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問い合わせが殺到する北海道・厚沢部町の「保育園留学」は地方活性化のヒントになるか?

2022.06.03

自然豊かな厚沢部町。天然の鮎やヤマメ、イワナなどが生息できる清流がある。

北海道の函館から車で1時間ほどの場所に位置する厚沢部町という街がある。読み方は「あっさぶちょう」。じゃがいもで有名な「メークイン」発祥の地で、豊かな自然と湧き水に恵まれている。だが町の人口はおよそ3600人で、20年前と比較すると約70%が減少した。このまま過疎が進むと20年後には2000人を切るといわれている。

そんな厚沢部町が今年に入って、都市部の子育て世代から大きな注目を集めているのだ。

保育園留学スタートから1か月で申込数は100件超えに

認定こども園「はぜる」の園舎と園庭 ©︎Ikuya Sasaki

きっかけとなったのは、2021年より厚沢部町の認定こども園「はぜる」でスタートした「保育園留学」。家族で厚沢部町に暮らし、子どもを「はぜる」に留学させる制度で、期間はおよそ1週間から3週間。その間、自然豊かな地で子どもをのびのびと育てることができる一方、保護者向けにはワーケーションという形で仕事ができる環境が整えられているのだ。

園から車で5分の場所には、暮らしとワーケーションに必要な設備を一通りそろえたワーケーション施設「ちょっと暮らし住宅」がある。

現在、保育園留学がスタートしてから半年が経過したが、留学への問い合わせは累計350件、申し込み数は100を超えたという。

「現状、向こう1年間の受け入れ枠がほぼ埋まっており、キャンセル待ちが多数いる状態となっています。今もSNSなど口コミで見つけてくださり、お問い合わせの数が増え続けている状態です」

申し込み状況についてこう語るのは、厚沢部町とともに保育園留学の事業を推進する株式会社キッチハイクのプロジェクトマネジャーの青木春隆さんだ。

申し込みは自然に触れ合う機会が少ない東京をはじめとする都市部が多く、親世代は30代から40代で、教育感度と情報感度の高い人が中心だそう。また長期的な移住は難しくても1~3週間という期間であれば、会社からテレワークによる就労の許可が下りるケースも多いという。

園舎は「子どもを通わせたい認定こども園」モデル園に認定された

なぜこれほどまでに厚沢部町の保育園留学が人気なのか?やはり自然豊かな地で子どもを伸び伸びと育てる体験がしたい、そんな教育留学的な理由は大きいだろう。とはいえ自然豊かな場所な場所の保育園であれば、どこも同じように成功するとは限らない。なぜなら、留学先となる「はぜる」は、園としても素晴らしい施設が整っているからだ。

吹き抜けで解放感がある遊戯室。©︎Ikuya Sasaki

「はぜる」は築50年を迎えた3つの保育所を統合する形で2019年に設立。若年層の人口流出が深刻な問題となっている厚沢部町で「子育て世代の人が移住・定住したくなるように」という町民たちの想いをこめて設計がなされている園舎は、ミキハウス子育て総研が主催する『子どもを通わせたい認定こども園』のモデル園にも認定されている。園舎の写真をみると「こんな過疎地域にこんな園舎があるとは……」と、驚く人も多いだろう。園庭は厚沢部町の公園の芝生や築山をそのまま活用しており、子どもがゴロンと寝転がっても気持ちよく過ごすことができる。

園庭内には野菜を育てている畑もある。

保育園留学の事業パートナーである株式会社キッチハイクが厚沢部町での保育園留学事業を推進しようと思ったきっかけも、やはりこの素晴らしい園舎によるものだった。

キッチハイクは「地域と人生をつなぐ、食と暮らしの発明・実装カンパニー」として、地域価値拡充の事業を展開している。その事業の一つである「ふるさと食体験」で2020年の冬に厚沢部町の特産品・メークインを広めるオンラインイベントを開催。そのときに代表・山本雅也さんがふと、「厚沢部町の保育園はどんな感じなのかな?」と、ホームページを調べてみた。すると目に飛び込んできたのが「はぜる」の素晴らしい園舎だったのだ。

「はぜるの情報を目にしてすぐ『ここに娘を預けたい!』と思ったそうです。その時はちょうど夏季休暇で通っていた保育園が休園になるタイミングだっそうで、山本はすぐ厚沢部町役場に『託児をお願いできないか』と問い合わせました。そして実際に預けてみたら、子どもにとっても家族にとっても素晴らしい経験ができたこと。それから厚沢部町の方々もぜひこの形を広げたいと仰ってくださったことが重なり、保育園留学というプロジェクトがはじまったのです」(青木さん)

この時、代表の山本さんの問い合わせに対応し、保育園留学の手順を整えたのが、厚沢部町役場の政策推進課に所属する木口孝志さん。木口さんはもともと「はぜる」の立ち上げに尽力した当事者で、子育て世代を活性化することに人一倍強い想いを持っていた。山本さんと木口さんの出会いも、保育園留学では重要だったに違いない。

年間100名の保育園留学があれば、経済効果は年間1000万円近くになる

厚沢部町には豊かな自然はあるが、道外から足を運ぶような観光地ではない。だが保育園留学によって年間100人の子どもを受け入れることができれば、その家族を含めるとおよそ300名が地域外から厚沢部町に訪れることになる。この数は町の全3600人口の8〜9%に相当し、経済効果は年間1000万円近くが見込まれるという。

保育園留学が増えることで利用児童も増えることになり、結果として保育士の雇用維持にもつながると期待される。

「厚沢部町では保育園留学を通じて目指すこととして、必ずしも町へ移住してくれる人が増えるのがゴールとは捉えていません。これをきっかけに家族で旅行に来てくれたり、厚沢部町のメークインに興味を持ってお取り寄せしてくれたり、そういったことがまずはゴールだと考えています。そのゴールを積み重ねることで、将来的に移住を考えてくれる人が出るかもしれない。今、そんな希望が見えているところです」(青木さん)

現在、キッチハイクでは厚沢部町の経験を活かし、2022年度中に関西や九州などの5か所での保育園留学を推進している。ちなみに現在、日本全国で空きがある保育園枠は約26万。長らく都市部では保育園の待機児童が問題となっているが、現状その数は3万から4万にとどまっているという。日本全体でいえば、保育園は圧倒的に余っている状態なのだ。

この保育園留学が今後広まってくれれば地域活性化はもちろん、保育園の定員割れ問題も解決できるキッカケになるのではないか?

厚沢部町の試みは、そんな明るい未来を感じさせてくれる。

認定こども園「はぜる」保育園留学
保育園留学お問い合わせフォーム

取材・文/高山 惠

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