音楽を聴きながら眠る。しかし、これから睡眠という段になってイヤホンを着けるわけにもいかないだろう。
では、スピーカーにつなぐのか? 一人暮らしならともかく、家族がいる場合は周囲に迷惑をかけてしまう。さて、どうしたものか……。
この記事で紹介する『Bonio』は、何と枕の下に敷いて使用するワイヤレススピーカーである。
睡眠導入目的の音楽を聴くスピーカーとのことだが、仕組みはどうなっているのだろうか?
睡眠のためのワイヤレススピーカー
筆者が20代の頃に「骨伝導ケータイ」というものがあった。
これは鼓膜に働きかける空気振動式ではなく、骨や皮膚を通じて聴覚器官に直接作用する骨伝導式の通話スピーカーを採用していた。
故に、向こうからの声がクリアに聞こえるというわけだ。
『Bonio』もこれと同じ骨伝導式で、耳を塞がずに音楽を視聴できるという特徴を有している。
冒頭に書いた通り、これを枕の下に敷いて稼働させる。そのような仕組みだから普段遣いの音響機器として利用するのは難しいが、睡眠導入用であれば他のスピーカーよりも優れた機能を持っている……ということだ。
なるほど、よく考えたもんだ!
パンデミック以後、「睡眠を促す製品」がよく売れているのは筆者も知っている。
パジャマ、枕、マットレス、アイマスク等々。これは「コロナ疲れ」が背後にある。
外出できない日々が続くと、むしろ疲労が蓄積してしまう。巣籠もりも決して楽ではない。
それを効率よく解消する製品に、大衆の可処分所得が向けられたということだ。
「睡眠用ワイヤレススピーカー」なるものが開発されるのも、時代の必然かもしれない。
「疑惑のピアニスト」の名盤を聴く
というわけで、実際に試してみよう。
『Bonio』は長さ111mmのスティック形状。とてもスピーカーには見えない代物だが、騙されたと思って枕の下に敷いてみる。
スマホとはBluetoothで接続できるが、micro SDカードのスロットも用意されている。
とりあえず筆者は、自身のiPhoneにつないでAmazon Musicを開く。今回はジャズピアニストのアル・ヘイグのアルバム『Invitation』を流してみよう。
アル・ヘイグは、40年代後半に隆盛を極めたビバップ・ジャズの代表的ピアニストだった。
白人のジャズピアニストといえばビル・エヴァンスが有名だが、実はエヴァンスよりヘイグのほうが7歳も年上で、キャリアのスタートもヘイグが先んじている。
「ビバップ黄金期を牽引した白人ピアニストは誰?」と聞かれれば、やはりアル・ヘイグと答えてしまう(この時代の有名ジャズピアニストは黒人が多数派)。
ところが、1982年まで生きたヘイグのキャリアには大きな空白期がある。
50年代後半から『Invitation』収録の1974年まで、ミュージシャンとしての目立った活動をしていない。そしてこの間、ヘイグは3番目の妻を殺害した容疑で起訴されている。
裁判は証拠不十分で無罪となったが、この騒動は今でも「ヘイグがやったのでは?」と囁かれている。実際に妻の殺害をほのめかすような発言も、ヘイグの口からあったらしい。
が、ミュージシャンとしてのヘイグは死ななかった。『Invitation』収録を機にカムバックし、以前よりも都会的なメロディを繰り出すようになったのだ。
Amazon Musicを契約している人は、ぜひ「Al Haig Invitation」と検索していただきたい。
ジャズを知らない人がこれを聴くと、本当に50年前の楽曲なのかと疑ってしまうほどの洗練具合である。
そしてこのアルバム、消灯後の夜中に聴くと心洗われるような気持ちに陥ってしまう。
『Bonio』を使うと、ヘイグのピアノの「響き」が程よく脳に伝わってくる。
この感覚を、どのように文章にすればいいのか。枕の上に頭を乗せ、ヘイグのピアノを聴いているうちにいつの間にか別世界に落ちて、やがて現実世界の朝を迎えている……といった感覚だ。
『Bonio』の連続再生時間は約6時間。朝になる頃には電池が枯渇しているが、どうせ利用するのは一晩の間のみ。再充電して次の晩に備えておけば問題ない。
明日を力強く生きるためのガジェット
いかんせん枕越しだから、あまり大きな音が流れてこないのでは……という不安の声もあるかもしれない。
が、これから就寝しようという場面で使うのだから、大音量でガンガン暴れまくるようなスペックは一切必要ない。
とにかく、「寝るための音量」に上手いこと調整されているのだ。こればかりは実際に体験しないと分からないことではあるが……。
そんな『Bonio』は現在、クラウドファンディングGREENFUNDINGで出資を募っている。
出資者からの応援コメントを見てみると、「音楽をかけながら寝ているけれど、家族に迷惑をかけてしまう」という声がいくつかある。
「考えることは皆同じ」ということか。しかし『Bonio』があれば、そうした悩みを解消できるというのは筆者が実証済みだ。
睡眠は、最も手軽に実施できるストレス解消法でもある。
「より快適な睡眠」を求める行為は、人間の本能の表れではないか。『Bonio』は5,920円からの出資枠を設けているが(5月23日現在)、明日を力強く生きるための出資と考えれば決して高額なものではないはずだ。
「骨伝導式」「ワイヤレス」という現代テクノロジーが成し得た快眠ガジェット。今後も注目するべき製品と言えよう。
【参考】
骨伝導の力で快眠をお届け! 枕の下に置くだけで音楽を楽しめるミニスピーカー「Bonio」-GREENFUNDING
取材・文/澤田真一