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最近話題の「忘れられる権利」とは?プライバシーに関する最高裁の考え方

2022.05.25

インターネットの検索エンジンでは、ポジティブ・ネガティブを問わず、さまざまな内容の情報を検索できます。

たとえば、不祥事や犯罪歴などが一度インターネットで拡散されてしまうと、完全に削除することは不可能であり、半永久的にその事実が公開され続けてしまいます。この現象は「デジタルタトゥー(=刺青)」などと呼ばれることがあり、本人のプライバシー侵害に当たり得るものとして問題視されています。

こうした状況の中で、近年注目されているのが「忘れられる権利」です。日本では法制化が進んでいない状況ですが、2017年に最高裁が、忘れられる権利について注目すべき考え方を示しています。

今回は、忘れられる権利の概要や問題点、忘れられる権利に関する最高裁判例の考え方などをまとめました。

1. 「忘れられる権利」とは

「忘れられる権利」とは、自身の過去に関する情報につき、保管者に対して削除等を求めることができる権利です。

特に、検索エンジンにおける検索結果等の消去を求める権利として、忘れられる権利が注目を集めています。本人のネガティブな情報に対する検索エンジンからの流入を防ぐことで、デジタルタトゥーの弊害を軽減できる可能性があるためです。

忘れられる権利に関する法整備は、特にEU域内を中心に進んでいます。個人情報の取扱いルールを定める「EU一般データ保護規則(GDPR)」では、「消去の権利(忘れられる権利)」についての規定が設けられるに至りました(GDPR17条)。

これに対して、日本では忘れられる権利に関する法整備は必ずしも進んでいませんが、2017年の最高裁判例によって一定の判断基準が示されています(後述)。

2. 忘れられる権利を認めることの問題点|表現の自由・知る権利との衝突

忘れられる権利を認めることには、本人のプライバシー保護の観点から大きなメリットがあります。

その一方で、忘れられる権利に基づき検索が削除され、閲覧者が情報にアクセスすることが困難になった場合、表現の自由や知る権利が阻害されるおそれがある点に注意が必要です。

特に政治家などの公人を中心として、世間一般の批判に正しく晒されるべき人については、忘れられる権利をどこまで認めるべきかの慎重な判断が求められます。

3. 忘れられる権利に関する最高裁の考え方

忘れられる権利に基づく検索結果の削除が認められるかどうかに関しては、2017年1月31日に言い渡された最高裁判決において、一定の判断基準が示されました。

明確な立法が存在しない現段階では、今後忘れられる権利に関する問題が発生した場合、同最高裁判例の基準に沿って検討を行うべきと考えられます。

3-1. 児童買春の逮捕・処罰歴に関する検索表示が問題に

同最高裁判決の事案では、過去に児童買春等の罪で逮捕・処罰された事実がGoogle検索上で表示されることにつき、本人がGoogleの運営会社を相手に検索結果削除の仮処分を申し立てました。

過去の犯罪歴は、本人にとって他人に知られたくない事実に違いありませんが、犯罪抑止等の観点からは公表すべき事実とも考えられます。本件では、プライバシーと検索エンジンによる情報流通のどちらを優先すべきかが争点となりました。

3-2. 忘れられる権利を認めるかどうかの判断基準

最高裁は、本人のプライバシーに関する利益が法的に保護される一方で、検索エンジンが情報流通基盤として大きな役割を果たしていることなどを指摘しました。

そのうえで最高裁は、

「プライバシーに属する事実を公表されない利益が検索結果を提供する理由に優越する場合、検索結果の削除を請求できる」

という比較衡量の基準を提示しました。

なお、比較衡量の際の考慮要素として、最高裁は以下の事情を挙げています。

・プライバシーに属する事実の性質および内容
・検索結果が提供されることによって、プライバシーに属する事実が伝達される範囲
・検索結果が提供されることによって、本人が被る具体的被害の程度
・本人の社会的地位や影響力
・リンク先の記事等の目的や意義
・リンク先の記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化
・リンク先の記事等においてプライバシーに属する事実を記載する必要性

3-3. 最高裁の結論|削除請求を却下

最高裁は、以下の事情などを重視して、申立人の請求を却下する原審(高裁)の決定を支持しました。

・児童買春は社会的に強い非難の対象であり、罰則をもって禁止されていること
・検索キーワードの内容を考慮すると、情報伝達の範囲がある程度限られていること

なお最高裁は、妻子とともに生活している、処罰後は罪を犯すことなく民間企業で稼働しているなどの事情から、申立人に犯罪歴を公表されない法的利益があることも指摘しています。

しかし、検索結果を通じて情報流通を確保する理由(必要性)が、犯罪歴を公表されない法的利益を上回るという判断になりました。

本件では、上記のような検討の末、検索結果の削除請求が却下されました。

しかし、本人のプライバシー保護の要請がより強力に存在する場合や、検索対象となっている事実が犯罪ではなくゴシップに過ぎない場合などには、検索結果の削除が認められる可能性もあると考えられます。

取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
https://abeyura.com/
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