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【深層心理の謎】遅く歩くことを強いられるほうが混雑している場所を歩くよりストレスを感じる理由

2022.05.25

 家路に急ぐ人々の足取りは機敏だ。しかしある場所にきて、人々の流れが少しばかりスピードダウンした。前を歩く人との距離が縮まり、自分も歩みを緩めなければならないのだが——。

遊歩道で帰宅する人の流れがスローダウンした

 通勤通学時と帰宅時の駅前はそれなりに慌ただしい。歩く人々の流れがスピードアップして文字通りのラッシュアワーということになる。

 さいたま市某所からの帰路、京浜東北線からの乗り換えでやってきた田端駅をいったん出ることにした。今日は午前中から移動が続いていたので、夜風にあたって少し歩きたかった。

 もう夜7時半を過ぎている。帰宅する人々で駅前はなかなかの混雑ぶりだ。まるで自分も帰宅するかのように人々の流れに乗って広い陸橋の遊歩道に足を踏み入れる。

 ※画像はイメージです(筆者撮影)

 陸橋だけに沿道に店舗がない点も都合がいい。店があればどうしても人の流れは阻害されてくる。たとえば大型のショッピングモールでは通路がそれなりに広かったとしても、当然ながら買い物に来た人々の歩みはゆっくりになる。

 もちろん観光地と化しているような商店街はさらに人の流れはゆっくりになり、人の数も多いので身動きができない事態に追い込まれることになる。そうした状況をゆっくり楽しめる気質の人はいいのかもしれないが、自分としてはそういう場所はなるべくなら避けたい。

 新宿駅や池袋駅の地下構内などに比べれば、観光地の混雑などは可愛いものだとも言えるのかもしれないが、それでも駅であればまだ身体の自由が利くぶんだけはましのように思える。人を避けながら機敏に動けば自分の行きたい方へそれなりのスピードで向かうことができるが、観光地の混雑はそれが難しかったりもする。

 帰宅する人々の流れに乗りテンポよく通りを歩き続けていると、意外なことに少し歩行者の流れがスローダウンしてきた。前を歩く人のとの距離が詰まる。どうしようか。追い越してしまおうか……。

 前の人を追い越すことも視野に入れつつわずかに進路を変えると、反対方向からこちらに向かっている人が目に入り、断念して自分も歩みを緩めた。

 少し先の左側には、喫煙所の区画があって若干道幅が狭くなっている。また人々も喫煙所からは少し距離を空けて通り過ぎようとするので、人の流れの幅が狭くなってスローダウンを余儀なくされているようである。通行量が少なければ何の問題もなさそうだが、帰宅する人が多い今の時間帯ならこういうことも起き得るのだろう。

 喫煙所に出入りする人や、付近に立っているビラ配りの人もまた、人の流れの妨げになっているようだ。軽快に流れていた“人流”が少しばかり滞ったことで、ストレスを感じないかといえば嘘になる。追い越すこともままならず、大げさではあるが少しばかり自由を奪われた感じもしてくる。

ゆっくり歩くことを強いられると“混雑”を感じる?

 喫煙所を通り過ぎて少しすると案の定、前を歩く人の数は一気に少なくなった。我々がもたついている間にどんどん先へと行ってしまったのだろう。まぁ急ぐ理由は何もないのだが、前が詰まった状態から解放されると歩く速度は自然にあがってくるし、身体がより自由になる。観光地的な混雑から解き放たれてひとまずホッとする。

 感じ方は人ぞれぞれかもしれないが、自分はなぜ観光地の混雑よりも駅の雑踏のほうがまだましであると感じているのか。最新の研究では人が混雑を感じる決め手となっているのは、人口密度よりも歩くスピードにあることを報告していて興味深い。我々は遅く歩くことを強いられる場所によりストレスを感じ、実際の人数にあまり関係なく“混雑”した場所だと見なしているというのである。


 公共スペースやその他の人の往来が考慮される場所を設計する場合、設計者や建築家は人々が空間の問題をどのように認識しているかを知る必要があります。

 群集密度が高いほど、スペースは混雑していると一般に考えられています。

 しかし新しい研究によれば慌ただしい空間についてどのように感じるかについて、歩行速度は群衆密度よりも実際に大きな役割を果たしていることが示唆されています。

 また年齢と性別は、閉鎖空間がどのように混雑していると感じるかについての当人の認識に影響を与えるようです。

※「The University of Tokyo」より引用


 東京大学、京都工芸繊維大学、電気通信大学の合同研究チームが2022年5月に「Transportation Research Part F: Traffic Psychology and Behaviour」で発表した研究では、実験を通じて歩行者エリアで知覚される“混雑”は、ゆっくり歩かされることから来ている可能性を報告している。“混雑”を感じるのは単純な人口密度ではなく、遅く歩かされていることのほうがより重要なファクターであるというのだ。

 実験参加者は段ボールの箱を積み重ねて壁にした幅3メートル、長さ8メートルの通路の入口から出口までを何度も歩き、研究チームはカメラとモーショントラッキング技術をって人々の動きを記録した。入口は通路の幅と同じく3メートルだが、出口は70センチと狭く、また通路の途中には位置とサイズを随時変えた障害物が置かれて実験が繰り返された。

 通路の通行に加えて、参加者たちはそれぞれの通行でどれほどの“混雑”を主観的に感じたのかを質問票に記入して報告した。

 通路の通行という定量的データと、主観的な“混雑”の感じ方という定性的データの関係が探られたのだが、研究チームの分析の結果、通路内の人口密度よりも歩行速度のほうが、通行者に“混雑”を感じさせていることが突き止められたのだ。より遅く歩かされるほどこの通路が“混雑”していると通行者に感じられていたのである。

 ゆっくり歩くことを強いられるということは、それだけ身体的自由を奪われていると感じる拘束感に繋がっている。したがって自分の普段の歩行スピードとのギャップが著しい者のほうがより拘束感を感じ、自由を奪われている感覚に陥ることになる。

 そのため比較的歩行スピードが早い成人男性のほうが、もともとゆっくり歩く女性や高齢者よりも拘束感を強く感じやすくなる。お年寄りやおしゃべりしながら歩く女性が観光地での混雑をあまり苦にせず、一方で自分のような成人男性がより自由を奪われていると感じて避けたくなるのは、このようなメカニズムからもきていそうだ。

金目鯛の煮付けを“自由”と共に味わう

 遊歩道の末端付近まで進み、陸橋の下に通じる階段を降りる。階段を降りると二車線の通りが左右に延びている。ほぼ住宅街といえる通りではあるが、飲食店の明かりもいくつか見える。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 そういえば前にこの界隈に来た時に入ったお店で、また来てみたいと思った所があった。丁度夕食時であるし、行ってみることにしよう。

 交番の前にある信号を待ってから通りの反対側へ渡り、そのまま路地の奥へと進む。目当ての店があった。前回来た時はコロナ禍の“時短”で昼しかやっていなかったが、今はこの時間も営業している。

 店先のボードや展示物におすすめのメニューが数多く記されているのだが、その中でも目を惹くのは美味しそうな写真付きで展示されている「金目鯛の煮魚定食」だ。金目鯛なんて久しぶりだ。入ろう。

 あくまでも自分は食事目的なのだが、“時短”もなくなった夜の食事であるし、ハイボールを注文することにした。そしてもちろん、金目鯛の煮魚定食もオーダーする。

 伊豆の海産物をフィーチャーしたお店ということで、いかにも呑兵衛が好きそうなメニューが揃っている。店内は広くござっぱりとしたフードコートのようなインテリアで、女性でも入りやすい雰囲気だ。実際、隣のテーブルですでにグラスを傾けながらおしゃべりに花を咲かせているのは女性2人連れである。

※画像はイメージです(筆者撮影)

 ハイボールに続いて金目鯛がやってきた。煮込まれた鮮やかな赤い表皮の切身が見るからに美味しそうである。長居をするつもりもないのでさっそくいただこう。

 軟らかい身を箸で分けてひと口頬張る。期待通りの味だ。少し味わってからはご飯も頬張る。金目鯛の刺身ならアルコールだが、煮付けの場合はやはりご飯だ。合間にハイボールのジョッキを傾けながら休むことなくどんどん食べ進めていこう。

 金目鯛を伊豆で食べたことはたぶんないと思うのだが、かつてバイクツーリングでよく訪れていた千葉県内房の保田漁港の食堂で何度か食べた握り寿司に、金目鯛のネタがあったことを思い出す。もちろん美味しかった。

 刺身や寿司であれば金目鯛を食べる機会もそれなりにあるが、煮付けに関しては意識的に食べようと思わなければありつくことができない。少し調べてランチで金目鯛の煮付けが食べられる身近なお店を探しておいて訪れる機会を窺ってみてもいいのだろう。

 ほんのひと昔前は夕方に店先で魚を焼いている魚屋や総菜屋なども街中の商店街では珍しくなかったのだが、ご存知のようにそうした店はどんどん減ってきている。惣菜で煮魚を出す店も同様だ。魚の煮付けなどをリーズナブルに食べられる場所は、高級な料亭などを除けば、今後も減りこそすれ増えることはないのだろう。

 金目鯛の煮付けをいつでも食べられる“自由”は、はたして我々に今後もあるのだろうか。混雑した場所で身動きできない感じにも似た、金目鯛を食べられない“不自由”を味わいたくはないものである。

文/仲田しんじ

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