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【深層心理の謎】サングラスをかけると視線が正直になってしまうのはなぜ?

2022.06.03

 まだ駅前といっていい距離の界隈だが、歩いていると辺りの暗さは一段階、いや二段階ほど増してきた。向こうからやってくる若い女性のやや奇抜な服装に思わず目を奪われる。ワンピースのお腹の部分が切り抜いたかのように空いていて、素肌が露出しているのだ。

暗がりの中で奇抜なファッションの女性とすれ違う

 某所での用件を終えて帰路に乗ったJR埼京線を池袋で降りた。広い地下構内を歩いて地上にあがるエスカレーターに乗って駅西口に出る。もう夜9時になろうとしていた。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 西口を出て左に進む。コロナ前はもう少し街が明るかったと思うが気のせいなのだろうか。駅の出入口から漏れ出る煌々とした照明から少し離れると、辺りは急に暗くなる。都市銀行が入ったオフィスビルの明かりがすでに消えているせいもある。

 ともあれこの時間でも「ちょっと一杯」を念頭に置いて街を歩けるようになったのは喜ばしい限りだ。2年越しに味わう“自由”がとにかく新鮮である。それでも街の人出はコロナ前の平日の夜に比べれば7、8割といったところだろうか。そして若干ではあるが街が暗くなっているように感じる。

 街が暗いのはやはりこの時間まで営業している店の絶対数が少なくなっているからなのだろう。飲食店ばかりでなく、各種の店舗やオフィスもコロナ前よりも営業時間を短縮しているところが少なくなさそうだ。

 東武デパート沿いに進むと、頭上高くに高架の連絡通路が渡っている。オフィスビル側のほうにはデパートの店舗はないので、関係者用の通路なのだろう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 少し暗くなった界隈を歩いていると、前から1人の若い女性がこちらに向かって歩いてきた。長い髪を揺らしながら歩くスリムな体型の女性は、ひざ丈ほどのベージュのワンピースを着ていて足元はヒールで固めている。お洒落な身なりなのだが少しばかり目を疑った。女性が着ているワンピースはなかなか奇抜なデザインで、お腹の部分が開いていて素肌が見えているのだ。

 女性とすれ違うまでの少しの間、不躾ながらも好奇の目で眺めてしまっていたことは否定できない。ともあれ紛うことなく美しい女性である。

 完全にすれ違って視界から女性の姿が消えるとある意味でホッとした。気を取り直して歩く。

サングラスをかけると視線が“正直”になる?

 周囲はさらに暗くなってくる。それでもこの界隈には数軒、前にも入ったことのある居酒屋がある。そのどれかに入ってみるつもりだ。

 ……もし今が日中であったなら、すれ違うまでの間女性を眺めてしまうことはなかっただろう。明るい場所ではその不躾さもひとしおであるだろうし、その女性はもちろん、周囲の通行人からも自分の視線の行き着く先が丸わかりである。思わず我を忘れて見惚れてしまうというイノセントな行為自体に罪はないともいえるのだが、後から振り返って自分を客観視してみればかなり恥ずかしいことで、自己嫌悪すら抱きかねない。

 やはり暗がりは、我々をより正直な存在に変えるのだろうか。最新の研究では、暗がりやサングラスなどによって自分の視線の動きが隠蔽されることで、我々の視線はより欲望に忠実になることが報告されていて興味深い。


 目はコミュニケーションができるものです。しかし目がカモフラージュされるとどうなりますか?

 本研究ではサングラス(目のカモフラージュ)または透明な眼鏡をかけている間、参加者は性的に挑発的な画像と中立的な画像を提示され、彼らは自分の目を観察していることを知っている別の人の前で画像を見ました。

 しかし参加者には知らせずに、私たちは双方の設定で彼らの視線を密かに監視して記録しました。

 サングラスで目をカモフラージュすると、人々は自発的に性的に挑発的な画像をますます長く見ました。

 この発見は、ひそかな注意が公然たる社会的注意に役立っているという提案の収束した証拠を提供し、公然たる注意とひそかな注意の分離が以前に想定されていたよりもはるかに普及していることを示唆しています。

※「ScienceDirect」より引用


 カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の研究チームが2022年4月に「Cognition」で発表した研究では、実験を通じてサングラスをかけていると、人々は性的に露骨な視線になりやすくなることを報告している。つまり他者が自分の視線を追跡できないと思った時に、性的に挑発的な画像を大胆に長く眺めていたのである。

 56人の学生が参加した実験では、パソコンが置かれた部屋の中で参加者はサングラスかあるいは透明なレンズの伊達メガネを着用し、パソコンのスクリーンの前に座り、研究チーム側の1名がその後ろに座って参加者の様子を見守っていた。つまり参加者は「他人の目」を意識する状況にあったのである。しかしサングラスをかけた時はおそらく「他人の目」はあまり意識されなくなるだろう。

 スクリーンに表示されたのはランウェイを歩くファッションモデルたちの画像であったのだが、その服装は秋冬物もあれば水着のように肌の露出が多いものもあった。

 参加者には知らせていなかったのだが、実はアイトラッキング技術を駆使して画像を見る参加者の視線の動きが詳しくモニターされ記録された。つまりサングラスをかけた時でもその視線の動きは丸わかりであったのだ。

 こうして収集したデータを分析したところ、参加者はサングラスをかけた時に性的に挑発的な画像を自発的により長く見ていた顕著な傾向が浮き彫りになったのだ。

 たとえばポルノグラフィなどの性的にあかさまな画像や映像などは部屋で1人でいる時に眺めるケースが断然に多いと思われるが、もしその同じ画像や映像を他者と一緒に見た場合、1人で眺めている時とはまったく異なる気分になるだろう。裏を返せば我々は自分の視線が向かう先にきわめて自覚的なのだ。自分が何を見ているのか、そしてそれが他者にどのように思われるのかについて「非常に敏感」であることが示唆されるのである。

 暗がりの中であったからこそ、さっきの女性に暫し目を奪われてしまったのだが、もし明るい日中に出くわしていればあのような“好奇な視線”で眺めることはなかったはずだと言えるのも、こうしたメカニズムが働くからであるようだ。自分が何に注目しているのか、我々は基本的にあまり周囲には知られたくないのである。

久しぶりのキビナゴを堪能しながら2品目を検討する

 暗さがさらに増した通りを歩く。右折して池袋西口公園に抜ける路地に入る。この界隈にも老舗の飲食店がいくつかある。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 路地はさらに暗い。それもそのはずで閉めている店が大半なのだ。一気に選択肢が狭まってしまったので、入る店は1つしかないと思えて素直にそこへ向かう。路地にある老舗の大衆酒場の引き戸を空けた。数年前にこの店によく来ていた時期はあったのだが久しくご無沙汰である。

 店内は以前とまったく変わっておらず、1階はカウンターだけのレイアウトで、1人客ならまずここで飲むことになる。お店の人に好きなところに着くようにいわれて入口からやや中ほどの席に陣取る。ほどよいお客の入りで、もちろん大半は常連さんなのだろう。

 ここで頼むお酒は決まっている。白ホッピーのセットだ。ジョッキと共に瓶のホッピーと瓶詰の焼酎が提供され、1人客でもアイスペールに入った氷を用意してくれる。自分の好きな割り方でホッピーが飲めるのだ。店内の壁のホワイトボードに記されていた本日のおすすめの中からひとまず「刺身4点盛り」を注文する。

 それにしても相変わらずメニューの品数が多く、店内の壁の上のほうはほとんどメニューの短冊で埋め尽くされている。それも自分の正面と背後では異なるメニューが並んでいて目移りすること必至だ。2品目に何を頼むかゆっくりと眺めながら検討することにしよう。

 ホッピーセットに続き刺身もやってきた。キビナゴは久しぶりだ。今が旬なのだろうか。さっそくいただこう。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 キビナゴについて一家言があるはずもないが、普段口にしないものを食べられるのは嬉しい限りだ。かつて鹿児島に行った時に天文館にある店で食べたキビナゴを思い出す。その店は最初に入った居酒屋で教えてもらったのだ。

 醤油とワサビでキビナゴを食べることに何の問題もないが、やはり鹿児島で食べたように酢味噌で食べたかったのは否定できそうもない。しかし歯応えがあってじゅうぶんに美味しくて満足だ。

 さて2品目はどうしようか。焼魚は最初に頼むべきものなので除外することにする。もちろん注文するのは自由だが、それなりに時間がかかることを覚悟しなければならない。

 もつ煮込みもいいし、天ぷらや揚げ物もいい。呑兵衛が好きな煮凝りなどもあるし、湯豆腐や一人前の鍋もある。豚肉の生姜焼きや野菜炒めもいい。キョロキョロしながら短冊を見ていると余計に迷ってしまう。

 ……店内の短冊はいくらジロジロ眺めたって何の問題もないだろう。ゆっくりグラスを傾けながら、気が済むまで見回してじっくり検討することにしようか。こうした時間もまた酒の肴ということになるのかもしれない。

文/仲田しんじ

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