅のホームにクリニックができたと聞いてびっくりしましたが、目の前で電車に乗れるのでめちゃくちゃラク。平日夜や土日もやっているとのこと、救急ではなく普通の内科に365日診てもらえるなんて、便利な時代だなと思いました。困ったらまた行こうと思います」

「女性の先生でとても親切に診ていただきました。こういう場所があるのは本当にありがたいし、かかりつけとしても利用したいので、どんどん増えていってほしいと思います」

など、好評の声が投稿されている。

また、来院した際にスタッフに対しても、「時間がない人には非常に助かる」、「朝に採血をして帰宅するときに結果が出ていて処方を受けられるのは新しい体験であった」等の声が寄せられているそうだ。

駅のホーム上のハイブリッドクリニックであることの課題

ホーム上にあることや、ハイブリッド型というところから、通常の病院と比べてどんな課題があるのだろうか。桑井氏はそれぞれについて次のことを挙げる。

1.ホーム上であることの課題

「大きな開院スペースを確保することが難しいために、コンパクトで機能的な設計を行う必要があります。また生体検査である心電図や超音波といった機器を用意するためには、なるべくデジタル化、スマート化を検討し、省スペースでも機能的に使用できる機器を用意することが必要です。例えば心電図や超音波をタブレット端末で使用できるものにすることで、機能的ではあるものの場所を取らない工夫をしています」

2.ハイブリッド型であることの課題

「対面診療と同時にオンライン診療が行われますので、その中でオンライン診療を行う医師のスケジュール調整や確認を滞りなく行うこと、また来院されたオンライン診療希望患者さんの予約時間に、お待たせすることなくスムーズに診察につなげるなどの調整業務には細心の配慮を行う必要があります」

今後の展望

東日本旅客鉄道によれば、今後は、地方にもスマート健康ステーションを拡大することにより、都心の先進医療を日本各地へ提供するなど、日本各地と都心の医療格差の課題に取り組んでいくという。

東日本旅客鉄道の松尾氏は、今後の展望について「医療格差の課題に取り組むべく、都心でも、日本各地でも展開を検討してまいります。そして都心と日本各地の医療格差という社会課題に取り組み、患者さまや医師の空間を越えたあたらしい“くらし”の実現を目指します」と述べた。

ビジネスパーソンにとっては通勤途中に気軽に利用できる点や、オンライン診療が受けられる点など利便性が高い。まだ次の駅開業の予定は決まっていないというが、今回のあおいクリニック-駅ホーム西国分寺の成果によって、課題を解決しつつ、有効な方法で展開されていくのを期待したい。

【参考】
あおいクリニック-駅ホーム西国分寺

画像提供:JR東日本

取材・文/石原亜香利

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