2022年の株式相場は波乱の幕開けとなった。2022年上期はネガティブなニュースが連日報じられたが、この先の相場をプロはどう読んでいるだろうか。マクロ経済や国内外のマーケットに精通する3人のアナリストたちに取材すると意外な視点も見えてきた。
2022年前半の株価の値動きはどうだった?
バブル期以来の3万円台をつけた2021年とは裏腹に、日経平均株価は2022年4月現在、上値が重い展開が続く。3月25日には、年初来高値2万8338.81円をつけたがすぐに失速してしまった。これまでに株価を動かしてきた材料は主に2つ。(1)米国の政策金利の利上げによる金融引き締め (2)ロシア・ウクライナ問題による経済混乱懸念だ。これらの背景には、コロナ禍への経済対策のための金融緩和策や、原油や小麦などの生産が多いロシアへの経済制裁によって供給不足や物流混乱による物価高・インフレ懸念がある。
また利上げする米国とは対照的に、ゼロ金利政策を継続することよって金利差の拡大が生じ、米ドル/日本円相場は円安が進行している。2022年4月28日には、20年ぶりとなる1ドル=130円台をつけ、その差がさらに広がる予測もある。日経平均株価を構成する企業は輸出企業が多く、円安になるほど為替益が大きくなりプラスの材料となるが、インフレによる原材料費の高騰が、利益を逼迫するという見方もある。株価が上下に振れやすい状況にあると言っても過言ではない中、経済のプロたちの考えを詳しく見てみよう。
企業の業績見通しが株価を左右する業績相場
ニッセイ基礎研究所 上席研究員
チーフ株式ストラテジスト
井出真吾さん
IMF(国際通貨基金)が2022年4月20日に発表した今年の経済成長の見通しは3.6%となった。
「ロシア・ウクライナ問題により下方修正となったが、その数値はプラスであるため景気後退局面とはいえません。今年は世界的に景気回復、経済成長が続くと見ています」と話す。
井出さんは今後の日経平均は企業の業績見通しが左右すると分析する。
「2021年も同じような状態でした。コロナ禍で先行きが不透明だった上期、企業は業績見通しを控えめに発表しましたが、その後の下期に向けた発表では、米国を中心とした予想以上の景気回復や、日本の高いワクチン接種率が業績見通しを押し上げました。その結果、日経平均株価が3万円台をつけたといえます」
2022年下期は、昨年とは状況が異なるが、ロシア・ウクライナ問題やインフレ懸念の不透明さから、2022年7月頃に第1四半期の決算発表とともに出る下期以降の業績予測は控えめかもしれない。しかし、「米国の金融引き締めペースの見通しが立った2022年10月頃に行なう中間決算発表以降、業績予想が強気になり、日経平均株価は3万円台をつけるかもしれません」と前向きな見解を示す。一方、「ロシア・ウクライナ問題の長期化や参議院選挙の結果、与党が過半数に至らずねじれ国会になった場合は、下がる可能性も当然あります」。
[2022年後半の株価予想]3万円台回復もあり得るか?
円安での輸出企業の利益が株価を左右する。市場心理は不安が残るものの、企業の利益が上がれば仮に不安要素が表面化しても下がりにくい。
〈2022年後半の注目ポイント〉
株価のサイクルで金融相場から業績相場へのシフトが進む
株価は下図のように4つの状態を遷移する。コロナ禍での経済緩和は「金融相場」だったが、それが終了し企業の業績に注目が集まる「業績相場」に遷移しつつある。
業績相場の本格化に注目
景気回復が続き、企業の業績とともに株価が上昇する。金融政策の引き締めが度を過ぎると、需要や雇用の悪化で株安を招く恐れも。
株価が下振れる一番のリスクは中国のゼロコロナ政策
三井住友DSアセットマネジメント
チーフマーケットストラテジスト
市川雅浩さん
2022年下期は株価が上にも下にも振れるイベントが多い。その中でも市川さんは、(1)インフレの抑制ができるか(2)中国・上海のロックダウン(3)参議院選挙(4)米国中間選挙の4つ、特に中国経済の動向には注視すべきと分析する。
「欧州はウィズコロナ政策で経済回復の道を歩んでいますが、中国はゼロコロナ政策で封じ込めに必死です。中国でのロックダウン地域が拡大すれば、ロシア・ウクライナ問題以上に、深刻な影響を日経平均株価に与えると見られます」
それ以外の3つの要素については、暴落するほどの不安材料ではないという。インフレに関し、「市場はすでに、夏場にかけて大幅かつ連続した米国の政策金利の引き上げを織り込んでおり、早ければ2022年第2四半期に、物価の伸びは前月比で鈍化し始めるでしょう」との見立てを示す。
経済政策に注目が集まりそうな参議院選挙や米国中間選挙に関しては、
「中間選挙でのバイデン政権苦戦は織り込み済みで参議院選挙も無難な結果が予想されるため、国内の波乱要因にはなりにくいと見ています」
また、円安が進む相場環境に対しては、「円安による原材料費の高騰は最終財にコスト転嫁ができない企業にとって利益圧迫要因ですが、業績全体としてはコロナ禍後の回復基調が続くと見ています」。
[2022年後半の株価予想]理論的に計算すると年末には3万800円!?
米国のインフレ鎮静化と中国の景気失速回避なら主要企業の純利益は前年比約10%増を予想。適正な株価水準も踏まえ計算した理論株価は3万800円となる。
〈2022年後半の注目ポイント〉
円安が必ずしも日経平均株価にプラスに作用するとはいえない
「2022年度の業績予想の前提レートは1ドル=114円。2022年4月より円高想定ですが、急速な円安がマイナスとなる企業も散見されそうです」(市川さん)
円安進行で日経平均はどう動くか
上図のドルと日経平均の関係では、1ドル115円突破以降、日経平均株価が下落する逆相関に動いているように見える。
自動車・サービス業の回復に期待する一方、米国のインフレには警戒を
2022年下期の日経平均株価のプラス材料は円安しかないが、その中でも、自動車産業とサービス業には期待が持てると小林さんは分析する。しかし、自動車産業の統計情報を手がけるマークラインズ社によれば、2022年1月の自動車生産台数は前年同月比約2割減となる51万台ほどと、回復傾向とはいえない。
「確かに世界的な半導体不足に加え、オミクロン株の影響で日本での工場稼働が縮小し、生産が下振れましたが、挽回しようと各自動車メーカーが動き出しています。サービス業はコロナ禍前の水準への完全回復にはほど遠いですが、飲食業、宿泊業、旅客運送業はポストコロナの経済正常化とともに、海外の観光客によるインバウンド需要も増えて業績が回復しやすいでしょう」
経済環境では、インフレの動向に「雇用」の視点で注目しておきたいという。予期せぬインフレは株価の急落を招きやすく、米国での下落が日本に波及し、日経平均株価の下振れ原因となりかねない。金融引き締めへと舵を切った米国の失業率は、2022年3月にコロナ禍前水準に戻った一方、人出不足が顕著で新規求人倍率は2.21倍と増加傾向だ。
「この人出不足が、インフレの根本原因でしょう。労働力の需給のバランスが崩れ、賃金が上昇した分が、販売価格へ上乗せされ、物価高を招いています」
[2022年後半の株価予想]自動車産業の動向次第では下落するリスクも
自動車産業は経済波及の範囲が広いので、挽回生産が行なわれなければ日経平均の回復はおろか、下落局面に突入するリスクを含んでいる。
〈2022年後半の注目ポイント〉
過度なインフレにならないか物価や雇用の指数を注視
インフレの状況がわかる米国の消費者物価指数(略称:CPI※)や、雇用統計の失業率や求人倍率をチェック。これらの上下振れが株価を大きく動かす。
米国の消費者物価指数に注目
2020年のコロナ禍以降、上昇傾向だが、金融引き締めが行なわれても上昇し続けると、企業のコスト増から株価には悪影響をもたらす。
※Consumer Price Index
取材・文/久我吉史
※掲載している情報は2022年4月28日時点のものとなります。
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文/DIME編集部