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三島市の老舗ホテルがクラウドファンディングで成功した練乳いちごサンドの開発秘話

2022.05.26

2020年を境に、トレンドは大きく変わった。無論それは、パンデミックの影響によるものだ。

海外旅行どころか国内旅行すらもできなくなり、我々は自宅での「巣籠り」を余儀なくされた。

COVID-19に対するワクチンの投与が進んだ現在も、「あまり遠出はしたくない」と考える人は少なくないのではないか?

ならば、旅行に振り分けるはずだった可処分所得を「美味しいもの」に振り分けてみよう。

地元産の材料を使ったいちごサンド

静岡県三島市。ここは江戸時代には東海道の宿場町として栄え、地方カレンダーの「三島暦」の頒布地としても有名である。

古い町であることは確かだが、それと同時にどこか開明的というか、常時換気されているような雰囲気が見受けられる。

歴史のある町は何かしらのきっかけで閉鎖的になってしまうこともあるが、三島に関してはそういう気配は一切ない。

極端な話、明日世界が滅亡するとしても三島のこの朗らかな雰囲気は変わらないだろう。

今回は三島の中心街にある『みしまプラザホテル』にやって来た。

明治22年創業のこの施設は、時代の流れに合わせて旅館から近代的なホテルへと転換した歴史を持つ。そして2020年から始まった「感染症との戦いの時代」においても、みしまプラザホテルは大転換を実施した。

「今月でちょうど1年になりますね。ホテルの1階を改装してテイクアウト販売も行うカフェをオープンしたのは」

みしまプラザホテルの館内にあるカフェ『Meyci』。

筆者は同ホテル経営企画室の渡邉香代子氏とテーブルを挟んでいる。

「今回、応援購入サービスMakuakeに出品したいちごサンドは静岡県産のものをたくさん使っています。いちごは伊豆韮山の紅ほっぺ、練乳は三島にある日清煉乳さんの製品です」

地元のものを生かして全国に販路を広げる。これはもちろん、パンデミックの影響を多大に受けたからこその決断でもある。

2020年4月に1回目の緊急事態宣言が発布された時、静岡県熱海市と神奈川県湯河原町の県境では「いまは静岡にこないで」という看板が設置されていた。これはSNSでも「国境封鎖」「静岡ロックダウン」と話題になったが、パンデミックは静岡県下の旅行関連業者を大いに苦悩させたことは事実だ。

が、苦悩は「新製品の種」でもある。みしまプラザホテルは地元産の材料を使ったいちごサンドを開発し、それをMakuakeに出品したのだ。

上品な甘さが口内に

「Makuakeでプロジェクトを公開したら、あとは出資が集まるように宣伝しなければならないと思いました。チラシを作ってMeyciを利用していただいているお客様にも告知して……という流れのはずだったのですが、実は……」

渡邉氏は苦笑しながら、「それをやる前に、プロジェクトの目標金額を達成してしまいました。公開から僅か2日後のことです」と、説明した。

「Meyciに来てくださるお客様にいちごサンドを告知する前に、ネットで有名になってしまいました」

筆者は今に至るまで、クラウドファンディングで資金調達した地方の企業を取材し続けている。

「プロジェクトのことを近所の人に知らせる前に、ネットで話題になってしまった」という現象はよくあることだ。

そうなると今度は広報ではなく、生産計画について練らなければならなくなる。いちごサンドの場合は6個入1セット1,800円と2セット3,000円の超早割枠があっという間になくなり、急遽用意した追加分にも出資が舞い込んだ。

この記事を執筆している5月13日現在で確認できるのは4,400円の「最終追加6個入×2セット」と、1万5,000円の「6個入×1セット&ホテルでのせせらぎ鰻会席」、2万4,000円の「6個入×2セット&割烹菱屋謹製和風おせち4人前」。

が、それらも順調に出資者を集めているため、この記事が配信される頃には満員御礼になっている可能性がある。

このいちごサンドは機械的な量産ができないため、どうしても数量限定になってしまうのだ。

さて、筆者が渡邉氏とざっくばらんな取材を繰り広げていると、調理白衣を着たひとりのパティシエがMeyciにやって来た。いちごサンドの製造を担当する内田雪乃氏だ。

華やかなホテルで働くに相応しい明るい笑顔の持ち主は、「約1年の試行錯誤を重ねていちごサンドを完成させました」
と、話した。

そして筆者の目の前には、内田氏の手がけたいちごサンドが皿の上に乗っている。作った本人と会話しながらそれを食べるという光栄に、筆者は恵まれてしまったのだ。

舌が溶けるような美味だった、と書くべきだろう。

口内の隅々に至るまで上品な甘味が伝達していく。三島は日本の練乳製造発祥の地だそうだが、それ故に「日本人の琴線に触れる甘さ具合」をよく理解しているらしい。

美味い。本当に美味い。もしかしたら自分は、この甘味と出会うために生まれてきたのではないか。生きてる喜びを嚙み締めた瞬間でもある。

三島の土地柄

三島という都市の雰囲気は、そこに集まる人の性格によるものだと筆者は解釈している。

今回の取材記事を@DIME編集部に提案した直後のことだ。アメリカのノーマン・ミネタ元運輸長官が亡くなったというニュースが飛び込んできた。

ミネタ氏は少年時代に日系人強制収容所に入れられ、その経験から人種マイノリティーの地位向上に己の生涯を捧げた。

日系人強制収容に対する謝罪と補償を定めた「市民の自由法」にロナルド・レーガン大統領が署名した際、ミネタ氏はそこに居合わせた。

そのミネタ氏の父は清水町、母は三島市の出身である。苦難をある種のしたたかさに変換し、それを明るく自由な未来のために生かすという行動原則は、このあたりの地域に由来するものではないか。

時計の針は戻すことはできない。しかし……いや、だからこそ人は前を向いて歩き続けなければならない。

新しい時代の新しいビジネスを確立するための発想が、地方都市で見事に花開いている。

【参考】
静岡発!明治創業ホテルのこだわり伊豆いちごと三島発祥練乳のいちごサンドを全国に!-Makuake

取材・文/澤田真一

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