トム・クルーズをハリウッドのトップスターの座へと導いた映画『トップガン』、その36年ぶりの続編『トップガン マーヴェリック』が完成し、度重なる公開延期を経て、ついに公開される。その驚きの中身とは?
伝説のスカイアクション、その続編がスクリーンに!
「で、トム・クルーズっていま何歳なわけ?」
大画面に映し出される映画『トップガン マーヴェリック』へ完全に心を射抜かれながら、そんなシンプルな疑問がなんども頭に浮かんだ。それはこの映画の主人公マーヴェリックとして映画の中心に立ち、白い歯を見せながらニカっと破顔するさまが、‟あの頃”と全然変わっていないように思えたから。もちろん顔にはしっかりとシワが刻まれ、念入りに身体を鍛え上げても、どうしたって若者のパツンパツンに張った筋肉には及ばないかもしれない。
でも彼が映画の中心に立ったときにスクリーンから放たれるなにか、‟スターオーラ”と呼ぶしかないようなまぶしいほどの輝きが、なにも損なわれることなくそこにあるのが驚きだった。そして映画を観終えて劇場をあとにしながらスマホですぐに検索し、「…59歳、ってウソでしょ!?」とまた驚いたのは、その場にいた一人や二人ではなかったはず。トム・クルーズの最新主演作『トップガン マーヴェリック 』は、いろんな意味で驚きを連発させる映画なのだ。
1986年に公開された『トップガン』は、ある年齢以上の人間にとって本当に特別な映画だった。
劇中でトム・クルーズが身に着けていたワッペンだらけのフライトジャケットは大流行し、滑走路をぶっ飛ばす戦闘機のスピード感を加速させるケニー・ロギンス「デンジャー・ゾーン」や、ヒロインを演じたケリー・マクギリスとの甘~いラブシーンを彩ったベルリン「愛は吐息のように」などの楽曲が街に流れるのを何度となく耳にした。80年代のイケイケな時代の空気感も相まって映画は大ヒット、トム・クルーズは一躍ハリウッドを代表するスターの仲間入りを果たす。
その36年ぶりの続編だ。オリジナルの印象が強かっただけに、それ大丈夫?という不安がないわけではなかった。一方で、観ないわけにはいかない!という思いが揺るぎなかったのも確か。振り返るとそれはやっぱり期待感だったのだろうが、案外そういうことは珍しい気がする。
あの名シーンも復活
映画『トップガン マーヴェリック』で、トム・クルーズ演じる主人公のマーヴェリックはあれから30年以上もアメリカ海軍に所属し続けている。組織に収まりきらない無謀さはそのままに、テストパイロットとして最新鋭の戦闘機で限界突破を試みる日々。そんな彼がなんやかんやあって、米国のエリート・パイロットチーム「トップガン」に教官として帰還することに。極秘ミッションへと身を投じていく。
映画が始まってごく前半、夕景のオレンジの光のなか、レイバンのアビエーターサングラス(→例のヤツ!)をかけ、あのフライトジャケットを着てカワサキのバイクにまたがり、滑走路を行く戦闘機「F/A-18」と並走するシーン。うひょ~という感じで髪をなびかせて走るトムの姿に、ああこれこれ! と、まず最初に心の中で膝を打った。あの「デンジャー・ゾーン」のワクワクなメロディが、『トップガン』を観る気まんまんなこちらのツボをぐりぐりとついてくる。
オリジナルの前作を撮って一気に名を挙げたトニー・スコット監督は既に、10年も前にこの世を去っている。そこで新たに『オブリビオン』(2013年)でトム・クルーズと組んだジョセフ・コシンスキー監督が指名されたわけだが、もし今回もトニー・スコットが監督をしていたら、こんなふうに堂々と嬉しそうに、前作へのオマージュは表現しなかったかもしれない。
そう思うと観客としては、ラッキー!みたいな気になる。そして演じているトム・クルーズの笑顔もつくりものとは思えない、うひょ~という喜びに満ちるよう。これがコシンスキー監督がこの映画で最初に撮影したシーンらしいから、トムも監督も、「なんか俺ら『トップガン』やってるよね!」みたいにノリノリだったのかも?そんな妄想も楽しい。
マイルズ・テラー演じるブラッドリー・ルースター・ブラッドショウ。
永遠の爽やか青年、トム・クルーズ
今回、物語の軸となるのはマーヴェリックと、ブラッドリー・ルースター・ブラッドショウ中尉の対立。『セッション』のマイルズ・テラー演じるルースターはオリジナルに登場したマーヴェリックの亡き親友グースの息子で、トップガンに所属するパイロット。「父はあんたを信じた。だから死んだ」とマーヴェリックに詰め寄る。
ヒロインは、パイロットたちが集まるクラブ「ハード・デック」を切り盛りするシングルマザーのペニー・ベンジャミン。マーヴェリックとはどうやら訳アリでなにかと縁があるらしく、最初から二人はとてもしっくりきている。ペニーはちょっと生意気な女の子を育てるシングルマザーでもあって、いろんな意味で自立していて、二人の恋のあれこれは安心して観ていられる。
そんなペニーを演じるジェニファー・コネリーの功績は大きい。ペニーがウェービーなさらさらヘアを風になびかせて立つ姿がもうステキ。オバちゃん感ゼロ。それでいて、そんなペニーの恋の相手をトム・クルーズが演じるから、そこに特別ななにかが生れると思える。うっとりとした至福の時間を過ごしたあと、「娘が帰ってきた!最初のデートで許したと思われたくないの」とか言って、窓からマーヴェリックを追い出すペニー。
「おいおいおい…参ったね」という感じで、苦笑いしながら夜の闇にまぎれるマーヴェリックを演じるトムを見ながら、こんなシーンが似合う還暦手前の俳優が他にいる!?と思ってしまう。彼のこの、いくつになっても青年!みたいな爽やかさはなんなのだろう?彼以外には今年68歳(!)というジャッキー・チェンくらいしか思い浮かばない。
いや、トムとジャッキーが似ているという話ではない(似てないし)。彼はこの映画で、一瞬にして80年代から90年代にかけての‟あの頃”を蘇らせた。リチャード・ギアとかデミ・ムーアとかジュリア・ロバーツとか、われわれが生きているこの現実とは遠い遠い世界にいて、スクリーン越しにキラキラした輝きを放つハリウッドスター。彼らの姿を観るために、映画館の暗闇にワクワクしながら身を浸した日々を、ほんと~に久しぶりに思い出した。
危険と隣合わせの日々を生きる格好良くてちょっと無茶な主人公、胸熱な友情、うっとりさせるステキな恋、物語そのものを加速させるスピーディなスカイアクション、そしてノリがよかったり心を振るわせたりする極上の音楽。それでもふと、マーヴェリックらの標的って…等と考え、シャレにならない現実が脳裏をかすめて意識がスッと映画から遠のくこともあるかもしれない。
でも、いやいやありえないから!といつもならツッコミたくなる映画のウソも、なんか格好いいし!みたいに受け入れてしまっていることに気づく。そうそう、映画って楽しいよな~、みたいな気分で満たされている。
なんだかトム・クルーズが、あの頃のハリウッド映画にあったなにかをひとりで持ちこたえているよう。そのこと自体が大きな驚きなのだが、この映画は決して懐古趣味ではなく、今という時代のなかでイキイキと呼吸している感じがする。‟あの頃”を知らない年代にとっては、むしろ新しい映画体験になるかもしれない。
(作品データ)
『トップガン マーヴェリック』
(配給:東和ピクチャーズ)
●監督:ジョセフ・コシンスキー ●脚本:クリストファー・マッカリー ●製作:ジェリー・ブラッカイマー、トム・クルーズ ●出演:トム・クルーズ、、エド・ハリス、マイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー、ヴァル・キルマー ●5月27日より全国公開
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文・浅見祥子