近年、進化系豆腐製品がぞくぞく登場している。中でも最近話題なのが、まるでサラダチキンのように食べられるスティック状の豆腐バーや、まるでウニのような見た目と味わいの豆腐だ。果たして今、豆腐市場は今、どのように進化しているのか、開発秘話とともに見ていこう。
新たな豆腐市場を確立 アサヒコ「豆腐バー」
左から「セブンプレミアム 豆腐バー柚子胡椒風味」138円(税込)、「セブンプレミアム 豆腐バー和風だし」138円(税込)、「セブンプレミアム 枝豆とひじきの豆腐バー」170円(税込)
2020年11月にセブン-イレブンで発売開始された豆腐メーカーアサヒコによる「豆腐バー」は、発売から約10週間で120万本を超える売り上げを記録。また発売から約1年で1,000万本を売り上げた。
コンビニで定番のサラダチキンのように、豆腐でありながら片手で手軽に食べられる。食感はもっちりとある程度のかたさがあり噛みごたえがある。1本68gにはたんぱく質が10g含まれており、これは一般的な絹ごし豆腐の約2.7倍のたんぱく質量となる。(日本食品標準成分表2020年版(八訂)との比較)
セブン-イレブンはこのヒットを受け、プライベートブランドのセブンプレミアムの商品として2022年2月より販売を開始した。
●開発背景
豆腐バーの開発背景について、株式会社アサヒコ プラントフォワード事業部部長兼マーケティング室室長の池田未央氏に話を聞いた。
――「豆腐バー」は、市場のどのようなニーズに応えたものですか?
「豆腐市場は、ユーザーの高齢化とメニューのマンネリ化により、年々縮小が続いていました。一方、健康志向を背景に、たんぱく質の消費者ニーズは拡大をしていました。そこで、豆腐を『植物性のたんぱく源』と定義し直すことで、健康意識の高い方や普段はあまり豆腐を食べない若者に提案できるのではないかと考えました」
――「豆腐バー」の開発秘話を教えてください。
「発想のきっかけは、アメリカのスーパーで見かけたTOFUです。名前こそ同じ“トーフ”ですが、中身は日本のやわらかい豆腐とはまったく違い、とてもかたく、焼いてステーキにしたり、揚げてナゲットのように食べられていました。彼らにとってTOFUは肉や魚の替わりになる重要な植物性のたんぱく源だったのです。日本では地味な存在の豆腐が海の向こうではイケてる食べ物として重宝されている姿に衝撃を受けました。
早速、同じように硬い豆腐の開発に着手しましたが、当初はどうやってやわらかい豆腐を硬くすればよいか、試行錯誤の連続でした。豆乳の濃度や“にがり”の加え方を研究し、約2年の月日をかけて、お肉のように弾力があって、一般的な絹豆腐の約2.7倍のたんぱく質を含む高たんぱく質の『豆腐バー』が誕生しました」
――セブン-イレブンを提案先に選んだのはなぜですか?
「セブン-イレブンはサラダチキンを世に広めた、たんぱく質ブームの火付け役です。当時、セブン-イレブンさんが次の展開として、お客様にたんぱく質の選択肢を増やしたいと考えられていたタイミングに、ちょうどアサヒコが豆腐バーの試作品を持ち込んだことがきっかけとなり、2019年の冬に取り組みがスタートしました。より具体的なターゲットや消費シーンのインプットをいただき、そこから一年をかけて、いつでもどこでも手軽に1本で10gの植物性たんぱく質が摂取できる製品に仕上がりました」
――どのようなユーザーに受け入れらましたか?
「発売後は、若い方や忙しいビジネスパーソンが“ながら食べ”をしたり、運動時のたんぱく質補給に召し上がっていただけました。既存の豆腐ユーザーとは異なる新たなユーザーと食シーンを生み出すことができ、発売から約一年で累計出荷数が1,000万本を超えるヒットにつながりました」
●新フレーバー「旨み昆布」「バジルソルト風味」が6月に発売
――今後、豆腐バーはどのような展開を予定していますか?
「今後も健康志向を背景に、たんぱく質のニーズは高まると考えています。アサヒコは今年で創業50年を迎える老舗豆腐屋ですので、これまで培った大豆加工や豆腐製造技術を生かし、『たんぱく質ダイバーシティ(多様性)』を実現する革新的な商品の開発に今後も注力していきます。
豆腐バーでは動物性原料を含まない新商品2品『旨み昆布』『バジルソルト風味』を2022年6月1日に全国のスーパーやコンビニエンスストアで発売します。さらに、季節に合わせたフレーバー展開や具材を加えて食感が楽しめる商品の準備も進めています。ぜひお楽しみに」
豆腐バーは、日本の豆腐市場に新たな一石を投じることとなった。若者世代の豆腐への関心が高まり、他社も含めて、新たな豆腐商品が生まれていくかもしれない。
豆腐の新たな可能性を発掘 相模屋「うにのようなビヨンドとうふ」
豆腐メーカー相模屋食料の「BEYOND TOFU(ビヨンドとうふ)」は、低脂肪豆乳と発酵による豆腐だ。まるでチーズのような食感と質感を実現し、濃厚でコクがありながら、癖のないやわらかな甘みの後味がある新しい豆腐だ。プレミアム豆乳「低脂肪 豆乳」を使用し、発酵の技術を取り入れてつくられている。
BEYOND TOFUブロックタイプ/シュレッドのほか、やわらかなクリームチーズのような「BEYOND TOFU ナチュラル」やラテ風に仕上げたドリンクタイプの「BEYOND TOFU latte」などBEYOND TOFUシリーズとして様々なタイプが展開されている。
そのBEYOND TOFUシリーズに、2022年3月9日、新しく加わったのが、まるでウニのような香りと味わいを実現している「うにのようなビヨンドとうふ」だ。BEYOND TOFUシリーズならではの濃厚でクリーミーなコクのある味わいに、ウニのような潮の香と旨みが加わり、見た目もウニらしい雰囲気を感じさせる。
●開発背景
この商品の開発背景について、代表取締役社長の鳥越淳司氏に話を聞いた。
――「うにのようなビヨンドとうふ」の開発背景を教えてください。
「Plant Based Foodとしての豆腐の魅力を伝え広めるBEYOND TOFUシリーズの新たな挑戦としてつくりました。相模屋では、植物性たんぱく質の代表格『大豆』でつくる最も身近な食品『豆腐』のメーカーとして、2014年からPlant Based Foodとしての豆腐の魅力を伝え広める商品づくりに取り組んできました。『植物性=ヘルシーだけどおいしくない』という従来のイメージを払しょくするため、“おいしさ”にこだわり、おいしさと植物性由来のヘルシーさの両立を実現したのがBEYOND TOFUシリーズです。
このシリーズでは『おいしさ』を軸に、今までの豆腐にない、新しい食感や味わい・食シーン・食スタイル・食べ方など、新しい価値観のおとうふをつくり出してきており、その中でさらなるおいしさとしてウニに注目。『おとうふでウニをつくりたい!』と考え、生まれたおとうふが『うにのようなビヨンドとうふ』です」
――なぜウニを模倣に選んだのですか?
「従来、おとうふは『何にでも合う、シンプルな味』が特徴で、くせになるような味はありませんでした。そこで『何度でも食べたくなる、くせになる味』を目指し、くせになる味を考えたところ、日本人にとっては、なじみの深い魚介の味にたどり着きました。中でも濃厚でクリーミーな甘みと潮の香りから、『もっと食べたい』『また食べたい』と日本人を特に惹きつける存在であるウニに着目。何度でも食べたくなる、くせになる味こそが、ウニらしい味わいではないかと考え、ウニの潮の香りあふれる濃厚でクリーミーなコクのある味わいを、おとうふで実現することを目指しました。
もともと、『おとうふ×魚介の旨みであるお出汁の味』の組み合わせは、大人気商品『ひとり鍋シリーズ』を筆頭に相模屋が得意としているものです。また、BEYOND TOFUシリーズで培ったプレミアム豆乳『豆乳クリーム』の魅力を最大限引き出す技とノウハウは、濃厚でコクのある味わいやクリーミーな食感を可能にしており、そうした技とノウハウも、うにのようなビヨンドとうふの開発を後押ししています」
――開発の際に苦労した部分はありますか?
「苦労したのは『お客様が求めるウニの味』の実現です。本物のウニに近づけると、磯の香りが強すぎて磯くさく、食感も気持ちよいものではないことから、お客様が求めているのは本物のウニよりも、ウニらしいイメージなのではと気づきました。しかし、『お客様が求めるウニの味とは何か?』の答えを見出すことはむずかしく、たどり着くのに苦労しました。ウニらしい味を出すため、豆乳と出汁を合わせていますが、どちらかが主張してもダメで、バランスがむずかしく、試作・試食を繰り返して調整を行っています。ウニらしく『また食べたくなる、くせになる味』に仕立てていますが、『くせになる味』が実はむずかしく、味が強すぎても弱すぎてもくせになる味にはならず、ひたすら試作・試食、調整を繰り返し、実現しました」
アレンジ料理「うにのようなビヨンドとうふの冷製うにクリームパスタ」
●今後の展開
――今後はどのような展開を予定していますか?
「いくらのようなおとうふを予定しております。完成したら、うにのようなビヨンドとうふと、いくらのようなおとうふを組み合わせて、ウニ・イクラ丼をおとうふで作ってみたいです」
人が食べたいウニの味わいを追求したという、うにのようなビヨンドとうふ。食べ方は、そのままわさびと少しの醤油をつけるのがおすすめだそうだ。さらに、調味料としてパスタやグラタンなどにアレンジとしても使えるそうだ。
豆腐なのに豆腐らしからぬ新しさは、まさに進化系豆腐といえそうだ。いくらのような豆腐が生まれるのも楽しみにしたい。
進化系豆腐を2つ紹介した。どちらも豆腐市場に新たな風を吹かせたことは間違いない。店頭やネット上で見かけたら、ぜひ一度試食してみては?
取材・文/石原亜香利