裁判では、文書や物品などに加えて、写真や動画を証拠として提出することもできます。
しかし、写真や動画は盗撮されるなど、撮影方法に問題があるケースも多いです。また近年では、加工技術が進歩したことに伴い、必ずしも事実を写し取ったものではない可能性があります。
このような事情を踏まえたうえで、写真や動画は裁判の証拠として、どのように判断されるのでしょうか?
また、相手方が証拠提出した写真や動画が加工・改ざんされていると思った場合、どのようにそれを証明すればよいのでしょうか?
今回は、裁判における写真や動画の証拠利用について、違法収集証拠や加工・改ざんの問題を中心にまとめました。
1. 盗撮した写真や動画には、証拠能力が認められるのか?
裁判の証拠として有力であったとしても、写真や動画を盗撮することは、対象者のプライバシー権等を侵害する行為になり得ます。
そのため、盗撮された写真・動画は「違法収集証拠」として、裁判における証拠能力を否定される可能性があるので注意が必要です。
1-1. 違法収集証拠排除法則とは
違法収集証拠排除法則とは、違法な方法によって収集された証拠を、裁判における事実認定の際に考慮しないという法則です。
元来は刑事裁判における法則で、適正手続き・司法の廉潔性・将来の違法捜査の抑止が主な根拠とされています。
しかし、近年では刑事裁判に限らず、民事裁判でも違法収集証拠の排除を認める裁判例が登場しました。
1-2. 刑事裁判における違法収集証拠の排除基準
刑事事件については、最高裁は昭和53年9月7日に、初めて違法収集証拠排除法則に関する規範を示しました。
同最高裁判例では、証拠物の押収等の手続きが以下の要件をいずれも満たす場合、証拠物の証拠能力が否定されると判示しています。
①令状主義の精神を没却するような重大な違法があること
②証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められること
たとえば、警察が無令状で被疑者の自宅に盗撮カメラを仕掛け、自宅内での被疑者の様子を動画撮影したとします。
このような方法による動画撮影は、捜索を行う際には令状を要求する、刑事訴訟法218条1項の精神を没却するものです。
さらに、自宅内に侵入して盗撮カメラを仕掛けるという、プライバシー権侵害が甚だしい行為であり、将来にわたって抑制すべき違法な捜査と言えます。
したがって、上記の方法により撮影された動画は、刑事裁判における証拠能力が否定される可能性が高いでしょう。
1-3. 民事裁判における違法収集証拠の排除基準
民事裁判では、刑事裁判と異なり、違法収集証拠であっても一律に証拠能力が否定されるわけではありません。
ただし民事裁判でも、録音データを証拠採用することが訴訟上の信義則(民事訴訟法第2条)に反する場合、当該録音データの証拠能力を否定すると判示した例があります(東京高裁平成28年5月19日判決)。
同裁判例は、証拠排除の要否を判断する際の考慮要素として、以下の各点を挙げました。
・証拠の収集の方法、態様
・違法な証拠収集によって侵害される権利利益の要保護性
・訴訟における証拠としての重要性
など
写真や動画についても同様に、対象者に無断で撮影した場合は、上記の各要素を考慮したうえで、民事裁判における証拠能力が否定される可能性があるので注意が必要です。
2. 写真や動画が加工・改ざんされている場合、裁判の証拠になるのか?
近年では、「ディープフェイク(Deepfake)」と呼ばれる写真・動画の加工技術が急速に発達しました。
ディープフェイクなどの加工技術を用いると、写真・動画に投影された内容を、ほとんど違和感なく改ざんすることもできてしまいます。もし加工・改ざんされた写真や動画が、裁判における証拠として提出された場合、どのように取り扱われるのでしょうか。
2-1. 証拠価値は裁判官が総合的に判断する
大前提として、裁判で提出された証拠の取扱いは、裁判所が自由な心証・裁量によって判断するものです。
写真・動画の加工についても、一切認められないわけではなく、加工の目的や内容を考慮したうえで、裁判所が証拠価値を認めるかどうか判断します。
たとえば、プライバシー確保を目的としたモザイク処理などは、証拠価値との関係で比較的問題になりにくいと思われます。
その一方で、事実を捻じ曲げるような加工・改ざんが行われれば、証拠価値が否定される可能性が高いでしょう。
2-2. 写真や動画の加工・改ざんを明らかにする方法は?
裁判の相手方が提出した写真や動画について、何らかの加工・改ざんが疑われる場合、裁判所にその旨を主張して証拠排除を求めましょう。
肉眼では加工・改ざんが分かりにくい場合には、専門業者や大学教授などに画像データの分析を依頼することが一つの対処法です。
意見書や証人尋問を通じて、写真や動画が加工・改ざんされていることを専門的な視点から説明すれば、裁判所の理解を得られる可能性が高まります。
特に、問題となっている写真や動画が、裁判の結果を左右する決定的な証拠になり得る場合は、費用をかけてでも画像データの分析等の依頼を検討すべきでしょう。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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