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メディアは理解していない?芸能人の自殺報道を控えるべき本当の理由

2022.05.28

犯罪学教室のかなえ先生と申します。VTuberとして、事件や社会問題を解説するチャンネルを運営しています。

まず、はじめに。本記事では、ショッキングな死や自殺に関する話題を取り扱います。

人間とは不思議なもので、憂鬱な気分に犯された状態にもかかわらず、自ら悲しい情報に目を通してさらに憂鬱な気分を加速させてしまうことがあるのです(Doomscrolling:ドゥームスクローリング現象)。

以上を踏まえた上で、記事を閲覧する際には気分の変調等にご注意くださいませ。

再燃したメディアの「自殺報道の問題」

5月11日、ダチョウ倶楽部の上島竜兵さんが逝去されました。

体当たりな芸風と明るいコミカルなキャラクターで、いつもお茶の間に笑いを届けてくれていた上島さんの突然の死に、多くの人がショックを受けたことでしょう。熱心なファンというわけではなかった私でも、しばらく「本当に?」「ドッキリ?」と現実を疑うほどでしたので、ファンの人の喪失感は筆舌しがたいものに違いありません。

しかし、今回お話ししたい内容は、上島さんの死についてではありません。

上島さんの死をはじめ、直近の著名人の方の自殺報道(死因を自殺として報道すること)において、厚生労働省が各報道機関に要請していたWHO(世界保健機構)の自殺報道ガイドラインに沿った報道がなされなかったことについてです。具体的には、故人の自宅前で中継を行うこと、自殺の手段について明確に表現することなどがガイドラインに反した報道です。

上島さんの死をきっかけに再び報道のあり方や自殺報道ガイドラインについて関心が高まっていますが、今回はどうして『自殺報道ガイドライン』が必要なのか、自殺報道と自殺の関係性について話そうと思います。

著名人の死と自殺報道の問題

2022年5月11日、厚生労働省が2つの文書が発表しました。

『著名人の自殺に関する報道にあたってのお願い』

『自殺に関する報道にあたっての再度のお願い』

上の文書は、俳優さんなど社会的に影響力の持つ著名人が自殺と思われる死因で亡くなられた際に、早急に厚生労働省から各報道機関に送付される文書です。

この文書は厚生労働省HPにも公開されています。

しかし、下の文書は今回の一連の報道後に初めて公開された文書で、冒頭には『再度の注意喚起』と赤文字が打たれており、さらにそれに続く形で『5月11日に逝去された著名人の報道に関して『自殺報道ガイドライン』に反する報道・放送が散見されることを踏まえ、再度、自殺報道に関する注意喚起をさせていただきます』と記されていました。

文書の中身においても、具体的な報道の仕方や表現方法について控えるように明言しており、私自身、厚生労働省がここまで強い表現を用いて、報道機関に対して苦言を呈する場面を見たことがありません。

(厚生労働省 自殺に関する報道にあたっての話題『自殺に関する報道にあたっての再度のお願い』より引用)

しかし、ここまで厚生労働省が強く報道機関に対して『自殺報道ガイドライン』に沿った報道を要請するのには、センセーショナルな自殺報道が悩みや、病気、生活上の問題を抱えている人や、元々希死念慮を抱えている人など、いわゆる「苦しみの中でどうにか生きることに留まっている人たち」に対して、耐えがたい苦痛や解決の見通しが立たない悩みから解放される手段として、『自殺が有効である』と暗に自殺の後押しをしてしまうことがあるからです。

つまり、自殺リスクの高い人による模倣自殺の増加のリスクや、亡くなった方と自身の境遇を重ねてしまうことで、急激に自殺のリスクが高まってしまうのです。

例えば、2020年の7月18日、9月27日に著名な俳優さんが相次いで逝去されました。その後自殺者の日次データを分析した結果、7月19日と9月28日から10日程度の期間に、自殺者数が急増していることも明らかとなっています。

さて、ここからは、具体的な自殺報道の影響と効果について紹介しようと思います。

自殺報道ガイドラインと自殺報道の影響

まず簡単に、WHOが世界中の報道機関に向けて作成したガイドラインの1つである『自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識』(2017年版)より、メディア関係者が自殺に関係する報道を行う際の「やってはいけないこと」と「やるべきこと」を、それぞれ紹介しようと思います。

*やってはいけないこと

①自殺の報道記事を目立つように配置しないこと
また報道を過度に繰り返さないこと

②自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと

③自殺に用いた手段について明確に表現しないこと

④自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと

⑤センセーショナルな見出しを使わないこと

⑥写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

*やるべきこと

①どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること

②自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと

③日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道すること

④有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること

⑤自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時は、慎重を期すること

⑥メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること

このように、「やってはいけないこと」を見ると、今回の上島さんの自宅前で中継を行うことや、自殺の手段について明らかにする報道は、明確なガイドラインに反した報道と言われる理由がわかるかと思います。一方で、著名人の自殺報道後に必ず差し込まれる「命の相談ダイヤル」の紹介は、ガイドラインのやるべきこと①に準じたものです。

先ほども説明しましたが、著名人の自殺報道後に自殺者が急増することがあり、この現象を『ウェルテル効果』といいます。反対に、メディアの責任ある自殺報道(ガイドラインを遵守した自殺報道)の保護効果によって、自殺関連行動の予防・減少につながることを『パパゲーノ効果』といいます(なお、パパゲーノ効果については、ウェルテル効果と異なり、繰り返し存在が実証されたものではないため、今後の研究によっては否定される可能性があることも付け加えておきます)

いずれにせよ、WHOはセンセーショナルな自殺報道による悪影響をはっきりと示しており、厚生労働省も本ガイドラインに沿って自殺報道を行うように各報道関係者に要請を行っているのです。

しかし、上島さんの死やそれ以前の著名人の自殺報道においては、しばしばガイドラインに反する報道が行われました。

そこで、次はどうしてガイドラインが守られないのか、考えてみようと思います。

ガイドラインを理解できていない報道機関と、PV至上主義

自殺報道のガイドラインがどうして守られないか、考えられる理由をまとめます。

今回の厚生労働省の再要請は、主に自宅前で中継等を行ったメディアに対して行われたものだと考えることができるわけです。しかし昨今は、著名人の死後、死因を強調した見出しをつけたネット記事がSNS等で広く共有されるようになり、その話題を避けていても突然自分の画面に強烈な文字が入り込んでくるようになった人も多いはずです。

ここで思い出して欲しいのが、冒頭に紹介した『ドゥームスクローリング現象』です。

人は、衝撃的なニュースを前にして生まれた悲しい気持ちや不安を落ち着けるために、より詳細な事実を知ろうとし、結果的にさらに悲しい事実をインプットして不安を大きくさせてしまうことがあります。また、ネガティブな情報の方が拡散されやすいSNSの特性も相まってしまい、結果として記事をたくさん閲覧してもらえることから、PV(閲覧数)を稼ぐためにあえて強い言葉を見出しにつける記者も存在します。

また、報道機関に関しても、『どうしてガイドラインが設定されているのか』『ガイドライン設定の経緯』について、深く専門的に学んでいる人が制作サイドにいない可能性が高いです。自殺報道後に形式的に「命の相談ダイヤル」を紹介してニュースを終了。

ここ数年見てきた光景ですが、もしもガイドラインを理解しているならば、津波の映像を流す前のように「視聴者が逃げる時間」も設けるなどをするはずです。

本来は「視聴者が逃げる時間」と「命の相談ダイヤルの紹介」はセットであるべきだと私は思っています。今の自殺報道は、まるで「私たちは最後に相談ダイヤルを紹介しているし、それで不安になっても私たちは悪くないですよ」と言わんばかりです。

また、忘れがちですが、遺族などの遺された人への配慮も必要でしょう。突然、大切な人が亡くなる衝撃は、報道でそれを知る私たちよりも大きいもののはずです。

気持ちの整理もついていない段階で、地面に落ちた飴に群がる蟻の如く殺到されれば、さらに心労は増えてします。

さらに、私たち自身も、著名人の自殺を報じる記事を安易に共有したり、拡散したりしないように気をつけなければなりません。善意がその人にとっては苦しみに変わる可能性があるからです。

このように、今回は自殺報道とその影響、また私たち自身も気をつけなければならない問題についてお話ししました。

なかなか触れられない話題である一方で、見る人の心に大きな影響を及ぼす話題であるからこそ、自殺報道の方法や手段については今後も議論を続けていく必要があると思います。

最後に、亡くなられた方のご冥福と、ご遺族や関係者の皆様が1日でも早く生活の平穏を取り戻せるようになることを祈っています。また、現在悩みなどを抱えている人も、まずは各所相談窓口を利用して欲しいと思います。

◆◆◆

【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 
0570-783-556(午前10時~午後10時)、
0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前9時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 
0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338 (24時間対応) 
岩手、宮城、福島各県からは 0120-279-226 (24時間対応)

【参考文献】
自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識(2017年版)

文/犯罪学教室のかなえ先生
2020年9月にデビューした、元少年院教官のVtuber。 登録者2.22万人(2022年3月末時点)。親しみやすい関西弁と幅広い学術領域を横断した事件解説が持ち味。特に、多くの犯罪者と関わってきた本人の目線から語られる事件解説は、その背景にある人間の弱さや社会問題への理解度が深まると定評がある。
YouTubeチャンネルはこちら

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